濃厚編<長>惑いの時間 2
~はじめの一言~
うわー。路線違います!って言われないように頑張りますww
BGM:小柳ゆき あなたのキスを数えましょう
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幾日かたって、セイは咳のほうはだいぶ治ったものの、午後になるとだるくて、食欲も落ちる一方に難儀していた。
いくつか文をしたためた土方は、いつものように文使いをセイに頼みそうになって止めた。
ここ数日、セイが辛そうにしていることに気づかない土方ではない。飛脚へ出す文は別な者に頼んで、黒谷への文は自分で持参することにした。
「おい、神谷。黒谷へ行くからお前はこの後自由にしていていいぞ」
「文の使いならば私が参りますが」
「いや、ちょうどお目にかかりたい方もいるからいい。それよりお前は少しでも休んでろ」
そういって土方が出て行くと、セイはほっと息をついた。
どうやら午後になると熱が上がるようで、ひどくだるくて仕方がない。申し訳ないと思いはしても土方が午後の半日、外出してくれたのはありがたいことだった。
医者にもらった風邪薬を空きっ腹ではあったものの白湯で流し込んで、いつもよりゆっくりした動きで片付けをして雑用をこなした。
とぼとぼと洗いあがった洗濯物を抱えて歩くセイを見つけた総司は、いつものセイらしくない様子に傍に近づいた。
「神谷さん?……」
「あ、沖田先生」
総司が近寄ってみて眉をひそめる。ひどくセイの顔色が悪いのだ。とろんとして潤んだ目と、顔色が悪いのに頬だけが赤い。ぱっとセイの額に手を当てると、明らかに熱い。
「神谷さん、貴女熱があるじゃないですか!こんなことしていないで休んでなきゃ!」
そういうと、総司はひょいっとセイを抱え上げた。熱のせいで反応が鈍いセイは、あれぇ?と視界が回ったことに声を上げた。
「沖田先生?なんだか目が回ります~」
「当り前ですよ。こんなに熱が高くちゃ!薬は飲んだんですか?」
「お昼すぎに飲みましたよ~」
薬を飲んだというのに、この熱の高さはひどいものだ。
総司は土方が外出していることを知っていたので、副長室に行き、一度セイをおろすと、床を敷いた。
セイの手から洗濯物を受け取ると、部屋の隅において、再びセイを抱え上げた。床の上に横にならせると、急いで部屋を出て冷たい水を汲んだ桶と手拭を持ってくる。
横になってしまうと、どっときたのかセイは目を閉じて朦朧としている。総司は冷たく絞った手拭をその額に乗せた。
今日は夜番のため、それまではセイについていてやることができる。夜になれば土方も戻るだろうし、巡察の間くらいはセイを見ていてくれるだろう。セイの面倒をはなから他の誰かに頼むということは全く頭にない総司である。
一番隊の隊部屋に行き、伍長には土方の部屋でセイを診ていると伝えると、副長室に陣取った。
一度、夕餉の時間にセイは総司に揺り起こされた。賄いには話をしたのだろう。粥と鰹節の餡が添えられた膳には、塩気の強い佃煮が少しと具のない味噌汁が乗っている。
「神谷さん。起きてください。少しでも何か口にしてください?」
どうやらセイが寝ている間に、賄いに頼んだだけでなく、南部にも使いを送り薬を届けてもらったらしい。枕元には新しい薬がおいてあって、薬を飲ませるためにも何か食べさせようということらしい。
ゆっくりと起き上がったセイは、総司にすみません、と頭を下げた。
「何を言ってるんです。いつも私の方が神谷さんにはお世話になってますからね。こんな時くらい看病させてくだいよ」
そういうと、自分が着ていた羽織をセイの肩にかけた。少しだけ座る向きを変えて、総司が布団の傍まで膳を持ってきてくれていたので、具のない味噌汁だけを僅かに口に含む。
それをみた総司が、粥に餡をかけて匙ですくうとセイに食べさせるべく、口元に運ぶ。
「沖田先生、さすがにそれはちょっと……」
苦笑いを浮かべたセイが、総司の手から匙を受け取った。震える手がなんとか口元に運ぶと、その味に驚いた。
「これ、おいしいです。ほんのり塩気がついていて、お出汁の味がすごい……」
「でしょう?だから一口でも食べてほしかったんですよ。この味をだすのに、嘘って言うくらい鰹節を使うんだそうですよ」
そう言いながら、茶碗に少しだけ粥をよそって餡をかけると、セイの手に持たせた。その味に惹かれたのか、なんとかセイは手に持たされた分を食べた。
「よかった。少しは食べられましたね。さ、新しく薬をいただいてきましたから、これを飲んでまた眠るんですよ」
セイは、素直に言うことを聞いて、薬を飲むと、着替えだけはしようとぼんやり思った。今は、普段着のままで横になっている。
膳を片づけている総司に片手をのばして届かない分、その袖をひいた。
「ん?どうしました?」
優しい笑顔が振り返る。
「すみません。沖田先生にこんなご迷惑をかけて……」
「良いんですよ。さあ、ほら。私はこれを下げてきますからちゃんと眠るんですよ」
「分かりました」
総司は膳を下げて部屋を出る。少しだけ触れたセイの手がまだ熱く、総司は心配で仕方がなかった。
総司が部屋から出ると、先ほどまで肩にかけていた総司の羽織を丁寧に畳んで枕元におく。セイはゆっくりと起き上がると袴や着物を取り替えて横になった。
それから巡察の時間までセイについていた総司は、なかなか戻らない部屋の主を恨めしく思いながらも、それはそれでセイがゆっくりできると思い直した。
土方が戻ったのは、それから四半刻も後の事だった。
– 続く –