青い雨 14

〜はじめのつぶやき〜
急に更新し始めてどうしたのかしら!って思われてるかもしれない!(いや、その前にここにきていらっしゃる方、まだいてくれるのか不安)

新しいモニター買ったんですよー。すごくいいんですよー。作業はかどるんですよー。

BGM:青い雨
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「しゃーない。うちらはとは根本的なとこがちゃうのは」

笑うだけ笑った後、両膝に手を置いて背を丸める。

山崎がというより、彼らのほとんどはお柏のような女を見ても大して気にはしない。せいぜい、面倒な女だと思うか、多少の鬱陶しさは覚えても自分に関りがなければその程度のことだ。

そして、仮にセイの立場だとしても山崎も総司も、その性質からして噂で遠巻きにする人々をうまく操作することであっという間に噂を消すことも、逆手にとって相手を無力化するところまで追い込むこともできるだろう。

「……どーしましょうねー」
「放っておくしかありまへん。こうなってしもたらもう下手に手を出す方がこじれますやろ」
「ですよねー……」
「あーあ。旦那にまで突っぱねられた神谷はんが可哀そうやわー。こりゃ、他に行くかもしれまへんなー」

最期の一言にじろりと目を向けた総司におどけて首をすくめてみせる。

「おお怖。さすがの沖田先生も女子のことばかりは相変わらずや」
「それこそ仕方ないでしょう。私は土方さんみたいになれませんし、原田さんのようにも永倉さんのようにもできませんから」
「それ、神谷はんも同じやありませんかねぇ」

頭を抱えた総司はその場でごろりと大の字に転がった。心境的には、そこの置かれた湯飲みの中身を頭からかぶるくらいはしたかったが、そんなことをしても単なる自虐でしかない。

「……難しいです」
「お互い、生きてる人ですから」

そういって、山崎は立ち上がった。どうせ話は済んでいる。伝六に後を頼んで山崎は荷物を背負うと仕事に出て行った。

総司がこうして山崎の元でくだを巻いていた頃、セイは診療所の小部屋にいた。
いつものように屯所に来て、皆に声をかけて特にこれといったこともなくいつも通りのはずだった。

薬種問屋から頼んでいた届け物が来た時、届けに来た小者を小部屋に通した。

「いや、すぐに失礼しますんで」
「中身を確かめる間こちらでお待ちください」
「はぁ……」

いつも頼んでいるため、小者も顔なじみで時には菓子を渡したりと、全く話ができない相手ではない。だからもあって、相手は居心地わるそうにしているし、セイは落ち着いている。

「先日は店に顔を出してしまって、皆さんを困らせてしまいましたね」
「え?ああ、いやぁ……、なんとも」
「気にしなくてもいいんですよ。なにせ、私はわがままを言ってこうして隊で働かせてもらってるくらいですから」

悪戯っぽく笑ったセイを見て、小者は頭を掻いた。

「あんまり気にしなくてもいいんじゃないですかね?」
「え?」
「いや、うちの旦那さんもそうですがね。偉い方々は時々、そういう事を取り立てて騒いだりするもんですが、どこの夫婦も大なり小なりありますでしょ」

手を止めたセイはぽかんとした顔で小者を見る。

「いずれまた忘れちまいますよ。それか、もっとすごい話でも出てくればそっちにいくでしょうし」
「……そんなものですかね」
「そんなものっすよ。だいたい色街の噂なんか……」
「色街……?」

セイを慰めようとして声をかけた小者はつい、良かれと思って言わなくてもいいことをいってしまう。
慌てて、小者は届けた薬の確認をせかして、急ぎ小部屋から出ていった。

ふと、思い立ったセイは小部屋を出て副長室に向かう。

部屋の前で膝をつく前に開いていた障子の中から声がかかった。

「神谷か?」
「失礼いたします。今少しよろしいでしょうか?」
「ああ。ちょうど一休みしてたところだ。なんだ?」

茶をすすっていた土方の部屋に入って、腰を下ろす。
もう、湯飲みがほとんど空なのをみて湯を足す。急須を差し出すと、素直に湯飲みがもう一つ出てきた。

二つ分、茶を淹れてからどう切り出すか、迷って。
迷っても仕方がないと口を開く。

「あの、最近おかしな話でご迷惑を……」
「あ?ああ、あのお前がわがままだ―とかなんとかそういうやつか」
「はい。私自身が知るのに時間がかかってしまった間、ご迷惑をおかけしました」

ふっと、土方が小さく笑う。

「ご迷惑も何も、いつものことだろうが。隊士の何やらしましたーなんて噂話をまともに全部聞いてられるか」
「それは……、そうだと思うんですが……」
「じゃあ、なんだ」
「え……と、出所とか……」

膝の上に肘をついて頬を乗せた土方は、幾分面倒くさそうな顔になる。
そういえば、と普段は忘れがちなことを思い出す。

隊にいる上に、神谷清三郎の記憶もあるだけにセイを女としてみることが少ないから、時々らしいことを言い出す時に、そうだったな、と思い出すのだ。

「……出元なぁ。それがどうした」
「花街、と聞きまして、その……」
「らしいな。だからどうした」
「……」

何と言っていいかわからず黙り込んだセイに、土方は大きなため息をつく。

「あのなぁ。うちの者たちでそんな話気にしている奴なんかいねぇよ。せいぜい面白がってからかうのが関の山だろ。気にしてどうこう言う奴がいたらとっくにお前のところに言いに行ってる。それが今までなかったなら気にする必要なんかない。それだけだろ」
「それは……」

言われてみてわかることがある。
気にしたり、何か思うところがある者がいればもっと早くセイの耳に入ってたはずだった。

「でも……」
「でももくそもねぇんだよ。相変わらずお前は馬鹿正直だな。それにお前が気に入らないからって、正面から文句でもいえば気が済むのか?そうじゃねぇだろ」
「……ひどい、と思ってはいけませんか」

うまく言葉にできない気持ちを言葉にできないから取り繕わずにほんの少しこぼしてみる。

ぬっと手を伸ばした土方はセイの頭を掴んだ。

「へっ?!」
「相変わらず馬鹿だなぁ、お前は。お前がどう思うなんか、どうしたって好きにすりゃいいんだよ。誰もそれが悪いなんて言ってねぇだろ。腹が立つなら腹が立つでいい。うまいもん食うでも、ひと暴れするでもなんでも好きにしろよ。だが、相手と同じ土俵に乗っかったってお前の気は晴れないだろうつってんだ。だったらそんなことをするより、憂さ晴らしだけにしとけつってるだけだろうが」
「い、いいんですか?」

総司に突き放されて、セイの気持ちまで悪いと叱られた気がして、落ち込んでいた気持ちが思いがけない言葉に拾い上げられた。

「逆に聞くが、なんでそれが悪いんだ?」
「でも、あの」
「あのなぁ……。お前、もう今日は帰れ。余計なこと考えるならあれだ。お里のところに寄って帰れ」

どっと力が抜けた土方は、相変わらずだなぁとぼやきながらもセイにそういって、手箱を引き寄せる。小粒を握って、懐紙にくるんだそれをセイに差し出した。

「ほら。これで何か上等なやつでも買っていくんだぞ」
「……小遣いつきなんてどう……。いえ、ありがとうございます」

気が抜けてしまったセイもうっかり本音を言いかけて途中で飲み込んだ。
それを握りしめて、立ち上がる。

「わかりました。お言葉に甘えます」

小部屋に戻って、支度を済ませた後、小者たちに土方の指示で今日はもう上がると伝えたセイは、荷物を手に屯所を出た。