記憶鮮明 19

〜はじめの一言〜
復活!

BGM:SMAP not alone
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裃を付けた近藤と土方は、小部屋に並んで座っていた。しん、と静まり返っている。

「そう、ため息ばかりつくな。歳」

小さく囁いた近藤の声にさらに深いため息で土方は応えた。苦笑いを浮かべた近藤はこほん、と咳払いを一つする。
土方が不機嫌になるのは仕方がない。特にこういう魑魅魍魎が跋扈する処は一番嫌がるところだ。

「もうすぐ終わる」
「そうじゃなけりゃ……」

―― 俺の堪忍袋の方が先に終わるぜ

新選組が仲裁に入ったお家騒動は、最後の話し合いの場が持たれていた。雅の影響力は大きすぎたのだ。
女性ながら、聡明で人を見る目に長けていたために、表舞台でも立場のある者達とも対等に渡り合っていたために、その権力と者を見定める目をもって女院と呼ばれていた。

娘の嫁いだ先は幕府の中でも古株の名家であり、公武合体には反対派の急先鋒といえる。雅の息子は家を継ぎ、雅の意思を継いだように思えた。しかし、それは同じ朝廷内での融和を乱すものとして公家の一部からも、幕府側からも目を付けられてしまう。

雅はそのどちらにも冷静に、厳しい判断を下した。

娘の家には、位の剥奪を。息子に対しても、調整役ができないならば受けた任を辞するようにと。

そこから熾烈な争いが始まった。その収束を巡って、容保の中継で近藤達が仲裁に出向いたのだった。

「いったいどれだけ待たせりゃ気が済むんだ?」
「そういうな。もうすぐだ」

しゅるっと衣擦れの音がして、誰かが近くにやって来るのがわかると、二人はすっと口を閉じて背を伸ばした。襖の前で咳ばらいが聞こえる。

「失礼いたします」

襖が開いて、話し合いの場を提供していた高司家の家人が現れた。

「近藤殿、土方殿。こちらへ」
「お話はつきましたでしょうか」

頭を下げて現れた家人に近藤が落ち着いた口調で尋ねる。家人は無表情で二人を促した。土方と顔を見合わせた近藤は、案内されるままに後をついて奥の広間へと向かう。
両家がそれぞれ顔をそろえていた。

「近藤殿。我々は対応を決めました」
「伺いましょう」
「我々は互いにこの争いに終止符を打つことに決めた。もはや我々の間には遺恨はない」

提示された答えに近藤がほっと頷きかけた。だが、土方がとん、と指先を一つ膝の上で叩いた。

「それで、その条件になったのはなんでしょう?新選組の近藤を仲裁に呼び出しておいて、ただ話し合いだけで終わりということはないでしょうな」

じろりと土方が両家の面々に視線を向けるのを見て、近藤が小声で土方を諌める。

「土方」

諌められてもなお変わらない土方に相手の公家方の者が憮然として見返した。

「いかにも。我々が仲裁に貴殿ら新選組を指名したのは理由がある」
「雅様の処遇を我々にということでしょうか」

予想の範囲内ではあった。わざわざ、平隊士でも警護できなくはないはずなのに、組長二人を指名している。幹部である組長ならば極秘裏に特命の始末をつけることもできなくはない。初めからいざとなった時には雅を亡き者とするために斉藤と総司を指名していたのだろう。

「どのような形でも構わぬゆえお任せいたそう」
「どのような形でも……でござるか」

近藤も予想していたのだろう。深いため息とともに相手方の言葉を繰り返す。ひどいと思っても、これがなくては、立ち行かないほど薄氷の上に成り立っているのが今の世の中でもある。
苦々しく思ってはいても表面上はそれと悟られないような顔で土方が頷いたのを見て、近藤が諾を返した。

「承知しました。お引き受けしましょう」

ほっと安心したらしい両家の面々ににやりと土方が笑った。

「ただし、その方法の如何は問わないということでお願いいたします。我らはもとより無骨な者たちが集まって折ります故」
「無論のこと。名だたる新選組の方々にお願いするのだから、こちらで口出しはすまい」
「かたじけなく」

これでめでたく手打ちとなった部屋からはそれぞれ、両家の面々が退室していき、最後に近藤達を案内してきた家人が再び現れた。

「ご苦労さまでございました。お駕籠のご用意ができましたので、こちらへ」

先に立って案内を仕様とした家人に向かって土方が立ち上がるだけ立ち上がると、唐突に手を挙げた。

「お手数をおかけして申し訳ない。だが、せっかくのお手配だが、お駕籠は結構でござる。我ら、徒歩にて参ります故」

一瞬、面食らった顔をした家人はすぐに承りました、というと駕籠を待たせてある車宿りではなく、正面へと案内した。話し合いがどう転んだとしても、帰りを徒歩で帰ることは近藤と打ち合わせ済みである。
普段なら、その身分や形式を重んじて、徒歩で帰るなど軽んじられたと怒る土方が珍しい。

正面で挨拶をすると、二人はそろって歩き出した。門をくぐり、大名屋敷の間を裃姿で歩くというのもなかなかない。

「おい、歳」
「すぐそこだ」

土方がそういうと、一町も歩かないところを曲がると、街駕籠が2丁ほど待機していた。手持無沙汰に呆けている駕籠かきに土方が声をかける。

「すまんが、この駕籠は扇屋殿が寄越されたものかな」
「へぃ!近藤様に土方様でございますね?」
「ああ。待たせて済まなかった。やってくれ」

あらかじめ決めてあった符牒を口にすると、駕籠かきがすぐに立ち上がった。何やら自分の知らないところで手配りをしていたらしい土方に、近藤は黙って駕籠を指差した。頷く土方に肩をすくめた近藤は、素直に乗り込んだ。

二人の草履を駕籠かきが懐にしまい込むと、威勢のいい掛け声とともにふわりと持ち上げられる。

「行きますぜ」
「ああ。やってくれ」
「へい!」

土方の指示で二丁の駕籠はいずこかへ向けて出発した。

 

 

– 続き –