記憶鮮明 20

〜はじめの一言〜
副長ってば腹黒い・・・w

BGM:SMAP not alone
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松月、三つ目の離れ月隠の間。

「では、雅様を……?」
「そうだ」

松月に向かった土方と近藤は総司と斉藤に向かって淡々と告げた。近藤は隣に座って渋い顔をしている。

「本気ですか?」

総司が近藤へと確認すると、黙って頷いた。これも隊務だと言われれば仕方がない。

―― 神谷さんが……傷つくかな

ぼんやりとそんなことが頭をよぎったが、斉藤とともに頷いてその方法はと口を開きかけた。が、予想を裏切って土方がにやりと笑った。

「そこでだ。ご本人に目通りしたい」
「はい?これから…ですか?」

斉藤がなぜ、という顔で問い返した。確かにそれはそうだろう。これから殺す相手にこういう事情で貴女を殺しますと言いに行くなど、聞いたこともない。

「当り前だ。今行かなくてどうする」
「わかりました。では、お伺いしてきましょう」

斉藤が立ち上がると、滑るように離れをでて行った。残った総司がじっと土方の顔を見る。

「なんだ。総司」
「どういうからくりです?」
「あ?」
「雅様を本当に我々で始末するわけじゃないようですけど?」

総司の問い詰める視線は、昔、仲間外れになるのが怖いのかと尋ねた頃のままで、土方は不意にそんな昔のことを思い出して、くっと笑った。
ちらりと近藤を見ると、真顔で土方を見返す。

「それはこれからだよ。総司。どうするかは雅様次第ということだ。もっとも歳には勝算があるらしいけどな」

落ち着いた近藤の答えに総司がにっこりと笑った。
土方に勝算があって、近藤がそれに納得しているなら何も問題はないはずだ。

「よかった。なら大丈夫ですね。ほんの数日なんですが、あの元気いっぱいで、妙に勘の鋭いところとか、まるで神谷さんがおばあちゃんになったらあんな感じなのかと思って、気が進まないなぁと思ってたんですよ」

にこにこという総司に土方がくわっと目を剥いたが、近藤が朗らかに笑い出した。

「こらこら、あのような方にそれは失礼だろう?総司」
「でも本当に似てますよ。お目にかかればわかります」
「そうか。なら歳の勝算はますます上がりそうだな」

うんうん、と頷く近藤と口を開きかけてぐっとこらえた土方のもとへと斉藤が戻ってきた。

「お会いになるそうです。神谷は離れに戻しましょうか?」
「いや、お前たちはいい。神谷は雅様についてるんだな?」
「はい」
「よし」

近藤と土方は揃って立ち上がった。ついていこうとする総司を制して、近藤と土方は二人だけで隣の離れへと向かった。入口の前で声をかけると中からセイが現れる。

「局長、副長。こちらへ」

先ほどの斉藤の話を聞いていたのだろう。先に立って二人を雅の前へと案内した。自分は下がるべきかと二人の顔を見ていると、雅が声をかけた。

「清三郎。申し訳ないけど、お茶をお願いしていいかしら?」
「はい。すぐに」

元より茶の用意は先ほど斉藤が来たところで、準備してある。部屋の隅から茶の道具を持ってくると、すぐに雅と近藤、土方の分を淹れた。

「ありがとう。清三郎。おかわりもお願いね」

にっこりとほほ笑む雅に、そばにいるようにという意で言われると座を外すわけにもいかず、雅の傍にひっそりと座った。

「さて。改めて、お目にかかり光栄です。雅様」
「いいえ。こちらこそ、素敵な殿方を護衛に回してくださってどうもありがとう。近藤殿、土方殿?」

それぞれに向かってにこやかに礼を言う雅を見て、近藤も土方もさすがに大した女性だと内心では驚いた。噂と立場を聞いていれば、相当な切れ者だということがわかってはいたが、二人がどういう用件で現れたのかも薄々知りながらこの落着き様は驚くべきものだ。

「無事に勤めていれば何よりです」
「ええ。もちろんよ。それで……。年寄りは気が短いものだからごめんなさいね。結果が出たのかしら?」
「はい。先ほど」

そう、と頷いた雅はゆっくりと茶に手を伸ばして口に運ぶ。
近藤と土方は、その様子を黙ってみていた。早く告げようが、遅く告げようが結果は変わらない。

「噂には聞いていましたけれど。本当に新選組の副長殿は切れ者のようだこと。ねぇ?清三郎」
「え?えっ、はいっ」

急に話しかけられて、話についていけないセイが慌てて返事をする。ほほ、と笑いながらセイに視線を流した雅は、再び近藤と土方の方へと向いた。

「さあ、聞かせてくださいな?あなた方の考えを」
「結果はお聞きにならないのですか?」

どういう結果になっているのか、気にならないはずはないと思っていた土方達の出鼻をくじいた雅は、悪戯っぽい瞳を輝かせている。その表情に、総司がセイのおばあちゃんになった姿と称したことが重なる。

「結果など。聞かずともわかりますよ。私がそのように育ててまいりましたからね。本当なら、もう少し懐の広さや見識の深さも身に着けさせたかったところだけれど、こればかりは本人達の努力と資質もありますものね」
「されば、雅様。お身柄について……」
「ああ、もう。ですから年寄りは気が短いのですよ。斉藤殿と沖田殿が私のお相手をしてくださるの?」

話についていけないセイが、きょろきょろと不安そうな目を向けているなかで、雅があっさりと自分を処分するのはどちらかと尋ねて来た。先、先と読まれているようで、土方にとってはこの上なく手ごわい相手に思える。
こういう相手に、へたな駆け引きは無用と思ったのか、近藤が膝に手を置いてまっすぐに雅を見つめた。

「では、私から申し上げます。雅様のお身柄は本日即刻、良しなに処遇を計らうようにと両家の方々より承りました。その方法についての如何は問わず、と」
「近藤局長?!」

驚いて立ち上がったセイに、土方が怒鳴りつけた。

「下がれ!神谷。身の程をわきまえろ!」
「で、でもっ!!そんなっ」
「下がれと言ったのがわからないか。隣の自分たちの離れへと下がっていろ」

食い下がりかけたセイに、再び土方が怒鳴ったので、ぐっと言葉に詰まったセイは申し訳ありません、と頭を下げて仕方なく離れの部屋から出た。雅は、二人のやり取りを全く知らぬ体で、茶を飲みながら庭へと視線を向けている。

雅に引き留められなかったセイは、のろのろと離れからでて、自分達の離れへと足を向けた。斉藤と総司はまだ月隠の間にいることも知らずに。

セイが去ったところで、雅は茶碗を置いた。

「茶番は茶番でも、土方殿の仕掛けは少しは楽しませてくれそうね?」
「お楽しみいただければ何よりですな。では、我々の考えを聞いていただく」

 

 

– 続き –