懐かしい風が吹く ~序章

〜はじめのつぶやき〜
現代新シリーズ序章です。
BGM:
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平日の日中まばらな人の流れをスーツ姿で歩く二人連れがいる。
隙のないビジネススーツを着た男が、びしっと髪も撫でつけているのに比べて、もう一人の若い方はくせっ毛なのか、歩く歩調にあわせてふわりふわりと髪が揺れている。

「やっぱり今日の商談は頂きだったろ」

満足そうにいう男は、ついさっきまで自分達の会社の何倍もの規模の会社から仕事を取り付けてきたところだ。

「そりゃ、あの人の作るものは面白いですからね」
「お前ももう少し遊び心も持って作れよ」
「いいんですか?」

可笑しそうに笑ったくせ毛の男に、もう一人がむ、と眉を顰める。

「お前は真面目な案件担当だからな」
「なんだ。やっぱり駄目なんじゃないですか」
「ああいう奴は社内に一人いれば、あとはいらねぇんだよ」
「口が悪いなぁ」

くすくすと笑いながら電車の駅へ向かう。確かに大きな商談が決まった後は会社に戻るのも足取りが軽くなる。

向こうから歩いてきた高校生の鞄が軽くビジネスバックにあたった。

「あっ。すみません」

可愛らしい携帯を手にしていた女子高生がすぐ振り返って頭を下げた。
さらさらの髪を耳にかけて、しっかりと顔を見ながら詫びるところが今時の女子高生にしては感じがいい。

「いえ、大丈夫ですよ」
「失礼しました」

ぺこりともう一度頭を下げてから歩み去っていく。
二、三歩歩き出してからくせ毛の男がふっと振り返った。

「どうした?」
「いえ……」
「おいおい。女子高生に一目惚れか?」

まさか、と言いながら曖昧に笑ったが、心のどこかにかすめた何かがとても気になった。
ぎゅっと手にしていたビジネスバックを握りなおして、歩き出す。

「おおっ。今日は昼間は暖かかったけど、そろそろ冷えてくるか」

大通りに出たところで正面から吹いてきた風に連れの男が手にしていたコートを羽織った。

「そりゃそうですよ。いくらなんでもまだ寒いですって」
「そうだな。でももうすぐ暖かくなるだろ。そしたら花見だな」

――うちには宴会部長がいるからなぁ

そういわれれば、春を象徴するような花見が待ち遠しくなってくる。

「早く暖かくなるといいですねぇ」
「まあな」

ふわりと二人の前に一瞬花びらのようなものが舞った気がした。

「お?」
「あっ」

二人がそれぞれ片手を開くと、近くを歩いていた子供が紙吹雪をとばしていた。
二人そろって桜吹雪だと錯覚したことに、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

「いくか」
「ええ」

もうすぐ、春が来れば。

– 終わり –