風のしるべ 9

〜はじめの一言〜
土方さんって、いじめっ子キャラなのは今さらだけど、あの人が素直で誠実だったらどうなんだろう・・・
久しぶりで見返しなしのアップなので、変なところがあったらあとでこっそり直します。
BGM:
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興味をひいたのか、にやにやと感じの悪い笑みを浮かべた土方にかちんときた未生は、そのまま何も言わず不躾にじろじろと眺めてくる土方に増々苛立つ。

「……なんですか」

どれほど偉いのかはわからないがこれだけの会社の社員ならもう少し、感じのいい態度をとってもいいだろうという勝手な思いで鼻の頭に皺を寄せた。
すっかり面白がった土方はふん、と鼻を鳴らす。

「いや?たかがアルバイトが雇われた会社の社員に文句を言うなんて珍しいと思ってな」
「確かに、たかがアルバイトかもしれませんけど、必要だから雇われたんじゃないんですか?」

怒った口調の未生にふっと笑った土方はまるで子ども扱いをするようにその頭をぽんぽんと叩いた。

「確かにそうかもしれないが、そう言う時でもにっこり笑って何でもありません、っていうのが大人なんだよ。お嬢ちゃん」

怒っている未生をわざとからかう土方に腹を立てた未生が、それ以上食い下がろうとするのをまさみが止めた。腕を掴んで土方の前から引き離す。

「もういいって!富永さん!いこう。もう時間になっちゃうよ」
「だって……」

あまりに失礼じゃないかと土方を睨みはしたが、確かにこれ以上は子供っぽい振る舞いに思えて、しぶしぶ、その場を離れた。初対面なのに、いきなり腕を掴んだことを詫びながら、まさみは苦笑いを浮かべた。

「富永さん、意外と気短いのね。驚いちゃった」

気が短い、と言われれば確かにこんな場所で大人しく事を収められなかった自分が恥ずかしくなる。まさみが止めてくれなければもっとみっともないことをしていたかもしれない。穴があったら入りたい気分で頭を下げた。

「すみません。もとは菅原さんのほうが変な人に話しかけられてたのに……」
「ううん。いいの。嬉しかった。ありがとね」

妙に意気投合してしまった二人は、それから二人で組んで仕事を始めた。会場に入ると壁際に段ボールが山と積まれていて、そこからペーパーバックに入った資料を片腕に持てる分だけ抱えると、来場者へ配り始めた。

プレスと関係者向けに配られたそれは、上質の紙でできたパンフレットと、関連製品の試供品が入っている。
先ほどまさみに声をかけた男と、もう一人、面接をしていた男が裏方のしきり役らしく、てきぱきと指示を出していた。

「ねぇ、菅原さん」
「なぁに?」
「あの変な人、知り合いなの?」

まさみはすっかり忘れていたのか、気づいてなかったのか、確かに面接のときにも会っている。もう一人いた男のほうが話していて、セクハラ男の原田は黙って、チェックしているだけだったはずだ。

「し、知り合いっていうか……。逆に、本当にあの人面接の時いたっけ?」

人の顔を覚えるのが苦手だという、まさみは記憶にないらしいが、未生はさすがに覚えがある。いつもの面接は一人だけが多いのに、と思った記憶がある。

ありがとうございます、と次々に手渡ししながら途切れた間に小声で交わす。

「いましたよ。二人いて左側にいたじゃないですか」
「えー?富永さん、よく覚えてるね。二人いたかな?くらいしか覚えてないよ」
「忘れてるのに、知り合いなんですか?」

天然なのか、どこか抜けている感じがするまさみは、ぺろりと舌を出して見せた。そばかすの散った鼻の頭に皺が寄る。所詮、単発バイトの面接などその場限りと思っているから初めから見てもいなかったとはさすがに言えない。

「知り合いじゃないんだけど……。詳しくは後でね」
「うわっ、すごい気になる!」

深い意味があるわけではないが、あったことを全部話すには、確かにここでは無理である。
徐々に集まり始めた会場の方を背にして、もう間もなく始まるというのに遅れて現れた客にパンフレットを渡すために、アルバイトの面々は出入り口の傍に移動を始めた。

無事にイベントも終わり、スタッフジャンパーを返却すると、後日アルバイト代は振込みます、と説明されてアルバイトに集まっていた面々は解散になった。

「富永さん、良かったらお茶でもしていかない?」
「はい。菅原さん、お時間はいいんですか?」
「うん。次のバイトまでまだ時間あるんだ」

このバイトが入っていたので、居酒屋のバイトは18時過ぎからのシフトになっている。ここから移動してもまだ余裕があるため、せっかくだからと声をかけたのだ。。方向は逆だが、互いに乗るはずの電車の駅が同じということで、最寄駅の改札脇にあるコーヒーショップに入った。
改めて、互いに自己紹介が始める。

「すごい。富永さん、高2なのにしっかりしてるよね」
「とんでもないです。そう見えるなら、母の手伝いでバイトすることが多いからですよ」

互いに話しやすい、と意気投合していたので、携帯の番号とメルアドを交わす。どのあたりに住んでいるとか、いつもどんなバイトをしている、など、話し始めるときりがない。
目の前のコーヒーカップとアイスカフェオレのグラスは飲まれないまま、二つとも常温に近づいて行く

「でね。その日は早入りの早上がりだったんだけど、居酒屋のバイトの帰りにすっごい酔っ払いがいたわけ。こう、電車の中でもふらふらしてあっちこっちで絡んできてさ」
「うわ。始末に悪いですね」
「そうなの。私も嫌だから関わりたくないと思って、ドアの脇によけたんだけどついてきちゃって」

あの時はバイトあけということもあって、本当にむかむかして酔っ払いの酒気も堪らなかったし、くだを巻いているオヤジに大変なのはあんただけじゃない、と怒鳴りつけそうだった。

「うち、自営でお店やってるから困ったお客さんもくるし、バイトもしてるから接客なら慣れてるんだけどね。それでも、ああいうおじさんってわからないじゃない。何かされても困るし」

決して気が短いわけではなく、曲がった事や筋が通らないことは嫌いなのだった。今日も、未生がいなければ原田に文句を言っていたかもしれないと思うと、複雑な気持ちになる。
そういえば、今日、バイト先で会った時はまったく印象が違ったが、あの時は話の持っていき方といい、うまいなぁと感心したのだった。

「助けてもらったのは嬉しいけど、それで何かあったらこっちも目覚めが悪いよね」
「そうですねぇ」

本当に助けてもらったことはありがたいと思うのだが、その後を思い出すとどうしても素直になれずに、一言、言いたくなってしまう。

未生の番号を登録し終わってふと、ぴぴぴと原田の名前を検索した。押し付けられた名刺から、いつかちゃんと礼をしなければと会社の電話番号と携帯を登録しておいたのだ。

「……お礼って……なかなかできないよねぇ」
「え?」

ありがとう、と日頃から会う機会があれば言いやすいが、わざわざ連絡を取ってとなると、言うのもなかなか気まずい。まして思いがけず今日も顔を会せている。
あっ、と声を上げたまさみは未生の手を掴んだ。

– 続く –