風こよみ 7 おまけ

~はじめのお詫び〜
軌道修正。つーか、本来の路線に戻すはずが、なぜ黒く……???
BGM:GReeeeN 愛唄
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小部屋に放り込まれて、悔しさも覚めやらぬまま書きかけのものに目を落とすと、急に悲しくなってセイはぽろぽろと泣き出してしまった。

「んっ……ぇっ」

隣の部屋に土方が休んでいることを考えると、押し殺した声で堪えようとするが、涙は止まらない。少しして、ようやくしゃくりあげていたのが収まりかけた頃、裏側の出入り口から静かに障子を開けて総司が現れた。

「お…きたせん……」

涙目で総司を呼ぶセイに、人差し指をたてて静かに、と告げる。斉藤から診療所に土方がいることを聞いてきたのだろう。

セイの前に屈み込んで、涙の後の残る頬を撫ぜた。

「だから、何でもいいなさいっていったでしょう?」

そういわれると、再びセイの顔がくしゃっと歪んで、総司の胸にその泣き顔が押し付けられた。ふう、と溜息をつきながらセイを優しく抱きしめてやる。

「ごめんなさい。汗臭いでしょう?巡察から帰って話を聞いた後すぐにこちらに来たものだから」

胸の中でふるふると首を振るセイが可愛らしくて、笑みが浮かぶのを噛み殺した。

つい今ほど、巡察から戻ったところを捕まって、斉藤から経緯を聞いた。

状況を聞けば、土方や他の者達がどうしてそう動いたのか、総司にはすぐ分かる。同じように心配していたからでもある。しかし、同じようにセイを知っている総司は、セイがきっと納得していないことも十分分かっていた。

だから、着替えもせずに急いでやってきたのだ。

「ね、セイ」

小さな声でセイの耳元で囁く。ぎゅうっと抱きつく腕が聞きたくないと言わんばかりだ。再び、総司はセイの耳元で軽くその耳を噛むように囁いた。

「セイ、聞いてください?」

少しだけしがみつく手が緩んだ。

「ねぇ、セイ?皆、貴女が大好きなんですよ。かまいたくて仕方が無いんです」

抱きしめていた腕をあげて、総司はゆっくりとその背中を撫ぜてやる。

「私だって、貴女にああ言われましたけど、時々様子見にきちゃいましたもん」

それはセイもさすがに知っていた。

小部屋に集うものたちが、自分を思いやってくれていることも分かっていた。だから、その人たちの思いに答えられる自分でいたいと強く思っていたのだ。

「だって……沢山、迷惑をかけたから、私、沖田先生みたいにお役に立てること、少ないし……」

涙目のまま、総司を見上げて一生懸命に言う姿が、本当に可愛くてたまらなくて、総司は言い続ける唇を笑みを浮かべたまま塞いだ。

「んっ……」

言いかけた言葉を奪われて、セイは軽く目を伏せた。

―― 本当に、貴女って人は……

唇を離すと、総司は穏やかに言葉を紡ぐ。

「私と貴女ができることはまったく違うでしょう?私だって、貴女みたいに細かく気がついたりしませんよ?」

「それは!先生は沢山の事をわかってらっしゃるから」

「貴女だって一緒ですよ。貴女にしかできないことが沢山あるってことも、皆十分に分かってますよ。だから、私も土方さんも、変に無理しなくてもいいって反対したじゃないですか」

「だって、兄上は反対されなかったですもん」

徐々に、涙は引いて、残ったのは不満そうな顔。

「斉藤さんは、貴女に無理をしなくてもいいといっても、自分がその立場だったら納得できないだろうから、やりたいことをやらせるべきだって言ったんですよ。どちらにしても我々が貴女を放っておくなんてできやしないってことで」

むぅっと膨れたセイが抱き付いていた総司から離れようとして体を起こした所を、膝の裏に手を回して、総司はセイの体ごと横抱きに自分の膝の上に抱え上げた。

「ちょっ、総司様?!」

ちゅっと再び軽く口付けをすると、にこっと笑った。

「良かったですね、ここが屯所で。でないと、私も貴女に何をしたかわかりませんよ?」

「えっ?」

総司のセイを抱える腕と、軽く与えられる口付けがそれの意味を伝える。かぁっと赤くなるセイをみて、さらに総司はくすくすと笑った。

「だって、貴女ってば何も無かったとはいえ、押し倒されたそうじゃないですか」

「う……はぃ……」

―― そんなの、許せるわけ無いでしょう?

「だ、だってそれは私が悪いわけじゃ……」

「何でも言ってくださいって言ってるのに信用されてないみたいですしねえ」

「信用してないとかじゃないですってば」

動揺して声が大きくなったセイの口を再び唇が塞ぐ。

今度は深く深く絡められた舌と吐息にあっさりと思考が断ち切られる。

「ん……ふ……」

ゆるりと力が抜けていく体を抱えたまま、総司はふっと隣の気配を探った。

―― 本当はここでもかまわないんですけどね。後で土方さんがうるさそうですから

僅かに唇を離すと、触れ合うくらいの距離で囁いた。

「帰ったら、覚悟してくださいね?」

次の日、帰宅したセイがどうなったかはどこかの黒い人のお話で。

 

– 終わり –