強者の伝説 5<拍手文 15>

〜はじめの一言〜
や、やっと終わった。
BGM:トンガリキッズ B-DASH
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その間に総司の背中におぶさっていたセイがむくっと起き上がった。

「しょーーーーがないっ。神谷、いきまーす」
「えっ、ちょ、神谷さん?!」

ぴょんっと身軽に総司の背中から飛び降りたセイが浪士と新人隊士の間に走り込んだ。

「たぁっ!!」

走り込んだ瞬間に新人隊士の背後に斬りかかっていた浪士の腰のあたりを斬り払った。そして振り返りざまにもう一人、左腕に斬りつけた。

「は、はえぇっ」

二人の浪士の間でうろうろとしていた三人の新人は腰が抜けたように座り込んだ。そこに慌ててセイを追って走り込んだ総司と斎藤が浪士達に向かいかけて、新人達が右往左往しているために斬りかかれないところを、足元から滑りこんだセイが膝から下を斬り捨てた。

仕方なく新人隊士達の肩口を引いて斎藤と総司は後ろに下がらせた。

残る二人のうち、一人に向かって斬りつけたセイに向かって、最後の一人が振りかぶった。瞬間、呼吸を計ったかのようにセイが身を伏せた。

セイの背後から右腕を総司が、左足を斎藤が斬り付けた。

「す、すげぇ。後に目がついてるみたいだ……」
「なんであんな間で躊躇いもなく斬りつけられるんだ……」

残った新人隊士達が刀を握り締めたまま、呆然と腕を下ろした。

「もう~、先生方。過保護で~ぇ~すぅ」

浪士を斬り倒したセイがその場に座り込んで文句を言い始めた。斎藤が自分の刀を納めると、セイの手から刀を取り上げて拭いをかける。そしてセイの腰の鞘に戻すと、総司がよっと掛け声をかけて再び背中に背負った。

「じゃあ、お前ら、後始末してこいよ」

原田と永倉に言われた隊士達は、斎藤の指示でそれぞれ、浪士達の刀を取り上げたり、町方への連絡に走った。
肩をすくめた土方を筆頭に幹部達は屯所に戻る。総司が幹部棟の小部屋にセイを寝かせると、なぜかそのまま皆の足が副長室に向かった。

成り行きでなんとなく副長室までついてきた山崎が、不穏な空気を察して副長室に入る前に身を引いた。

「ほな、私はこちらで。今日はどうもすんませんでした」
「山崎」
「はい」

土方が振り返ってにやりと笑った。すっと山崎の周りを囲むように男たちが動く。

「お前、最近忙しそうだよなぁ。あ?」
「へ、へぇ。まあ……」
「で?次の謀り事の時には俺にも一口噛ませろよ」
「!!!」

青くなった山崎の両脇を、原田と永倉が掴んだ。

「「俺達も詳しく知りたいなぁ」」

青くなった山崎に総司と斎藤が追い討ちをかけた。

「そうですね。私達なら謀り隊じゃなくて守護隊かな?」
「アンタを同じは嫌だ……」

「「「「山崎さん」」」」

後日、又助が山崎からの繋ぎの文を持って賄い所の片隅で小者達と語り合っていた。外から来た又助のために、小者が茶を入れている。

「だから次回から組織変更らしいぞ」
「どうなったんですか?」
「謀り隊は原田先生と永倉先生が副隊長についたらしい」
「告知隊はそのままだが、藤堂先生が隊長になって専属の伝説を語り継ぐ」

おお~!!と一同から感嘆の声が上がる。小者達の反応を見ながら又助が続けた。

「恐ろしいのが、土方副長を筆頭にした謀略隊だな。謀り隊はどっちかってぇと悪戯専門で謀略隊の方が色々と凝った仕掛けに動くらしい」

それを聞いた皆が、口々に恐ろしいな、恐ろしい、と繰り返している。又助はすでに漫談師のような状態で話を続けた。

「さらに!!もっとも恐ろしいのが警護隊だ!これは沖田先生を筆頭に一番隊と三番隊の精鋭が入った!」
「おお~!!」

さすがにこれは納得したのだろう。拍手喝采状態である。

「ん?というと、斎藤先生はどうされたんだ?」
「斎藤先生か?斎藤先生はなぁ、どうしても沖田先生と一緒の警護隊が嫌だと言い張ってなんと!!!飲ませ隊になった!!」
「……飲ませ隊……」

微妙~な空気に、又助が力を入れた。

「これは大変なんだぞ!あの神谷に酒を飲ませ酔わせてもきっちり送り届けて安全を守りつつ、程良く酔った神谷の可愛らしさとそれに甘えられるというのを見せつけるという大事な任務なのだ!」
「いや、しかし!又助さんよ。そりゃ、血を見るんじゃないかね?」
「そうなんだよ……。そのために補佐には何と!近藤局長がつかれることになった!!」
「なんと!!」

それまで、夕餉の支度に手を動かしていた者達は、又助が茶を飲み終わったところで立ち上がったので話はそこまでになった。

「いやー、今回も面白かったなぁ~」
「傍迷惑だけど面白いよなぁ。こんな娯楽滅多にないぞ」
「全くだ。ちなみに山崎さんはどうなったんだ?」

はっと立ち上がった又助が恐怖に怯えた目で振り返った。

「そ、それだけは知らない方がいいぞ…」
「なんだ?!なにが起こったんだ?!」
「いや、しばらく山崎さんは屯所には近づかないだろう。謀略隊の一員であることは間違いないがな」

そういうと又助が、怯えながら文を配りに去っていった。

「それにしても……」
「本人は知らないとはいえ……」
「「やっぱり最強伝説はすごいねぇ」」

……こうして屯所内の最高の娯楽として、セイの最強伝説は語り継がれていくのだった。

 

– 終 –