四海波 6

~はじめのお詫び〜
お待たせしました!!ほんとーにだらだらとw
BGM:FUNKY MONKEY BABYS  希望の唄
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近藤と土方に、半ば拉致同然に引きずられていった総司は、そのまま空室だったはずの一間にすっかりと整えられた支度を身につける羽目になった。

元々、二人は診療所の落成記念ということで正装をしていたわけだが、それも実はこのためだったのである。

「おら、四の五の言ってねぇで全部脱げ!そしてこれを着ろ」

反論の余地なく、土方に言われた総司は訳もわからないまま、着ていた隊服を脱ぐとそこにあった正装に身を包んだ。

「久し振りだな。元服以来じゃないのか?」

近藤に笑われて、総司は肩を竦めた。羽織袴姿が元服以来なわけがないが、三月分の鬱憤が溜まっているのだろう。

訳がわからないなりに、自分一人が知らされずに何か事が進んでいたことに、腹立ちも覚えたがそれでも、この二人にそれを言えるわけもなく、肩をすくめるしかないというところだ。

そこに、斎藤が呼びに現れた。

「支度が整いましてございます」
「よし、行こう」

近藤に促されて、二人の後をついて総司は新築された診療所に足を向ける。すでにそこだけでなく、中庭まで隊士達で溢れかえっていた。

今日ばかりは病室にあてらるはずの一番大きな部屋が、屏風を立てられて宴席に設えられている。

その部屋の様をみて、ようやく総司は成り行きを悟った。

「え、えぇぇぇぇぇ~~~~!!!近藤さん!!土方さん!!なんですかこれ!!!」
「なんですかって……」

振りかえった近藤と土方が声をそろえた。

「「お前と神谷君の祝言だろう?」」

ぐわっ……………

真っ赤になった総司はようやく事態を飲み込んだ。

確かに、すべては穏便にセイが離隊してからと思っていた。
一緒に生きる道と言っても、隊を辞めたセイに何ができるかはわからなかったが、無事に離隊できるかどうかさえ分からないまま、その先を考えることは、二人には難しいことだったのだ。

ところが、今、無事に離隊し、そして医師として隊で働くことを認められた。それだけでなく、この兄分たちは自分たちの祝言まで用意している。

何もかもが、言葉にならないまま、引きずられていくと真っ白な綿帽子に、黒縮緬の振り袖、白打掛の裏に紅絹を纏い、控えている美しい娘がいた。

本来であれば、白練帽子、紅裏白綸子の打掛、そして振り袖という姿のはずだが、その振り袖に黒を選んだのはセイの心の現れであった。白は純潔を表し、黒は貞節を表す。セイはその黒に、隊服の黒を重ねたのだ。

夫になる総司にも、誠にも貞節を示すと言いたかったのだろう。

微かに潤んだ瞳で恥ずかしそうに俯く姿に、誰もが感嘆の声を上げた。真っ赤になったまま、固まっている総司の首根っこを土方が、がしっと掴んだ。

「で?お前ぇはこの期に及んでまだ四の五の言うのか?え?」
「……言いませんよ!!わ、かりました!!」

―― わかりましたから、ほんの少しでいいので、神谷さんと話をさせてもらえませんか?

そういうと、手前の控えの間に総司とセイをおいて、他の者たちが席を外した。
改めて、セイを見た総司は手を伸ばして、セイの手に触れた。

「元気そうでよかった」

―― すごく、心配したんです。本当に

「申し訳ありません。沖田先生に何も言わずに、というのも約束だったんです」

申し訳なさそうに、綿帽子の頭が少しだけ下がった。その姿に、溜息が零れる。

「もう、いいんです。貴女にこうして会えましたから。……本当に、私と共に、従うのではなく並び立つのですね」

妻として従うのではなく、共にあるのだと。誓いはまだ続くのだと。

「はい。お傍におります」

差しのべられた手を握り返し、零れんばかりの笑顔でセイは答えた。そのまま、手をひいてセイを立たせると、総司は微笑んだ。

「皆が待っていてくれます。行きましょうか」
「はいっ!」

手を引いて、総司は控えの部屋を出て皆の待つ部屋へ向かった。すでに宴席には松本や南部、また黒谷からも重役たちが、そして隊の幹部がそれぞれ膳を前に座っている。二人は、お里と斉藤の誘導で上座に座った。

近藤が口を切り、座敷に入りきれない隊士たちは開け放たれた部屋の外に控えている。

口上と交わされる杯。

そして、その場にいるもの達で朗々と歌われる四海波。

四海波静かにて。国も治まる時津風。枝をならさぬ御代なれや。

あひに相生の。松こそめでたかりけれ。

げにや仰ぎても。
こともおろかやかかる代に。

住める民とて豊かなる。
君の恵みぞ有難き 君の恵みぞ有難き。

ぽろぽろと嬉し涙を流しながら、微笑む花嫁と、緊張しつつも嬉しさに頬を緩ませた花婿を前に、宴は終わることなく夜通し続けられた。

この時代にようやく実った恋の行方は、誰の心もほんのりと幸せ色に染めあげた。

 

 

– 終 ・おまけつき–