甘甘編<長>惑いの時間 4

〜はじめの一言〜
男同志~のぉ~カッコイイ悋気なんてどうでしょう
BGM:小柳ゆき あなたのキスを数えましょう
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南部が帰った後、土方は賄い所に行って今日の総司とセイの食事を副長室に運ぶように言った。

「副長はどうされますか?副長の分もお持ちしましょうか?」
「そうだな。いや俺は夜まで外出するから構わなくていい」
「承知いたしました」

そういうと、土方はそのまま外出していった。

 

 

夜になって、土方が戻ってくると、まだ総司は土方の部屋にいた。

「お帰りなさい、土方さん」
「うむ。どうだ、塩梅は」
「何とか。熱が下がってきました」
「そうか」

土方は、セイには目をくれず、着替えると文机にむかう。

「土方さん」
「なんだ」

何かを問いかけて、総司は何を問えばいいのか迷い、結局何も口に出せなかった。

「なんだよ。言いかけてやめやがって」
「……だって、うまくいえないんですよう」
「おかしな奴だな」

ふ、と笑った土方が、総司をみているものの、その後ろのセイの姿は見ないようにしている。ついこの間まで思いきりセイに甘えてかかったりしていた土方が、セイの体調の悪さにここまで気遣っていて、見ないようにしているところが何かを思わせた。

「総司、俺は近藤さんの部屋で休む。お前は神谷を見てやれ」
「土方さん」
「だから、なんだ」
「土方さん、神谷さんを小姓にしたときに、たとえ何があっても俺に惚れるなって言ったそうですね」

総司は、あまりの言い様だとセイから文句として聞いていた。だが、いくら衆道嫌いとはいえ、その言い様がおかしくて、まるで自分自身にも言い聞かせているようだと思ったものだ。
伊東に対しては確かに衆道嫌いの最たるもののような気がするが、どうもセイに対してだけは違う。

「……だからなんだ」
「本当にそれ、神谷さんに言ったんですか?」
「どういうことだ?」

眠るセイの傍から離れた総司が、土方の傍に膝をついた。

「ご自分に向けても言ったんじゃないかと思ったんですよ」

くるっと土方が総司に向きなおった。

「俺は衆道は嫌いだが?」
「神谷さんが女子なら問題ないんじゃないですか?だから南部先生にお伺いになったんでしょう?」

診察に現れた南部が、帰り際に総司に囁いていった。

『土方副長が神谷さんのことを聞きにしましたよ。本当は女子ではないのかと。重々お気を付け下さい』

気をつけろと南部は言ったが、総司には違う意味にも取れた。

「それは……悋気か?総司。それはお前が否定した“行き過ぎた私情”じゃないのか?」
「なら、一平隊士にここまでの配慮をされる土方さんこそ、“行き過ぎた私情”じゃないんですか?」

ひた、と二人の目があった。先に余裕を見せたのは土方の方だった。くっと口角を上げた土方が、腕を組んだ。

 

「俺と張り合うか」

 

その顔に動揺した総司が目を逸らした。

「止めてくださいよ。私はそんなつもりじゃ……」
「お前は昔から欲しいものを欲しいと言わない奴だからな」

心に突き刺さる言葉。総司は、いたたまれなくなって立ち上がった。

「私は隊部屋に戻りますから、……神谷さんをお願いします」
「今、手放せばもう二度と戻らないかもしれないぞ?」

追い討ちをかけるような土方の言葉に弱々しく総司は微笑んだ。

「私が土方さんと張り合うなんて、有り得ませんよ。神谷さんを可愛がってあげてください」

そう言うと、総司は部屋を出て行った。障子が締まり、総司の足音が離れるのを聞いて、土方はようやく力を抜いた。

「は……、素直じゃねぇ野郎だ」

―― 俺も人のことは大概言えないがな

 

部屋の奥で眠るセイを見る。
風邪のせいで弱っているだけでなく、ここずっとセイが女子に見えて総司と二人でいる時も、不意に見せる姿も土方の中ですでにセイは部下だけではなく、女になっていた。

初めは自分自身それがわからなくて、真剣にやばいと思った。そして、倒れたセイに一晩付き添った後、南部の元へ確かめに行った。あの華奢な体も柔らかさもとても男とはもう思えなかったから。

セイの傍に寄ると、温まった手拭を冷たいものに取り換える。知らぬとはいえ、総司と全く同じように手拭を絞った後の冷えた手をセイの頬にあてた。