僕らの未来 1

〜はじめの一言〜
おお、恐ろしい。さかのぼったら去年のクリスマスぶりですよ。ほんとに1年ぶりに登場
BGM:
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慌ただしく家の中を動き回る姿。それを見ていた総司が、何度目かの声をかけた。

「理子。少しは」
「ストップ。もう、先生、しつこいです。先生は気にしなくていいからゆっくりしててくださいね」
「ゆっくりって」

―― ……できるわけないでしょう

その先を飲み込んだ総司が部屋の中で所在無げに立ちすくむ。その間も、理子は忙しそうにキッチンと洗面所やほかの部屋など行ったり来たりを繰り返していた。

「だって、クリスマスの前に連休がとれるなんてめったにないでしょう?しかも仕事はその前半に集中してたから、こんな風に目いっぱいクリスマスの支度ができるなんて!」

そういうと、嬉しそうにペーパーナプキンをクリスマス柄のものに取り換えた。普段使いのものを、代わりに袋に入れて戸棚にしまう。

今年は、結婚して初めてのクリスマスである。それほど広くはないがこの家に近藤や沖田、斉藤夫妻に藤堂ら皆を呼んでクリスマスパーティをする予定になっていた。

「原田さん、今日帰国でしたよね。お部屋、向こうに準備しましたから」
「それは、もう二回も聞きましたよ」
「そうでしたっけ?ああ。もう、タオルを持ってこなきゃ」

原田は今日帰国して、そのまま一橋家に滞在することになっていた。原田のために、理子の仕事部屋をあけている。バスタオルやフェイスタオルを持って行ってなかった、と呟いた理子に再びため息をついた総司が動き出す。

「私が用意しますよ。どれです?」
「その、モスグリーンのセットをお願いします」
「はいはい」

これだけ言っても聞かないのだから仕方がない。手伝う方がまだましだと思った総司は、タオルを手にすると、玄関わきの部屋へと向かった。

二人が一緒になって初めての年、一緒に暮らしてはいたが夫婦という誰しもが認める関係になったというのは理子にとって大きなことだった。
昔なら、絶対にありえなかった未来を手に入れたのだ。

「……先生がなんていっても、頑張らないわけないじゃない」

小さく呟いた理子は、正直なところ疲れていたがそれでも手を休めるつもりなどない。今夜、帰国した原田を迎えるための夕食の用意と、クリスマスディナーのための下ごしらえに忙しい。

総司と理子の結婚式の時以来の帰国になる原田のために、和食のメニューを整えて、作っておける先付などは器に盛って、ラップをかける。

その間にひんやりと冷え切った部屋にいた総司は、しまいこんでいたいたパイプベッドに腰を下ろしていた。

このところ、クリスマスだけでなく、ずっと、理子の様子があんなふうなのだ。

「ちょっと、遣手婆みたいだった神谷さんに似てますけど、よくないですねぇ」

部屋の中を見渡しながらぽつりと呟く。理子が好きでやっていることなら構わないし、好きなようにしてくれて構わないとも思っている。自分もリクエストがあれば口にするし、家の中だけでも二人で何かを動かしていくことは総司も楽しんでいるにはいる。

だが、それでも今の理子は少し行き過ぎているような気がした。

―― いったいどうしたっていうんでしょうねぇ

それが悪いことではないだけに、どうしたものか、と様子を見ていた総司もさすがにそろそろ黙っているわけには行かなくなってきた。
理子が口にしなくても、見ていればわかる。

明らかに疲れているはずなのに、一つ終わるごとに、自分を奮い立たせて無理をしているように見えた。この部屋も、理子の仕事部屋ではあったが、目に付く場所からはほとんどのものが片付けられていて、この短期間で整えたとは思えないほどきちんと片付いていた。

壁にかかった時計を見た総司は、ふむ、と一つ考えてから立ち上がった。

「理子。そろそろ一息入れましょう。原田さんが着くのはどうせ夜になってからです。今のうちに一休みしないと、疲れますよ?」
「ん……。わかりました。じゃあ……」

渋々手を離した理子の傍に、総司が立つと、強引に理子の手からカップを奪って、ミルクティを入れた。ソファの前にカップを二つ運ぶと、理子を引っ張って腰を下ろす。

「ふう」
「お疲れ様」
「あ、全然!疲れてるわけじゃないの!」

少しでも疲れたと言ったら、間違いなく総司に止められると思った理子は、慌ててフォローしたつもりだった。
その手からカップを取り上げた総司が足の間に理子を抱えこんだ。

「理子」
「……ん?」
「ちゃんと聞かせて欲しいんだけど。……何を無理してるの?」

ちらりと理子の目に動揺が走って、総司から視線を外した。
普段は、恐ろしいくらい理子に甘い総司だったが、こういう追及の手はひどく鋭い。

「無理なんか……」
「してますよね?」

気まずそうに下を向いてしまった理子の頬に総司の手が添えられて、少し強引に上向かせられる。

「……ちゃんとしたいなって思っているだけで」
「いつもの理子がちゃんとしていないなんて思ってませんよ?」
「でもいつもは先生が手伝ってくださってて、私、いつも忙しさにかまけているから。もっとちゃんとしなくちゃって」

頬にあてられた手のせいで逃げ場をなくした理子に、ふうっと近づいた総司は、妙に肩に力の入っている理子に額を寄せた。自然と伏せられた目を間近で見つめながら、ゆっくりと唇を合わせる。

柔らかく触れ合った唇を舌先で舐めれば、ほんのわずか開いた隙間に入り込む。

「ん……」

疲れ切った理子が、横になってからすぐに眠ってしまってここしばらく、触れるだけのキスだけだったから、少しずつ深くなるキスに互いに夢中になる。

「は……、んんっ……う」

時として頑なになる理子を溶かしていくキスを繰り返しながら、少しの苛立ちを織り交ぜた総司は抱きしめる腕に力を入れた。

– 続く –