僕らの未来 14
〜はじめの一言〜
こういうまとめって先生的には満足でもどうなんだろうか・・・・
BGM:嵐 One love
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「お茶入れましょうか」
「それよりここにきて」
むすっとした顔の総司に呼ばれて、ソファの隣に腰を下ろす。じい、と見つめてくる総司に理子は困った顔で手を伸ばす。
「総司さん。何を怒ってるんですか?」
「怒ってるんじゃない。ただ……、そんなに私は頼りにならないのかなと思ってるだけです」
「え?それ、どういう……」
理子がそっと総司の手に重ねていた手がするりと抜けて、理子の頬に添えられた。
セイも理子も、いつも自分の力でなんとかしようとして、頼ってくれることが少なかった。
「結婚したからと言って、仕事を変えようとしたりしなくていいんです。もし、周りが勝手にそうするなら、あなたは怒っていいんですよ」
「総司さん。なんで、それ……?」
「昨夜、酔っぱらって言ってましたよ」
総司に思いがけないことを言われて、驚いた理子に自分自身がそう言っていたというと、自分に舌打ちをしたくなる。総司にだけは知らせれたくないと思っていたのに。
「そんな、酔っ払いの戯言なんか」
「戯言じゃないでしょう?そうやって、一人で抱えるのはそろそろやめませんか」
怒ったような、どこか拗ねたような顔で、理子の頬にあてられていた手が下に降りて腹に触れる。服越しに手の平を当てた総司は、未来を思い描く。
「子供が欲しいと言ってくれて嬉しかったんです。でも、それがあなたがあるべき形に拘っただけのことなら欲しくはない。ひどくエゴイスティックかもしれません。でも、私はあなたがすべてなんです。未来の子供よりも」
いくら二人の遺伝子を受け継いだ子供だと言っても、生まれた瞬間から自分とは違う一個の人格だと思うと、一つになりたいとさえ思う相手は総司にとっては理子でしかない。
こんなことを言ったら見損なわれるかもしれないという気持ちはもうなかった。
「昔なら、家のために子を産んで守り育ててくださいって言って、自分はいつ死んでもおかしくないと思っていたかもしれません。でも今は違う。今は、何があっても、絶対に、理子を残して自分が先に逝くなんてありえないからこそ、あなたが嫌な想いをするくらいなら」
「総司さん!待って、待ってください。私、確かに、総司さんに家族をとは思いましたけど、それは、違うんです。先生が、子供を欲しいと思っていたから、だから、今なら先生の子供をって思ったんです。嫌なんかじゃないし、拘ったというなら、そこに拘ったんです」
総司はエゴイスティックだと言ったが、自分だってそうだ、と理子は思う。
叶えたかったのは、総司の夢と言うより、沖田を名乗っていた時の総司の夢だ。
ふざけて、あなたとのややならどんな子供になるんでしょうねぇ、と言ったことなど、もう総司は覚えていないだろう。
それでも、あるべき姿なら、総司にとって、理子と二人だけの暮らしではなく、そこには二人の子供もいるはず。
それを身勝手な想いだというなら。
「……怖いんですか」
「え?」
ふいに頭に浮かんだことに気づいた総司が目の前の理子を抱き寄せた。
「怖いと思っているなら無理することなんてないんですよ?」
怖い。
自分が変わってしまいそうで。
総司が変わってしまったら。
全ての生活が変わってしまうことを怖がっても仕方がないとわかっているのに。
そこに理由を欲しがったのは怖いからで、変わっていく自分を受け入れるのが怖かったからだとしたら。
「……私みたいな女が、ちゃんとお母さんになれるかなんてわからないし」
「それは私だって一緒ですよ?」
こんな男が、ちゃんと父親になれるかなんてわからないでしょう?
少しだけ腕を緩めて間近で笑った総司を見ていると、自分の中でもやもやと形にならなかったものが、いろんな形を作り始める。
理不尽だと思ったのも、理不尽だと言っていいのかさえ、不安だったのは、変わっていくことが大きすぎたからだ。
自分で望んだ結婚も子供も。望みはしたものの、自分よりも周りに流されるペースで変わっていく気がして。
どこにも落としどころのない不安。
「今までは一人で向き合っていたのかもしれないけど、今は違うはずです。私はそんなに頼りになりませんか?未来の話をしたのはあなただったからです。それが重荷になるならそう言ってください。でも、そうじゃないなら……。どんな小さなことでもいい。話してくれませんか?」
「でも……、だって……。いい年して」
「いい年しててもなんでも不安なら不安と言ってほしいんです。支え合うのは駄目ですか?」
今更のような問いかけは、どこまでも不器用な理子が、全力で甘えてくれる日は来るのだろうかという、総司の不安でもある。
どちらも不器用だからだと、歳也には叱られそうだったが、とにかく、伝えるしかない。
「……怖いです」
「あ……」
「……総司さんの子供は欲しいのに、でも、ほんとにちゃんとお母さんになれるのかなとか、それで生活が変わってしまうのとか、一人でできなかったらどうしようとか、普通に皆、お母さんになっていくのに……」
どうしよう、という気持ちが溢れだしてきた理子に、額をつけ、頬をつけて、それからゆっくりと唇が触れる。
「そう、ですね。私も、不安ですよ。あなたが私だけの理子じゃなくなるとか、ものすごく嫌ですし、あなたの一番じゃなくなるのは嫌だなぁとおもいますし」
「それ、そんな……」
ソファの上で、まっすぐに向き合って。
ふふっと笑い出した理子が腕を回して総司にぎゅっと抱きつく。
「私達、本当に、こうして話をしないでいると、駄目ですね。桜の下でも話したのに時々、忘れちゃうわけじゃないんですけど、わからなくなってしまって」
「そうですね。それに、私たちは、あまり考えない方がいいのかもしれない」
考えすぎて、いろんなことがあったのだから、一緒にいられるようになった今、少しだけ流れに身を任せてみてもいいかもしれない。
頬にキスした後、耳元に口づけて、いつもはピアスが揺れる耳元を軽く食む。
「ちょっとだけ後悔してたんです。原田さんを泊めるの」
「どうし」
「気を使わせちゃいましたけどね」
優しいキスから、抱き寄せる腕に力を込める。折れそうなくらい華奢な体はあの頃よりもずっと柔らかくて、総司を受け止めてくれる。
「私も、あなたも、普通とはちょっと違うかもしれないから、私たちなりの家族を作りましょうよ」
「ん……、でも」
「もう、でもも、だってもいいから」
―― 全部、預けてみて……
– 続く –