強者の伝説 3<拍手文 12~13>

〜はじめの一言〜
ほんと、お礼SSどころか普通にUPしてもよかったですね。われながら鬼・・・
BGM:トンガリキッズ B-DASH
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「山崎さん!三名離脱しました!」
「よし、次は中村作戦だ!」

— 謀り事そのさん —

「原田先生~」
「あ~?」

十番隊隊士兼、謀り隊隊士が稽古着に着替えながら原田に声をかけた。

「実はこの前神谷が副長の小姓になってから稽古がなかなかできないって嘆いてたんですよ~。たまにはうちの稽古に呼んでやったらどうすかね?」
「おっ。お前、いいこと言うなぁ。よし、お前ら道場に行ってろよ。俺が土方さんところから借りてきてやる」
「ありがとうございますっ!」

後ろでに誰へともなく合図を送ると、隣の隊部屋や廊下のあたりから幾人か人影が消えていった。副長室に現れた原田はあっさりと土方に問いかけた。

「土方さん」
「なんだ、サノ」
「新人の稽古に神谷を借りてもいいか?」
「ああ?」

振りかえった土方に原田は新人隊士の教育という名目でセイを稽古に駆り出すことに成功した。
セイが久しぶりの稽古に、にこにこしながらついてくる。原田は、通りすがりの二番隊に入った新人二人に声をかけると道場に入った。

「神谷!!」

語尾にすこぶるつきの愛をこめて中村五郎が駆け寄った。

げし。

きっぱりとセイに足蹴りをされた中村が床に吹っ飛んだ。

「近寄ってくんじゃねぇ!!」
「神谷には俺様がもう長いこと順番待ちしてんだ!お前なんざ一昨日出直してこい!」
「って、俺組長の組下なんすけど~?!」

中村の絶叫を無視した原田がくるりと新人二人に振り返った。

「お前らもまさか神谷が可愛いとか、一発ヤりたいとか、世話をやかれてぇとか思ってるんじゃねぇよな?」

ギラリ。

ひきつった笑いを浮かべた二人がふるふると首を横に振ったが、平隊士の特に新人達は間者の可能性もあるために組長達から常に見張られている。
だから、この二人がつまらないこともセイにいちいち質問し、何かと構って人気のないところへと連れ出そうとしていたことは、原田も承知のことだったらしい。

「神谷!こいつらがお前と仕合いたいってよ」
「は~い」

腕自慢。そういう肩書で新撰組に入ってきた二人は、その後、セイにあっさりと負けた。そして追い打ちとばかりに、散々、原田とやけになった中村になっていないと叩きのめされた。

新人隊士、二名離脱。

「ふっふっふ。順調だなぁ」

至極、成果に満足そうな山崎を筆頭に監察部屋は達成感というか、満足感が広がっている。

「そうですね。半数が脱落しましたよ!今回は早いですねえ」
「しかしなぁ。残ったやつらはなかなか手ごわいぞ?」

 

「神谷さん」
「はい、なんでしょう?」

手ごわい新人隊士その一、仁科新三郎が土方の使いを終えて帰ってきたセイを見かけて話しかけた。
仁科は、見た目は温和でおとなしい雰囲気の隊士でありながら、その腕前は配属になった一番隊の中でもなかなかのものである。

「お忙しいところすみません。少しお話してもよろしいでしょうか?」
「ええ?構いませんけど」

実は、と切り出しながら仁科は声を潜めてさりげなく人の少ないほうへと歩いていく。当然、あちこちで警報の印が点灯し、その後姿をいくつもの視線が追いかける。
侮りがたいのは、完全に物陰に隠れてしまうのではなく、皆の視界の端にぎりぎりはいるくらいのところで仁科はなにやら話をしている。
時折、セイが楽しそうに笑いながらそれに答えていた。

しばらくすると、丁寧にセイに向かって頭を下げた仁科が隊士部屋へ戻ってくる。鋭い視線を向けられてもそれに対してにっこりと微笑を返してくるところが只者ではない。
文句を言おうにも言いかねている隊士達を前に、ニコニコと独り言を聞こえるように呟いた。

「いやぁ。神谷さんは優しいし、可愛らしいし、よく気が尽くし、本当に男にしておくのはもったいないですよねぇ」

―― まあ、僕は男でも女でもどちらでもいいので、構いませんけど

ぴき。

それを耳にした総司は無言のまま部屋を出て行く。
仁科は、元加賀藩士で両親は加賀藩の重役らしい。家柄もよく次男であるからうるさいことにもとらわれずに済む。

すかさず、告知隊から知らせを受けた謀り隊の隊士達が慌てた。

「大変です!山崎さん、沖田先生が仁科相手に落ち込んでます!」
「何、それはあかん!」

慌てて山崎が様子を見に行くと、めっきり落ち込んだ総司が土方の部屋でとぐろを巻いていた。

「仁科さんて、元加賀藩士で家柄もいいそうですね」
「まあ、そうらしいな」
「腕もなかなか立つんですよ」
「いいじゃねえか」
「気も利くんですよねぇ」

いつものこととばかりに土方は半分以上、聞き流している。

―― 私なんて、剣術以外の取り柄なんてありませんし、頭も回りませんし、家だって貧乏ですしね。ああいう人が神谷さんの……

「なんなんだ、おめーは……」

呆れ顔の土方が相手をするのを放棄すると、総司は火鉢の灰を延々かきまわしている姿が見えた。様子を伺っていた山崎は、肝心の総司がへこんでしまうと次に差し支えるために何とか対策をとらねば、と思った。

 

– 続 –