微甘編<短>惑いの時間 2
~はじめの一言~
本来こういう路線ですよね。
BGM:小柳ゆき あなたのキスを数えましょう
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副長室に報告に現れた総司は、土方とセイの気まずい雰囲気に二人の顔を見た。
「な、なんだよ。総司」
報告が終わってもまじまじと二人を眺めている総司に土方が戸惑いの声を上げた。
「……なんだかお二人とも変ですね。土方さん、貴方、神谷さんに何かしたんですか?」
「ばっ、馬鹿野郎!何ってなんだよ!!」
「うわぁ。その動揺、怪しすぎですよ?ねぇ、神谷さん」
急に話を振られてセイが顔を赤くする。
「な、なんですよ急に。知りませんよ」
「神谷さんも怪しい……」
動揺したセイに不審の眼を向けた総司はぐいっとセイの腕を掴んだ。
「神谷さん?」
「ほんとに、なんでもないです!!あのっ、昨夜私が咳き込んで苦しんでいたらお水を汲んでくださっただけです!!」
「……昨夜……?」
―― そこに引っかからなくても!!
そう思ったのは土方とセイの両方だったに違いない。
しかし、総司は全くそれには構わずにくるっと土方の方を見た。
「土方さん、そんなに具合の悪い神谷さんに無理させてるんですか!?」
「いやっ、そんなことするわけないだろ。それに、この部屋にいるようにしてあんまり動き回らなくてもいいようにしてるんだぞ」
「だったら神谷さんを南部先生の所に行かせてあげたらいいじゃないですか」
「俺は、こいつに医者に行けっていったぞ?!こいつも薬をもらってきてる!!」
セイに関わると、とたんに過保護になる総司に、土方は昨夜のことがあるだけにどうにも強気にでにくい。
普段と違う土方の様子に余計に、総司の不信感をあおったらしい。
セイが手にしていた本を取り上げて土方に押しつけると、ひょいっとセイを抱え上げた。
「ちょ、ちょっと、沖田先生~!!」
「土方さん、神谷さんは風邪が治るまで客間で預かりますね」
「お、おい」
ばたばたと暴れるセイを抱えたまま総司は土方に宣言するとさっさと副長室を出た。
「なんだよ、あいつ。あれで衆道じゃねぇってか……」
―― いや、俺も昨日……
自分自身もそのセイに惑いそうになったことを思い出した。ちっと舌打ちをして、土方は隊士棟へ向かう。
一番隊の部屋で山口を見つけると、客間に頭を冷やすために水を汲んだ桶や手拭いを持っていくように指示を下した。他に、総司の代わりに隊務をこなす様に言いつけると苦笑いを浮かべて副長室に戻った。
「ったく、俺もヤキが回ったぜ」
客間では、強引に連れ込まれたセイが暴れていた。
「沖田先生!大丈夫ですってば」
「神谷さん?力づくで寝かしつけられるのと大人しくするのとどっちがいいですか?」
―― こ、怖い
総司の目が本気でやりかねないことを伝えている。ぴたっと動きを止めたセイが怯えて総司の顔を見上げた。
「わたったみたいですね。初めからそうすればいいんですよ」
満足げな総司は、床を準備するとセイに横になるように言った。そこに、土方の指示で山口が水を張った桶と手拭を持って現れた。
「よく気がついてくれましたね」
「副長から指示されました。隊務も代わりにこなすよう指示されてますので」
―― 土方さんらしいですね
くすっと総司は思わず笑ってしまった。よほどセイに気を遣っていたのか、本当にセイが心配なのか、きっと土方のことだから両方だろう。
ただ。
土方の動揺からすると、セイを今までのように見られなくなっていることは確かだろう。そして、セイも今まで鬼副長だと言って、怒っていたときの反応とは違う。
そう思うと、居ても立ってもいられない気分になってしまった。
悶々としたまま、薬を飲んで眠るセイの傍についていた総司は夕方になると賄い所に立った。小者にセイのための粥を頼み、自分の膳とともに客間に運んだ。
「神谷さん?」
客間に戻って二人分の膳を置くと、まだ眠っているセイの顔を覗き込んだ。寝苦しそうにしているセイの目から涙が零れ落ちた。
「神谷さん?!」
眠りながら泣くなんて、と総司が驚いて声をかけると、微かなうわ言が聞こえた。
「……イヤ、……くちょ……」
「……っ!!」
ざっと頭に血が昇る気がした。総司は立ち上がると土方の元へ向かった。
– 続く –