青い雨 2

〜はじめのつぶやき〜
あらしって言ってもね。色々あるよねってことで。
でも久々に書いてるから若干テイストが違ったらどうしよう(汗

BGM:青い雨
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –
「冷たいなぁ……」

勘定方の部屋を追い出された総司は一番隊の隊部屋に向かいながらぶつぶつとこぼす。
セイと夫婦になってから、度々の犬も食わない痴話喧嘩や総司の盛大な惚気の数々により、この二人の話をまともに聞くものは少ない。

ほとんどが右から左に話を流しており、時々発展しそうな時にだけ、近藤や土方が顔を出すことになる。

そして、大抵、引っ掻き回すだけなのが永倉と原田の担当だ。

セイに限っては、斎藤と藤堂が面倒を見ることが多いが、総司に関しては誰もが、というありさまだけに八十次郎の対応が特別冷たいわけではない。

「皆さ~ん」

隊部屋に入った総司はその場にいる者たちに声をかけ、一人一人に報奨金を渡していく。
それぞれ、すぐに行李にしまい込む者、懐に入れて足早に部屋を出ていく者と様々だ。

最後に総司は自分の分を懐に入れて、腕を組むと廊下に出た。

たまには、たまにはと思いながらいつもセイには何もいらないと断られてしまい、夫婦になってからセイにはこれといったものを買ってやれていない。
時間がたてばたつほど、重なっていき、今では今度こそ、と毎度何かしようとしてセイに却下されている。

「どうして頑ななんでしょうねぇ」

金などいくらでもあるわけではないが、仮にも一番隊組長である。一度くらいと思うのだが、これだけ断られると総司もこだわってしまう。

『お給金は私もいただいておりますし、先生のように捕り物があっての報奨金はありませんが、けが人の手当てや何かあればその分の手当てはいただいていますから、お気遣いは無用です』

取り付く島もないとは、まさにこれだと思う。

着物でもと思えば、総司のほうは捕り物やなにやらで仕立てなければならないことも多く、その分としてセイに渡しいつも用意してもらっている。セイの分もというのだが、きっちりと残った分は取り分けて合って小物が必要になった際にそれを使っているらしい。

貸家の分は、隊が借り受けてくれているし、食事もほとんど二人とも屯所で済ませることが多い。

櫛やかんざしといったものなど、さらにあり得ない。
女髪といっても、セイは総髪に近い髪形に結い上げていて、それらを使うこともないのだ。

「これなら昔のほうがまだ素直にうけてくれてましたねぇ……」

折に触れて甘味巡りをしたり、セイの刀を拵えたりと昔を思い出してしまう。

とぼとぼと、幹部棟を回って診療所に向かおうとしていた総司は、ふいに両脇をつかまれた。

「なんだ、総司。しけた面して」
「また捕り物だったって?」

永倉と原田が総司の両脇を固めて、あっという間にくるりと向きを変えさせられる。今来た廊下を戻るように歩かされた総司は、えぇ~、と声を上げた。

「お二人は非番のはずじゃないですかぁ」
「その通り!そしてお前はそこにちょうど、通りかかった!」
「そのしけた顔をぶら下げてな!」

にやり、と総司を挟んで顔を見合わせた二人は、有無を言わさずに総司を連れて大階段に向かって歩き出す。

「そういう時はだ!男同士、うまい酒を飲むのが一番だ!」
「そうそう!そんでべっぴんさんでもいりゃなおさらだ!」
「ちょ、待ってくださいよ!」
「何言ってんだ。お前も神谷、神谷って騒いでないでたまには俺たちにつきあえってんだ」

金が入ったことは当然だがわかっているからだろう。
総司にたかるつもりで二人が待ち構えていたのも想像がつく。

「何言ってるんですか。もー……、構ってるとかじゃないじゃないですか」
「いいからいいから。たまにはいいじゃねぇか」
「そうそう。人の金で飲む酒はなおさらうまい!」
「私はうまくないですよ!」

抵抗はしているものの、半分は諦めが混じっている。この二人を相手にして、本当に駄目な時以外は付き合いも必要だと考えているからだ。

セイと一緒になってから、やはり付き合いは減っていることもあって、総司は引きずられるままに屯所を後にすることになる。

* * *

「神谷さん、お使いの方がいらしてますよ」
「はーい」

たすき掛けで動き回っていたセイは、診療所の高い棚に伸ばしていた手を下ろした。
普段使わないものはどうしても取りづらい場所に片付けてしまう。探し物をしていただけなので、小者に頼むこともなく踏み台を降りて、自分の部屋に向かった。

障子をあけて縁側から階段を降りると、小者と使いの者が見上げている。

「はい。お待たせしました」

たすきを外したセイに茶店の小者が頭を下げた。

「神谷さん、いつもどうも」
「信濃屋さんの……。お世話様です」
「沖田先生からの伝言で、原田先生、永倉先生と座敷に上がっているからと……」

頭をかきながら苦笑いでそう伝える小者に、セイは肩をすくめて頷いた。
清三郎だった時から、隊士たちの妓がらみの始末の手伝いには慣れている。隊が出入りする店の女将や小者ともほとんどが顔見知りだ。

そんなセイが色々あって総司と一緒になったことは彼らもよくよく知っている。
今は妻女であるセイに、座敷に上がっていると言伝を伝えるのは何とも微妙な心持になるのだろう。

「なんとも申し訳ないといいますか……」
「いえいえ、お詫びいただくようなことじゃありませんし。かえって面倒おかけします」
「はぁ。今日は生憎と先生方がお望みの娘が揃いませんで……」

座敷に上がったのはどの妓かもそっと耳打ちしてくれるのは、小者なりの心遣いなのだろう。

「千早と小菊はよいのですが、お柏も今日は出ておりまして。もし先生方に失礼があったらあいすみません」

千早も小菊も原田と永倉がひいきにしている妓女だ。小紫はまだ年若い娘だからこそ、総司ならばと席に呼ばれることが多いのだが、少しずつ人気が出てきており、埋まっていることが多い。
代わりに呼ばれたという、お柏の名前を聞いて、セイも微妙な顔になった。