先生の大事なもの 4
「はあ……」
「だから!お題なんかもうっ!」
「そうだ、お題を仕込んだって……」
後ろ手に縛られた手首を残してセイの縄を解くと、とにかくセイを引き起こした。
そのセイが、よっと、掛け声をかけて右足の足袋のなかから、小さな紙切れを取り出した。
「はい」
「はいって……」
かさりと開くと、原田の字で、おまさに原田からだと言って、かんざしを買うこと、とある。
「まだありますから」
「これ、貴女の体のあちこちに隠してるんですか?!」
「自分で隠しましたよ!!でも!!巻き込まれて腹が立ってるならすぐに渡さなくていいって……。ひどいですよね。結局、お題をこなして帰らないと私まで巻き込まれてるのに」
刀を脇に置いて、どさりと総司が片膝を立てて座り込んだ。
「沖田先生?」
片方の膝に腕を乗せて総司は、頭を抱えた。
セイが深手を負ったと聞いて、生きた心地がしなかった。そして、この部屋に入った瞬間のあの恐ろしいものを目にした時。
「……は、はは。参りました。本当に……」
「先生?」
腹を立てていたセイにはわからないが、本当に総司は心臓をわし掴みにされたような気がしていた。
一気に事を理解すると、どっと力が抜けてしまったのだ。
まだ後ろ手に縛られたままのセイが、じりじりとにじり寄っていくと、総司が片腕でセイを引き寄せた。
「先生?」
「ほんとに……」
―― 生きた心地がしなかった
小さく吐き出した本音に、セイがふっと総司に向かって体を寄せた。
「先生ったら……」
「本当に、貴女がどうかしたんじゃないかと思ったんですよ」
「そんなわけないですよ。だって、本当なら先生に黙って屯所をでるなんてありませんし」
「ええ。だから、土方さんの命なら仕方がないし、私も皆さんを怒らせていたみたいですしね」
引き寄せたセイの肩に頭を乗せて、総司は何度も頷いた。
「先生?お題、手伝いますから」
こく、と何度も総司が頷く。ふわっと総司から汗のにおいがしてセイがくすっと笑った。
「先生、汗臭い」
「だって!屯所から走ってきたし、それに変な汗かいたし!」
「はいはい。じゃあ、これほどいてください。お湯いただいてきて差し上げますから」
後ろを向いて手を示したセイに、総司は背後からセイを抱きしめた。
「もう少しだけ」
―― 寿命が縮まるかと思ったんですから、もう少しだけ落ち着かせてください
仕方ないなぁと笑って、セイは、背後の総司に頭を預けた。
――――― 終わり。
なわけがない。