青い雨 4

〜はじめのつぶやき〜
続きを書かなきゃーと思いつつ、すっかり時間があいてしまい。。。。
どういう話だっけ、と思い出すために自分も読み、え?この先は?(←お前が言うな)となったのでした。
ということで仕切り直しで続きでーす。

BGM:Pop Virus
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柏とかいて「おひゃく」という。もともとの名前は違ったのだろうが、新芽が出るまで古くなっても葉が落ちないところから、代が途切れない縁起物、というよりも、荒れ地でもしぶとく居座るところを皮肉られてつけられた。

若い頃から口が悪く、態度も悪かったので、先輩の妓たちにもいじめられ、禿たちにもなつかれたことはない。

見世にでるにも、着替えの間に小物がなくなり出るに出られないときは、まだ店に入っていくらも経たないのに堂々とこう言い放った。

「ふん。そんな小細工をしなくったって、あたしに客なんか付きゃしませんよ」

このとき、お柏は十三になったばかりだったというから、よほどひねくれて育ったものか。
それから酔狂な客がその口の悪さを面白がり、ぽつぽつと他の妓たちに比べれば少ない稼ぎだが、今に至る。

「そんなに何もいらないって奥方がおっしゃるならぜひともこちらに簪でも帯でも着物でもくださいましな」
「あはは、お柏さんは好みが厳しそうだからなぁ。どんなものがお好きなんです?」

なぜお前になど、と言われてもおかしくないところだがあっさりと流されてみてお柏は改めて総司をみて、眉をひそめた。

「恵んでやってもいいぞとおっしゃるんですね?さすが新選組の旦那はあたしらを見下していらっしゃる」
「えぇ?そんな事ありませんよ。ただ、女性の好みがわからないのでお柏さんはどんなものが好きかという話ですよ」
「はいはい。なんとでもおっしゃれますけどね。奥方も贅沢なら旦那はお偉いときた」

ふん、と鼻で笑ったお柏はそっぽをむき、袖で扇いだ。
まいったなぁ、と苦笑いを浮かべた総司が頭をかく。
小菊と千早は我慢ができぬとばかりに腰を上げそうになった。

「あー、千早。膳はまだか?」
「……急かしてまいりますね」

お柏が他の妓と一緒に座敷に出るとこの手の揉め事が絶えない。お柏とは絶対に同じ座敷には出ないという妓も多いくらいだ。

あまりに有名過ぎて原田や永倉だけでなく、総司も知っている。
酒を飲みに来て客のほうが気を使うというのも珍しいことだが、永倉がさり気なく小菊の膝をぽんぽんとたたいた。

気にするなということだろうが、日頃、あほだの、何だのといっていても、彼らはよく金を落とす客である。
その客にこの態度を取ることは同じ座敷に上がった者としては腹に据えかねるのだろう。

追加の肴を急かしに席を外した千早が女将を連れてきたようだ。

「お待たせしてあいすみません。先生方」
「いやぁ、悪いな。女将。急がせちまってよ。どうにも腹が空いててなぁ」

運んできたものは、豆腐に茸の葛餡をかけたもの、酢味噌和えはもう出ているからと、烏賊のすり身を揚げてそのまま出汁のきいた椀にいれたものだ。

「お腹がすいてはるんでしたら、ほかもお持ちしましょうか?」
「おう。飯も持ってきてくれていいぞ。何度も足を運ばして悪いな」
「いいえ、とんでもございません。お柏、ちょいと手伝っておくれ」

やはり座にすわったものの態度の悪さから、都合をつけてお柏をさげようとしたらしい。だが、そんな女将の思惑を知らぬふりでお柏はちらりと女将をみたもののぷいっとそっぽを向いた。

「はい?なんであたしが……」
「いいから。お柏、ちょいと……」
「女将さん、たった今、こちらの沖田先生がこんなあたしにもなにか恵んでくださるってありがたい話をしていたところなんでございますよ?」

それを邪魔するのか、と言うお柏に女将はにじり寄って何かを囁いた。
渋々立ち上がったお柏はそのまま断りもせずに部屋から出ていったが、女将は総司たちに頭を下げて詫びてから部屋を出ていった。

「先生方、ほんに申し訳ありません」
「おまえらのせいじゃねぇよ。気にすんな。な?総司」

女将が部屋を出ていってすぐ、千早と小菊が手をついて頭を下げたが、ひらひらと原田は片手を振った。
いたたまれない思いをした彼女たちを責めるつもりなど毛頭ない。

「はい。何も気にしていませんよ。お柏さんが行ってしまったのでぜひ、千早さんと小菊さんもどんなものが嬉しいのか教えて下さい」

気持ちを切り替えるようにそう言うと、千早も小菊も仕切り直しとばかりにあれこれと思い巡らせてはころころと軽やかに笑った。

「髪飾りはお嫌なんどすか?ほな、鹿の子や組紐はどないでしょ?」
「そうやなぁ。神谷はんは、いつもきりっとしてはるからええのとちがいます?」
「そういう小物だったら喜んでくれますかねぇ」

わくわく。
いかにもそんなふうに顔に総司をみて、千早と小菊は顔を見合わせて笑い出した。

「いややわぁ。沖田先生。堪忍しておくれやす」
「そうですわぁ。かわいらしゅうて憎らしいのを通り越してしまいますわ」

袖口で口元を隠した妓たちを前に、座はがらりと空気が変わった。

「お柏!あんた、一体、どういうつもりなん?!」

座敷を下がったお柏を引き連れて、自分の部屋に戻った女将は目を吊り上げて、長火鉢の縁を叩いた。
足を崩して座ったお柏はぶすっとしたまま、自分の袖を弄んでいる。

「なんでうちがへらへら相槌打たなあかんの?」
「何言うてるの!それがあんたの仕事やろ!!」
「そういうても、面白くもおかしくもあらへん話になんでお愛想せなあかんの。うちはそないあほやありまへんえ。旦那はんからなんか買うてくれはるって言うのをいらんいう、わがままな奥方の話どすえ?かなわんわぁ」

いかにも自分は悪くないという、お柏にきりきりとしていた女将はもう一声怒鳴ろうとしてから、火鉢の縁を掴んで何を思ったのか、ため息を付いた。

「あんたなぁ……。こないなこと、もう何度目になると思てはるのや……。他の妓達もあんたとは座敷に出たくない言う妓もおるんやで?」
「好きにしたらいいんとちがいます?うちがお座敷選んでるわけやなし。嫌やいうならお座敷断りはったらええんとちがいます」
「そないな話ちゃうやん。一緒にお座敷に出るんやさかいお互いに助けろとは言わへん。やけど、迷惑かけたり嫌な思いさせたらだめやろう?なんであんたには、それがわからへんねん」
「わかりまへんなぁ。うち、少しも悪くないと思いますけど?ほんまのことやないですか」

どこまでも嫌味なくらい空とぼけているお柏に、これ以上何を行っても無駄だと思ったのか、女将は頭に手を当てて立ち上がった。

「もうええ」

遣り手婆は見世の切り盛りで忙しい時間だ。小者に声をかけると旦那を呼んでくるように言いつけた。

その声が聞こえていたのか、打って変わってお柏は畳に手をついて振り返る。

「女将はん!旦那はんは呼ばんといて!気ぃつけるさかい」
「知るかいな。あんたには、もうなんべんも注意したやないの。ほんでも聞かへんやんか。先生方は、なんやかんや言ってもお得意様や。そのお得意様に失礼な態度をとるなんてもうこのままにはできひん」
「かんにん!かんにんな。なんでもするさかい旦那はんは勘弁して」

女将の足元にすがったお柏を振り払い、女将は襖をあけて廊下に現れるはずの旦那を待った。

— 続く —