ないしょ、ないしょ 6

〜はじめの一言〜
先生ってばどっちに甘いんでしょうねぇ

BGM:
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ぷちぷちぷちぷち。

無口になってセイも土方も必死になって豆を開けてはぱらぱらと中から豆を取り出していく。左右の二人をちらっと見ながら、二人の目の前から均等になる様に総司が豆をとって中を開けていく。

―― どこまで意地っ張りなんでしょうねぇ。二人とも

足元のざるに落とした豆の量を見比べると、手際はいいとしても手の大きさが有利なのか、土方の方が多いようだ。

「あ」

わざと二人の気を引く様に声を上げた総司は、ねぇねぇ、と土方とセイの両方に向かって声をかけた。

「見てくださいよ、二人とも。ほら」
「だから、これは真剣勝負だって、……うぁおっ!!」

ざざっとその場から一気に離れた土方に、無言で豆をむいていたセイが顔を上げた。目の前に差し出された指を見て、ああ、と呟く。

「居候ですか」
「そうなんですよ。あれ?土方さん、どうしました?」

後ずさった土方の青ざめている顔が完全に引きつっている。土方の手が止まっている間にもセイはぷちぷちと豆を開いていく。

総司の指の先をせっせと移動している小さな虫をちらりと見ながら、嫌がっている顔の土方の姿にくすっとセイが笑った。

「もしかして副長、こういう小さいのも駄目なんですか?」
「やだなぁ。神谷さん。土方さんは駄目なんじゃないんですよ。それよりも想像力が豊かなんです。先読みをする能力にたけていますからね」
「先読み?」

手を休めないセイのざるの中にはどんどん豆が溜まっていき、土方のざるとほとんどかわらなくなってくるが、土方は手に握っていた豆も後ずさった時に籠の中へと放り出していた。

わざと間を開けた総司は、それぞれの様子を見ながら片手でゆっくりと豆を割っていく。

「ですからね。豆ごはんにこういう居候がいたとして、もしそれがまぎれてご飯と一緒に炊きあがって、それがご飯に交じっていたら気付かないうちに」
「やーめーろっ!!総司ぃぃぃっ」

耳をふさいだ土方の絶叫が響いて、土方は自分の部屋へと飛び込んだ。

「あれぇ?副長?勝負の最中ですよぅ?」
「う、うるせぇ!!神谷!この勝負、俺の負けでいいからなっ」
「おや。そうですか。だ、そうですよ?神谷さん」

ちょうど最後まで豆をむき終わったセイは、至極真面目な顔で殻を駕籠に放り込んで、土方のざるも取り上げるとざざっと、自分のざるにあけてしまった。
総司は指先の乗せていた虫をぽいっと庭先に放り出すと、セイのざるへ自分から豆をあけた。

「副長、それじゃあ、夕餉を楽しみにしてくださいね」

駄目押しにそう言ったセイに向かって、部屋の中の土方が何かを投げつけてきた。その直前に総司が障子を閉めていたために、投げつけられた何かは障子にあたってばさりと落ちた。

それでも悔しかったらしい土方はどすどすっと足音を響かせて近づいてきたかと思うと、足元に落ちた本を蹴散らして障子を開けた。

「俺は!飯は、いらん!!」

ぎらりと睨みつけると、再び勢いよく障子を閉めた。

 

 

 

「それで?なんでお前はまだここにいるんだ?」

夕餉の時間だと言うのに、副長室に居座っている総司に向かって、ひどく不機嫌になった土方は後ろを振り返ることなくぼそりと呟いた。

「やだなぁ。土方さんと一緒に夕餉でもと思ったまでですよ」
「てめぇ……。そこまであいつの味方すんのか」
「そんなことありませんて。それに神谷さんもそんな人じゃありませんよ」

いかにも面白がっている口調で総司がそういうと、筆を握りしめた土方は、ぎりぎりと歯ぎしりを響かせた。
どうせ、総司の事だ。面白がっているうえに、今日の夕餉の豆ご飯を目の前で見せびらかしながら食べるつもりかと思うと悔しさも倍増する。

部屋にはとうに灯りが入っていて、夕餉が運ばれてくるのを待つばかりだ。

「お前、ほんっとに性格わりぃな……」
「いやぁ。それほどでも」

へらへらと笑う総司を見ていると腹が立って仕方がない。
てっきり近づいてくる足音が聞こえるとばかり思っていた総司と土方は、目の前に来たセイが床に膳を置いた音で、そのことに気づいた。

「副長、失礼します」

すすっと障子が開いてセイが二人分の膳を運んできた。ちらっとそれを見た土方が、ぷいっと背を向ける。

「俺はいらねぇって言ったからな」
「まあまあ、土方さん。そう言わずに一緒に食べましょうよ」
「あのなぁ、総司」

くるっと振り返った土方はそこでぴたりと動きを止めた。そこには総司の膳と土方の膳が並んでいる。

「さっさと召し上がってくださいね」

くすくすと総司が笑う目の前には豆ごはんではなく、白飯と菜物のお浸し、目刺しが三尾、それに香の物が膳の上に乗っていた。
腹が空いていた土方は、一瞬嬉しさが顔に浮かびそうになったがすぐに顔を引き締めた。その一瞬を総司もセイもしっかり見てはいたが、口元をすこしだけ緩めただけで笑いはしなかった。

「ほぉら、ね。さ、土方さん、食べましょうよ」

意地になった土方が背を向けると、ばしん、とセイが勢いよくお櫃の蓋を叩いた。

「よろしいですか?ご飯はこのお櫃に入ってる分しかありませんからね!」
「……」
「聞こえましたか?!副長」

聞こえないふりをしていた土方の耳元で怒鳴ると、ふん、と腰に手を当てたセイが給仕を総司に頼むと副長室を出て行った。

 

 

 

– 続く –