紅葉の伝言 番外・拍手お礼文より

〜はじめのお詫び〜
チョイ、お馬鹿っぷる的な感じで拍手SSに乗せたものです。 多少いじりました。

BGM:AKB48  ヘビーローテーション

– + – + – + – + – + – + – + – + – + –

 

盛大な夫婦喧嘩の翌日、セイを連れて屯所に戻った総司とセイは局長室に向かった。 セイが文を預かっているというので、帰隊の挨拶を兼ねていた。ひきつった顔で近藤は報告を受けた。

「まあ、何はともあれ神谷君がもどってよかったよ」
「申し訳ありません。局長」
「よくねぇだろ。だいたいお前なぁ。あんな……」

途中まで言いかけた土方に近藤と総司から鋭い眼が向けられた。 相手の名前を言おうとして言えずに土方が黙って片手を振りまわした。

「だからっ!!」

屯所に戻ったセイに、どことなく皆が諸々の後ろめたさで遠慮気味にでているのと同じように、近藤も土方もどうにも強気で言いにくい。
逆に、セイは落ち着きはらって、二人の前にそれぞれ懐から文を差し出した。

「そのお方からお二人にそれぞれ文を預かってきました」

「!!」

恐る恐る近藤と土方がそれぞれに手を伸ばした。二人は顔を見合せて、困惑を顔に出した。視線だけで会話したのか、近藤が先に文を開いた。

読み終えた近藤がふるふると震えている。横からそれを受け取った土方が苦虫を噛み潰した。
そこには感動屋の近藤を号泣させるような情に訴えかける熱い内容であった。その文を畳み、今度は土方が自分の文を開いた。

「!!」

再び、絶句した土方が文をすぐさま畳んで懐に入れた。
近藤宛のものは読んだものの、土方宛のものは自らすぐに仕舞い込んだことで近藤が目を向けた。土方のこめかみには青筋が立っている。

「総司。お前、この文の中身知ってるのか」
「知りませんよ。直接神谷さんが預かったものですし」
「神谷。お前はどうだ」

震える声で土方に話を振られたセイは、その前から顔を伏せており微妙な反応をした。

「……いえ」
「神谷」

駄目押しされて俯いているセイの肩が震えた。

「す、すみません。目の前で書かれていたので……」
「てめぇ……」
「なんです?土方さん」

セイと土方だけがわかった会話を進めるのを、総司も不思議そうに問いかけた。セイが笑いを堪えていると、こちらは堪え切れなくなった土方が立ち上がった。

「神谷っ!!お前っ!!誰のせいだと思ってんだ!!もう何があっても知らねぇぞ!!」
「申し訳ありません。つい……」

セイは、口角が上がることはどうしようもなかったが、一応笑いを納めて深く頭を下げた。
怒りの持って行き場がなくなった 土方は、拳を握りしめて、ぱっと障子を開いた。そこには鈴鳴りで様子をうかがっていた幹部や隊士達がいた。

「手前ぇら!!!このへちま共!何してやがる」

笑いを堪えていたセイは総司を促した。二人は近藤に頭を下げて局長室を出た。セイに促された総司は、診療所までセイについて行った。診療所でセイと共に隊士や小者達に休んだ詫びを伝えて小部屋に行く。
荷物を置いたセイに、総司が聞いた。

「土方さんの文には何が書かれていたんですか?セイ」
「ふふっ。怒られちゃうかもしれないですけど」

可笑しそうにセイが笑いながら声を落とした。総司の袖を掴んで少しだけ頭を下げさせると、ほんのり頬を染めて、その耳元に口を寄せた。

「あのですね。浮之助さん、ちゃんと隊の中のこと、ご存じみたいで……。副長には、局長を守ることだけじゃなくてちゃんと弟分の、その……教育もしろって」
「えっ、それって」
「だから、ね。副長にその……、総司様に……って」

弟分にちゃんと女の扱いを教育しろと事細かに書かれていたらしい。密かに囁かれた言葉に、ぶっと総司が吹きだした。一緒にセイが笑いだす。今までなら、棒を飲んだような顔になっただろうに、今は余裕があるのか総司は少しだけ照れた様子で頭を掻いた。

「だからですか。そりゃ土方さん、怒るよなぁ」
「だから、です。当分、副長室に行くときは気をつけてくださいね」
「分かりました。貴女もね」

くすくす、笑いあった後、総司は隊務に戻るために隊士棟へ向かった。

近藤と土方はそれで済んでも、巻き込まれたほかの者たちはそれではすまない。隊部屋では、一番隊の面々がにやにやとした笑いを浮かべて待っていた。

「沖田先生~~」
「あ、皆さん、すみませんでした」
「酷いですよ~先生、俺達放り出していきましたね?」
「いやっ、そのですね!すみませんっ!」
「先生~、だからですね。昨日先生が何をしていたか報告して頂きます!!」

一番隊の隊士全員に取り囲まれた総司が、真っ赤になった。わかりきったことを吐かせるためにじわりと、総司を取り囲んだ輪が狭まって行く。
山口と相田が代表して腕まくりした。総司がその異様な雰囲気に慌てて、手を挙げて皆を押えようとする。

「まずは稽古着に着替えていただきましょうか!!」
「や、あの、ちょっとまってくださいよっ!!着替えればいいなら着替えてきますからっ!」
「「いいえっ!是非!こちらで着替えていただきます!!せぇの!かかれ~」」

一斉に、総司の着物を脱がすべく、皆が飛びかかった。さすがに、全員に向かってこられると総司の抵抗も加減が効かなくなる。ぐいっと小川が袖をひいて片方の腕をなんとか抜いた。
肩口と半分だけのぞいた背中のあたりについた赤い引っ掻いたような跡に皆の手が一瞬止まった。

「「くぅ~!!!沖田先生!!是非、委細の報告を!!」」
「勘弁してください!!」

その隙をついて、総司は稽古着を手に隊士部屋を逃げ出した。幹部棟に向かって駆け込むと、かつての神谷部屋に逃げ込んだ。そこには、原田と永倉、藤堂が暇つぶしに茶を飲んでいた。

「おう、総司。賑やかだな」
「に、賑やかなんてもんじゃありませんよ。もう、なんだか組下の皆さんが…」
「そう!そーなんだよ!!」

ぜいぜいと息を切らせて総司が片袖をいれようとしているところに、藤堂が手を置いた。にやりと、永倉と原田がその両脇に立った。

「一番隊の皆が拗ねてたからね、僕らで考えてあげたんだよ。総司が帰ってきたら、昨日何をしていたのか、詳しく話してもらおうって」
「もちろん!お前にはこういう艶な証拠も見せてもらってだな」

せっかく通しかけた片袖をぐいっと落とされて、再び片肌が露わになる。総司は背筋を冷汗が流れた。組下の隊士達ならばいざ知らず、この三人相手に無事で済むわけがない。

「っ!!って、皆さんをそそのかしたの、原田さん達ですか~!!」
「「「総司~!!皆がお前の武勇伝を待っている!!」」」
「そんなもの待ってませんから!!」

稽古着を抱えて、総司は再び全力で逃げ出した。その後を、一番隊の隊士達と三人組が追いかける。
診療所でその様子を見ていた小者がセイに教えた。

「沖田先生、あれじゃ、そのうち捕まっちゃいますよ?」
「そうかもしれないですね」
「あれ、神谷さん怒らないんですか?」

穏やかなセイの返事が聞こえたので、小者が珍しい、と振り返ったところ、その顔が凍りついた。すでにはっきりと怒りまくったセイが、にっこりと笑顔を浮かべている。
まさに、阿修羅と言った雰囲気に、その場の者達が後ずさった。

そして、幹部棟の渡り廊下のあたりで繰り広げられている追いかけっこの方にむかってすたすたと歩いて行く。

 

遠くの方から診療所にセイのどなり声が響いてきた。
どうやら、最近、この屯所の中には鬼だけでなく、鬼さえおそれる者がいるらしい。

いずれ、聞こえてくるさらにそれを上回るはずの、土方の怒鳴り声を想像した者達が診療所で笑いだした。

 

 

– 終わり –