僕らの未来 10

〜はじめの一言〜
先生は若い時遊んでましたからねぇ。その分、理子を可愛がってあげられるんだからかわいがりなさいよ。もーっとね。
BGM:嵐 One love
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「お前、ずっと付き合ってた女たちはどうでもよかったからなぁ。今でもそうやって神谷に距離おいてるのか?」

歳也に突っ込まれた総司は、こめかみに手を当てて苦い顔になった。
距離を置いているつもりはない。ただ、大事にしたくてできることはしてきたつもりだった。

「俺らは独り者だから偉そうに言える筋合いじゃねぇけど」

わからないものはわからないのだ。
歳也が気を使って一応フォローしてきたが、やはりそこにはもどかしさもあるらしい。黙って飲んでいるだけではなくてぼそりと話し始めた。

「大事に……、してますよ。ちゃんと」
「大事にするって箱に入れてしまっとくだけで大事にしてるっていうのはちょっと違うだろ」
「そんなことは」

そんなつもりはないが、逆に言えば一緒に暮らしていて、お互いの仕事にも多少なりとも関わりがあるからこそ、踏み込みすぎることで理子の邪魔になったりしたくないとは思う。その遠慮が距離を置いていたと言われれば仕方がない。

「あのな。俺は仕事柄、企業法務メインだけどやっぱ、嫌でも色々耳にすんだよ」
「……やっぱりさ、俺ら男でもあるけど、結婚すると気を使っちゃうよね。夜、連れ出したらまずいんじゃないかとかさ。そういうことあるんじゃない?」

からん、とグラスの中の氷が解けて音をさせる。

「子供を……」
「あ?」
「二人でいればなんでもできる気がするって言ってくれたから、子供ができても……」

ああ、と三人が一斉にため息を漏らす。何かしらのきっかけはあったのだろうと思っていたがそういうことかと、妙に納得してしまう。
理子が妙な方向に真面目なのだから、考えすぎているのは想像できる。

「んで、お前なんつったの。まさかと思うけど、やることだけやっといてそれだけじゃねぇだろうな」
「やる……って、もう少し表現に気を配ってもらえませんかね。歳也さん」

男ばっかで気を使ってどーすんだ、と呟いた歳也に原田がくくくっと笑い出す。

「だって、いつかもわからないのに、男になんかできるんですか?」
「お前なー……。ほんっと、遊びだけは女慣れしてるのに、それはひどすぎ!」
「だから!歳也さんだったらどうするんですか!」

半分、逆切れに近いがそう言いたくなるのも仕方がない。
言い返された歳也も今度は言葉に詰まって、しばらく考え込んでからそういやそうか、と前言を翻した。

「なんですよぅ……」

ぐったりとソファに倒れこんだ総司を同情ともなんともつかない視線が包み込む。

「他に何ができるっていうんです……」
「わかんないけど、神谷って真面目じゃん。昔もそうだったけど、こうあるべきっていうのに弱いじゃん?だから、そういうの総司がちゃんと言ってあげればいいんじゃないの?」
「そうはいっても、理子がやりたくてやっていることなのか、無理してやっていることなのか見分けなんかつきませんよぅ」

思わず出てしまったボヤキに藤堂もそれ以上は何て言っていいのかわからないが、あとは理子と同様に良い潰すのが早い気がして、どばっと総司のグラスに酒を注いだ。

「まあ、そうだな。総司はなんだかんだ言って、不器用だからな。そう言うのは苦手なんだろうけど、とにかく神谷とちゃんと話したらどうだ?俺は独り者だし、嫁を貰うつもりも今のところないけどな。俺ならそうするってことで」

原田がつまみの皿を総司に差し出して、ちん、と総司のグラスにあてた。

「面倒くせぇ。いい加減お前ら、心配かけんな」

面倒くさいとばかりに言った歳也と合わせてそこからはぐいぐいと男飲みが始まって、久しぶりの原田の話しや、藤堂の店の話と進んで、気づけば朝方になって、そのままソファで眠り込んでしまった。

 

 

「……喉乾いた」

目を覚ました理子は、猛烈に喉が渇いてむくっとベッドの上に起き上がった。いつも隣にいるはずの人がいなくて、あれ?と思ってから昨夜のことをぼんやりと思いだす。

「そうだ……。お酒飲んだんだっけ」

頭が重くて、着替えもせずに寝てしまったからそのままベッドから抜け出した。そっと隣の部屋へのドアをスライドさせると猛烈な酒の匂いに眉を顰める。

「くっ……さ」

ドアのそぐ前のソファで一人ずつ、横になって潰れている。珍しい姿なのは、歳也がスーツのままで腕組みして寝ている姿や、藤堂が一人掛けソファの上で体育座りになって眠っていたりするところだろうか。

原田はさすがにどこでも寝られるというだけあってソファの長いほうで横になっていた。総司は、歳也の寝ている足元に直に座って、寄り掛かる様に潰れている。

洋酒のボトルは確かに1本出ていたはずだったが、テーブルの上は溶けた氷と空になったボトルが3本。

「……家飲みだからって、飲みすぎじゃないかな」

これは間違いなく二日酔いコースだろうと思いながら、理子は洗面所で顔を洗った。歯を磨いてすっきりすると、キッチンに立って水を飲む。

生水だが、冷たく冷え切った水が喉から胃へ、流れていくのがわかる。

「はぁ……。とりあえず、朝はおかゆとお味噌汁かな」

自分があまり二日酔いらしいものになったことはないが、総司や藤堂たちの話を聞いているので、大体、決まってくる。
鍋に湯を張って、焚いてあったご飯は昼に回すことにして、米を洗った。

出汁を少し入れて、鰹節のパックを取り出すと、少し多めに用意しておいて米を入れた。その上に鰹節をわぁ、と驚くほど入れる。
そうしておいて、もう一つ味噌汁用に湯を沸かした。

そうっと起こさないようにテーブルを片付けて、総司たちの水と、顔を洗えるようにタオルの支度をする。そっと総司の傍に行って、肩をゆすった。

「総司さん。総司さん、起きてください」
「う……。はぁ……、理子?」
「起きて、水飲んでください」

差し出された水を一気に飲み干した総司が、重い瞼を押し上げて理子の顔を見た。

「具合、悪くない?随分、酔っぱらってたから……」
「ん、少し頭が重いけど、総司さん達の方が……。動ける?」
「まだ無理……。お水もっともらっていい?」

うん、と頷いて理子はキッチンに向かう。ずっしりと重い体を引き上げた総司は、ふらつきながらキッチンの理子を追いかけた。

 

 

– 続く –