残り香と折れない羽 16

〜はじめのお詫び〜
正直、平日にこれだけ書くのはかなりきついんですが、なんとか早く終わりまで書きあげないと。
続きも同じペースで書けるかは不明です。ごめんなさい

BGM:Con Te Partiro

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日が変わっても、夜になってもセイの眠る傍らにずっと総司はついていた。さらりと額を撫でる。

「貴女は……どうして素直に守られてくれないのかな……」

その答えも分かっている。
きっと、ただ守られるだけの人だったらセイではない違う人になっていただろう。

これがただ、恋していただけの頃の自分なら、間違いなくセイを離隊させて、自分の知らない場所へ追いやって自分だけは彼女の思い出だけで生きて行ったはずだ。
でも、愛していると、必ずこの手で守ると思った時、もうどれだけ危険でも、どれほど、泣かせることになっても、離さないと誓った。
自分達は、どれほどの苦しみがあっても、お互いの最後の瞬間まで共にあるために。

 

決して、この手を離しはしない。

だから、貴女の痛みも、苦しみも、悲しみも私が一緒に背負うのだと、触れた指先から伝わればいい。

 

眠ることなく、セイの傍らにいた総司の手がセイの頬に触れた時、その想いが伝わったように、セイが目を開けた。
目が彷徨って、傍らにいる総司を探す。

「ここにいますよ」

セイの顔を覗き込むように、総司は優しく呼びかけた。安心したのか、子供のような顔でセイはにこっと笑った。

「……夢かと思いました……」
「変な夢でも見ましたか?」
「ええ。なぜだか、叱られて置いて行かれるんです、沖田先生に。すごく悲しくて必死に先生を探してたら、隣に総司様が立ってて、今みたいに、ここにいますよって言ってくださって……すごく嬉しくてよかった、って思って……。ああ、私変なこと言ってますよね」

夢の話と混乱したのか、たどたどしい話しぶりにセイは自分自身で呆れてしまった。くすっと笑った総司が、枕もとの吸い飲みから、少しだけ水を飲ませた。

「どこにも行きませんよ」
「嘘ですよ。大阪に行かれてたじゃないですか」
「あれは仕事じゃないですか」

自分で言いながらも笑いだしたセイに総司が答えると、セイは手を伸ばして総司の指に絡めた。

「でも、寂しかったんです」

セイのその言葉が、総司には『怖かったんです』と聞こえた気がした。もう二度とこんな思いはさせない、とは言えはしない。そんな場所にあえて身を置いているのは重々セイとて分かっているだろう。
だから、“怖かった”ではなくて“寂しかった”といったセイに、ただ総司は優しく微笑みかけた。

「困った人ですね、貴女は」
「だって……。あ……!」
「なんです?」

ふふっとセイが笑いながら総司の手を引いた。セイが絡めた手を自分の口元に引き寄せて、ほぼ二日遅れの言葉を口にした。

「お帰りなさいませ」

一瞬、呆気にとられた総司が、照れくさそうにただいま、と応えた。体を横向きにしたセイが、う、と顔をしかめる。

「大丈夫ですか?」
「ええ。だってお腹以外はいたって元気なんですよ。あんな風に副長室で倒れるなんて、後で鬼副長になんて言われるか……。それに、なんだかすごく痛くて、いっぱい寝ていた気がする……」
「そりゃそうですよ」

徐々に、記憶が繋がっていくのか、セイが次々と口にしはじめた。それだけ意識もはっきりしているのは、少しは回復したからなのだろうか。

「もう今夜は遅いですけど、明日になれば松本法眼からお話があると思いますよ。それまで我慢して横になっていてくださいね」
「え……。て、今いつですか?!私、どれくらい寝てるんですか?」
「って……。私が大阪に出た日の夜に襲われたんだとすると、たぶん四日目ですかね」

指折り数えた総司は少しだけ自信なさそうにしながらも、たぶん、といった。それを聞いたセイが驚いた。
総司の戻りが早いと思っていたら、本当はそんなに日がたっていたなんて思ってもみなかったのだ。

「大変!私、鍵のことも何も言ってませんでしたよね!何もありませんでした?」

セイの中では四日も経過したつもりではなかったのだろう。目を覚ましてすぐ、総司に必死で伝えたことは、薬ですぐ眠ってしまったせいで覚えていないのか混乱しているらしい。

「大丈夫ですよ。私が出張から戻ってすぐにここにきて、貴女から鍵の場所を聞いたじゃないですか。それと、隠し場所を変えたこともね」
「そ……うでしたっけ……。なんだか日の感覚がなくって……」
「仕方ないですね。目が覚めるたびに診察されて薬を飲まされてすぐにまた眠っていたみたいですからね」

総司の言葉を少しずつ聞きながら、次々と思い出したのだろう。

「総司様、私……」

言いかけたセイの口を総司の指が軽く触れて止めた。

「さすがにもうそろそろ話はお終いですよ。眠ってください。目が覚めればまた少し元気になります」

これだけ寝たのだからそんなにすぐには眠れない、と思ったセイだったが、逆らわずに瞼を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきて、再び夢の中に落ちて行った。

 

総司は、眠るセイの姿を見ながら、少しだけ安心したのか、壁に背を預けると目を閉じた。
これほど、一日一日が長いと思った事はなかったと思った。

 

 

翌日、松本と南部は朝を済ませると、セイを揺り起こした。

「どうだ、塩梅は」

あまりにひどい顔に、顔を洗って朝餉と取ってこいと部屋から総司を追い出したあと、診察にかかっていた。
手当のせいか、腹の腫れはだいぶ収まり、おそらく内部での出血はほとんど止まったように思われた。あとは、体外に溜まった血が排出されてくるのを待つばかりだ。

当然、腹はまだ痛むので、セイは痛みにうめきながら顔をしかめた。

「まだ、ずいぶんと痛いですけど」

手当が終わると、起き上がれるなら起き上がっていいと言われて、セイは松本の手を借りてようやく上半身を起こした。ずっと横になっていただけに起き上がれるだけでだいぶ違う。
南部が少しだけ、といって、重湯を持ってきてくれた。ちょうど良く冷まされたそれを口にしながら、自分の状態を聞きたがった。

「まあ、待て。沖田が戻ったら一緒に話をするから」

そういうと、南部が部屋を出て行った。セイの様子を総司に伝えるためだろう。セイが重湯を口にし終える頃を見計らったように、総司が戻ってきた。

「おう、少しはましな顔になったじゃねぇか」
「松本法眼……そう言わないでくださいよ」
「けっ、干し平目はかわんねぇがな」

松本にいじられながらも、セイの隣に総司が座ると、松本が総司を見た。
総司は黙って頷いた。

「セイ、あのな」

 

 

 

– 続く –