強者の伝説 4<拍手文 14~15の半分>

〜はじめの一言〜
ま、まだ終わらないとは。
BGM:トンガリキッズ B-DASH
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「山崎さん!大変です、斉藤先生がっ」

副長室の様子をみて対策を練らねばと戻ってきた山崎に、告知隊の隊士が飛び込んできた。手ごわい隊士その二、香川新蔵が、がははと隊部屋で豪快な笑い声を響かせている。

「いやあ、見守るだけやなんてそないなのは、上品ぶっとるだけで単なるむっつり助平とちゃいますかー。ねぇ!?斉藤先生もそう思われますやろ?」
「……」

―― むっつり助平……いや、俺は違う!誠の衆道とはっ!!

「この前なんか、井戸端で神谷はんが洗濯してはったんですけどなぁ。あの人はえらい手足も細そうて、まあ女子のようやないですか。思わずしげしげ眺めて褒めてしまいましたわ」

その一言に、ざっと古参の隊士達も反応した。

「何っ!!お前、それで神谷に怒られなかったのか?!」
「そないな怒られたりなんかしまへん。えらい喜んではりましたけど?」
「「神谷が喜んでいた?!」」

驚きと共に答える隊士達に、香川はけろりと答えた。

「なんや、影で言うたり、変に気ぃ遣われるよりさっぱりしててええ言うて俺の分の着替えも洗ってもらいましたわ。これがまあ、何やええ匂いするんですわ~」

ふらり……。

斉藤が一人隊部屋から出て、ふらふらと屯所を出ていくとその足で飲みに向かう。小声で、ひたすら呟き続ける斉藤に飲み屋の親父が怯えた。

「むっつり……いい匂い……さっぱりしているほうがいい……」
「お武家はん、大丈夫ですか……?」
「ふっ、ふふふふ」

 
その夜、監察部屋では、緊急作戦会議が開かれた。

「山崎さん!こうなったらもうあれしかありません!」
「仕方ない。アレをやるか!!」
幹部会に珍しく山崎が参加した。監察に入った新人の件で礼がしたかったらしい。会議が終わった後、山崎が土方に頭を下げた。

「副長、新人を回していただきありがとうございます。なかなか手薄な折、助かります」
「おお。今回の新人共はどれもそこそこ使えそうだからな」
「ええ。副長、ぜひその新人の歓迎の意味で一席行こうかと思うんですがたまにはおいでいただけませんかね?」

隣で話を聞いていた近藤が、にっこりと土方の肩を叩いた。

「お、いいじゃないか。トシ、たまにはお前も羽を伸ばして来いよ。山崎君他の新人達も連れて行ったらどうだい?」
「ありがとうございます。局長。沖田先生方もどうです?」
「いいですねぇ。じゃあ、永倉さん達も行きましょうよ」

山崎は頷きながら総司達を見る。いつもの面子が喜んで席に呼ばれることになり、渋々、土方も引きずられるように参加することになった。

「大変ですね。お好きじゃないでしょうに」

一応、土方を思いやってセイが言った言葉が癇に障ったらしい。ちらっと振り返った土方が顎で示した。

「お前も来い」
「はぁ?」

なんで私が……と言いかけたセイに、土方がにやりと笑った。

「お前は俺の小姓だろうが」
「ぐっ……、わかりました」

そういうと、さらに渋々セイもついて行くことになった。

「神谷はん、副長の代わりに飲んでくださいよ」
「いえ、私はお供ですから」
「少しくらいならいいだろう。清三郎」

珍しく斎藤に勧められて、セイもじゃあ少しだけと言いながら飲み始めた。すでに撃退された半数の新人隊士達は隅のほうで固まって飲んでいるが、残りの五人は組長達に酒を注ぎながら、セイにも飲ませ始めた。

徐々に上機嫌で自発的に飲み始めたセイの両脇にそれぞれ斎藤と総司が移動した。

「はいはい。こっちをどうぞ、神谷さん」
「これを食べろ。清三郎」

にこにこと言われるままに言うことを聞いているセイは、それぞれ左右にいる二人に倒れかかったり、びしばしと叩いたりしている。 二人とも慣れたもので、上手にいなしながらもいつも以上にガードが固い。
なかなかセイに近づけない新人隊士達が困惑した顔をしている。

原田や永倉もいい具合にできがってきたころ、土方が立ち上がった。確かにそろそろ門限である。
セイはぐったりと総司と斉藤の間で倒れ込んでいる。

「そろそろ引き上げるぞ。神谷っ!!」
「なぁんれすか。ふくちょー」
「お前なぁ……帰るつってんだよ。お前は俺の供でついてきたんじゃねぇのか」

ぐー……。

頭を抱えた土方に、苦笑いを浮かべた総司がセイを背中に担ぎあげた。

「まあまあ。飲ませちゃったのはしょうがないでしょ。私が抱えて帰りますから」
「お前は甘いんだよ!!ったく」

そういうと、ぞろぞろと揚屋を出て屯所に向かう途中。暗がりから待ち構えていた五人ほどの浪士が斬りかかってきた。

「うぉら!!お前ら、新撰組だな!!」

先を歩いていたのは土方、総司、斎藤、永倉、原田、それに山崎である。当然、彼らが立ち向かうのだと思いながらも幹部を危険にさらすことが憚られて、後からついてきていた新人隊士おろおろとしながらも刀を抜き払った。しかし、酔いも手伝って手元も足元も心もとない。

「はー……っお前らっ。行って来い。いい腕試しだ」

刀を抜く気配も見せずに土方が後ろを振り返って新人隊士達に言った。組長達も一様に頷いている。

「は、はいっ」

腕が立つというはずが、皆ふらふらと浪士達にいい様にあしらわれている。組長達はそれぞれ、やれやれとため息をついた。

「ったく、道場稽古でいくら腕が立っても駄目だな。ありゃ」
「まったくだな。きっちり叩き込まないとなぁ」

原田と永倉が呆れて言い合っている。斎藤が仕方なく前に進み出ようとした。

 

– 続 –