風の行く先 おまけ

〜はじめのひとこと〜
拍手お礼画面にてタイムアタック連載中のお話です。

BGM:
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宴会に雪崩れ込んだ後、その日ばかりは屯所に留まる事を許されたセイが幹部棟の小部屋にいた。
どの隊部屋も幹部の部屋も、部屋の主ばかりでなく入り乱れており、どこかしこに酒につぶれた面々と、酒には弱くてただ一緒に盛り上がった面々が隙間なく眠りこけていた。

局長室で取り囲まれた総司は、セイの分も酒を飲み、土方と藤堂に殴られて切れた口の痛みに時々顔をしかめていた。

「大丈夫ですか?」

明日まではまだ組長と隊士でいろと土方から釘を刺されていたが、ごろごろと皆のいる部屋では流石に居づらくて小部屋に避難してきている。
殴られた顔に手当てしないまま、いつも以上に酒を過ごしていたので、総司の顔はすっかり腫れ上がっていた。
ふらつく足元を支えて、小部屋まで総司を運んだセイが、布団の上に転がった総司の顔に薬を当てて、冷やしている。

時折、厠に立つ足取りさえ怪しくなるほど飲まされた総司が酒気が強い息を吐いた。

「痛みますか?」
「痛いような、痛くないような……」

ぼんやりと夢でも見ているかのような呟きにセイが小さく笑った。

「結局、どっちなんですか?」
「痛いんだと思うんですけど」
「けど?」

塗り薬をつけて、顔のほとんどに濡れた手拭いを乗せていた総司がふわりと手を動かして、傍にいるセイを探す。空を切る手を掴まえたセイを、思いのほか強く総司が握った。

「沖田先生?」
「痛くなかったら、夢かも知れないと思うと、もっと痛んでもいいくらいなのに思ったよりも痛くないんですよ」

まるで謎掛けのような総司の言葉にぱちぱちと目を瞬いた。セイの手を掴んだ総司が親指でゆっくりと撫でている。

「私も……。まだ……、夢のような気がします」

昨日までは、性別詐称で切腹か、除隊かと。
もう二度と会えなくなるのかと。

絶望的な気持ちに囚われていたのに、今、こうして総司の傍にいられることが不思議なくらいで。

「謹慎って土方さんが言ってましたけど、あの家で一人で謹慎なんですかね」
「さあ……。沖田先生は一月、非番なしですよね」
「ひどいなぁ。私だって、まだ神谷さんと全然話す暇もなかったのに」
「本当にそうですね。まだ全然、何がどうなってるのかよくわからないくらい……」

密やかな会話を続けていた総司が、セイの一言で顔に乗せられていた手拭を片手で払いのけた。

「本当に?」

急に半身を起こした総司にセイが目を丸くして驚いた。つないでいた手を強く引いて、総司が繰り返す。

「本当にわかりませんか?」
「あ……。え、と、なんだか夢のような話が急に次々出てきて」
「それで?」
「ついていけないうちに、どんどん話が決まって」
「だから?」

総司の強い目に押されたセイが自分でも自覚のないままに怯えて、しどろもどろに言葉を紡ぐ。

「土方さんが言ってましたよね。明日まではまだ組長と隊士でいるようにって」

セイの手を掴んでいたのとは反対の方の手がセイの頬に伸びる。

「お、沖田先生……」
「でも、肝心な貴女がわかってくれないと困るんです」

言い終わるのとほとんど変わらないところで総司が掴んでいたセイの手と頬に伸ばした手を同時に引き寄せた。

軽く目を伏せた総司がそっとセイに唇を重ねる。

驚きにセイが目を見開いたまま固まってしまった。

―― だから内緒にしてくださいね

あの家にいた時と同じようにそうっとセイを両腕に抱えて耳元で囁いた。真っ赤になったセイが、驚きと恥ずかしさで総司の肩に顔を隠す。

「神谷さん?」
「……はい」

消え入りそうな声でセイが答える。

「大好きですよ」

ぴくっと抱えられていた腕から身を引き気味だったセイがゆっくりと、総司に腕を回す。小さく小さく総司にだけ聞こえるように囁いたセイを抱えて、総司は幸せに酔いしれた。

– 終わり –