〜はじめのお詫び〜
行くぜ！！オチの2段構えだぞ～！！

BGM：abingdon boys school　HOWLING

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膳所藩の招きで、土方と総司が出かけたのは夕刻より少し前だった。近藤の不在時に、代理として赴く土方と護衛を兼ねて幹部として総司が付き添ったのだ。
彼らが出かけた後、午後の巡察を終えて戻ってきた三番隊は捕まえた不審者から、その呼び出しが偽物であることを知った。

幕府の旗艦組織として、今や広告塔のごとき新撰組の副長と一番隊の組長を狙えば、薩摩や長州の者達への効果は絶大である。

組下の者達へ、原田たちへの伝言を指示し、斉藤は総司の荷物からセイの刀を取り出した。
一足先に屯所を飛び出した斉藤は、茶屋へ向う途中で、セイの元へ立ち寄った。

「神谷、土方さんと沖田さんが危険だ。おびき出されたらしい」

走り通して荒い息もそのままに、戸口でセイに状況を告げた。そして、手にしていたセイの刀を刀袋ごと差し出した。

「神谷。俺は今から二人の下へ向かう。お前も来るか？」

刀袋を目の前にして、揺らいだその黒い瞳に光が指した。ぱっと手が伸びて、刀袋から大小を取り出すと、腰に挿す。
しばらくぶりの感覚が嬉しい。

「行きます！連れて行ってください！兄上」

斉藤は頷くと、セイを伴って走り出した。

心の中で、危険が迫る二人に向って斉藤は笑っていた。

まったく、馬鹿な男達だ。アンタ達より、神谷のほうがはるかに武士だぞ。

先日、セイの元を訪れたときに、斉藤にはすでにわかっていた。どんな痛みも、この娘は乗り越えてさらに強く、周りの者を惹きつけるほどの輝きを纏っていくことを。

茶屋に着くと二人は迎えがきて、すでに茶屋を出た後だった。二人が向った方角を聞くと、鴨川の方へ向ったという。斬り合っても周囲へ害のなく、しかも見つかりやすいならやはりの川原まで誘い出されただろうか。

「兄上！兄上は遅れてくる皆さんの案内をお願いします」
「わかった。十分気をつけろ」

後から応援に駆けつけてくるだろう、隊士達の誘導を任せて、セイは二人が向かった後を追って走り出した。
この場合、剣の腕からすると、セイを残すべきだったが、隊を退いたセイを残すわけには行かない。
斉藤は茶屋のものを次々と使いに出した。

店の明かりが届くあたりからはだいぶ離れたころ、月明かりと川面に反射する月明かりで、思いのほか明るい川原のほうで斬り合う音がする。

あそこだ！

一度立ち止まったセイは、音のするほうへ再び走り出した。
土方と総司であれば、新撰組の中でも剣豪のなかの剣豪の二人である。だが、囲まれている人影からすると、随分数が多いようだ。

時々、白刃が閃いて斬り合っている様が見える。2間ほどの間をあけて、土方と総司はそれぞれ背を向け合っていた。
総司の剣は、下段から切り上げるようにして敵の腕を切り落としたり、足に手傷を負わせようとしているようだが、土方の方は、だいぶ腕が立つ相手なのか、組み合ってしまっていた。

「土方さん！遊ばないでくださいよ！」
「うるせえ！お前はお前の分があるだろ！」

「どんなに憎たらしくても土方さんに死なれちゃ困るんですよ!」

斬り合いながら、二人はそんなことを怒鳴りあっていた。
土方の横に、総司の背後に、刀が煌いた。

「はぁっ！！」

その二人の間に黒い小さな影が走りこんだ。抜き打ちにその両方をセイが切り払った。

「神谷さん？！」
「神谷？！」

二人が驚きの声を上げる。二人の背中を守るように、小さな体が弾むように次々と斬り倒していく。

「お二人とも、遊びが過ぎますよ！！」
「貴女なんでここに！？しかもその刀どうしたんですか！」

完全にセイに背中を任せながらも、総司が言い返した。土方が組み合っていた相手は、負けず嫌いな副長の手によって袈裟懸けに切り倒された。
残りの相手を、次々、切り払い、戦闘不能にすると、ようやくそれぞれが懐紙で刀を拭い、納めた。

改めて、総司と土方はセイのほうを振り返った。

「「なにやってるんだ（ですか）！！」」
「兄上が、先生の荷物から私の刀を持って来てくださって、状況を教えていただきました。途中、茶屋までは一緒に連れてきていただきました」

「だからってのこのこ出てくんな」
「のこのこと、こんなところまで呼び出される副長にそんな事言われる覚えはありません」

土方が正面からセイの顔を見ないようにしているのに、まるで以前のようにセイが言い返した。

「なんだと！」

その言葉につられて、セイを正面から捕らえてしまう。視線を合わせると、黒々した目が土方を貫くように見つめた。

先に視線をはずしたのは土方のほうだった。
月代のない、伸びた髪を一つに結ったその姿は女であり、男であり。

今しかない、と思ったのか土方が腕を組んでそっぽを向きながら、ひどくまじめな声で口に乗せたのは。

「すまなかった」

お前を。お前達を。傷つけるつもりはなかったんだ。

黙ってそのやり取りを見ていた総司は、ふ、とようやく肩の力が抜けていくのを感じた。

自分の後ろで、ふっと緩んだ気配を感じたセイが、そうですね、というとぱっと脇差を抜いた。
切っ先は、そのままそっぽを向いていた土方の髷を結っていた紙紐を切った。

ばさっと髪が広がり、呆然とする土方を身ながら、セイは脇差を納める。

「これで忘れます。副長も忘れてください」
「……いいのか？」
「副長のお気持ちだけはありがたく頂きます。でも」

もし、忘れなかったら。
もし、次は。

「首代頂きますよ？」
「あ、ああ。わかってる」

ザンバラ頭で、渋々と土方が頷き、セイはもう背中を向けた。そして一言。

「次は沖田先生が」

「「はぁ？！」」

土方と、急に話を振られて慌てた総司が声を揃えた。

「わ、私ですか？！」
「はい。もう、私は隊士じゃありませんから」

にこっとひどく久しぶりに見せる笑顔で、反論を封じ込めてセイは踵を返した。

「もう応援の皆さんが来ちゃいますから、私、帰りますね」
「え、え。帰るって」

「ええ、帰って、沖田先生のお帰りをお待ちしてます」

そういうと、セイは家に帰るべく歩き出した。
その後姿を見ながら、総司の隣に土方が並んだ。

「とんでもねえ女に惚れたようだな」

―― お互いに。

「何を言ってるんですか！土方さんにはあげませんよ!」

―― 今度こそ。

「わぁかってるよ」

―― すまなかったな。

もう一度、土方は繰り返した。

「あの人がもういいと言ったんですから、もういいんです」

でも、なにかあったら本当に首代頂きますからね？

ちらりと、横を向いて睨みつけると土方が近づいてくる提灯を見ながら、バシッとその肩をたたいた。

「う、うるせぇ！お前は自分の女を送ってけ！明日の夕方まで暇をくれてやる！！」

応援に来たはずの提灯の灯りが途中で固まって揺れているところを見ると、セイを見つけた隊士達が駆け寄っているのだろう。

「ありがとう、土方さん」

そういうと、総司はセイの元へ走り出した。

–　続く　–