誇りの色 32

~はじめの一言~
思いのほか長々と書いてしまいました。あ、終わりそうなんですけど、あとちょっとね。

BGM:
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「痛っ!!」
「痛いって今更、思ったって遅いんですよ?!」

屯所にもどった一同は、捕り物の後始末に追われていた。
ただし、斉藤は副長室へ報告に向かっており、セイは医薬方の部屋で手当てを受けている。

耳の上の方が少し切れた、といっても軟骨を斬られていた。屯所に戻るまでは、すっかり忘れていたが、温まった部屋で手当てをはじめてすぐにぎゃあぎゃあと叱られ始めたのだ。

ざんばらになった髪を手拭いでまとめると、乾きかけた血に張り付いていた髪を総司はわざと乱暴に剥がした。

「このくらいで済んだからいいようなものの!」

あと少しずれていたら、このきれいな髪も顔も、半分なくなっていたかもしれないと思うとなかなか総司の怒りは収まらなかった。

「沖田先生。そのくらいで……神谷さんも怪我されてますし」
「このくらいの怪我、自業自得というものです!」

薬と包帯を用意していた小者が苦笑いを浮かべてとりなそうとするが、にべもなく総司は言い捨てた。そうなれば組長の言葉には逆らえない。
傷口がふさがる様にぴったりと傷を覆うと、ついでとばかりに包帯でぐるぐる巻きにしてしまう。

「終わりましたから、あとは着替えて副長室へ来るように」
「……はい。もうし、いっ!!」

申し訳ありません、と言いかけたセイの頭を立ち上がった総司が立ち去り際に軽く叩いていったのだ。おかげで、悲鳴を上げたセイの口からは詫びの言葉が最後まで紡がれずに終わる。

痛みに顔を押さえて畳の上を転がったセイを置いて総司は、幹部棟に向かって歩き出す。先に戻っていた隊士が隊部屋の前で総司を捕まえると、セイの血が点いた着物の替えを用意していてくれた。

そのままで報告に向かうつもりだった総司は、そういえば、と着替えを済ませてから再び幹部棟へ向かう。

「ご苦労だったな」

総司が副長室へと入ると報告を聞いていた土方が待ち構えていた。又四郎と春蔵の亡骸は町方へ引き渡されて、隠れ家の後始末や、関わりのあった者達への手配やら一通りの始末が済んだところだ。

「話は斉藤から聞いた。奴ら、大分金を溜めこんでたみてぇだな」

隠れ家には、そのほかの雑多な生活に必要なものがそっくり残されていたが、倒れた二人の胴巻きからは数十両の金が見つかった。必要経費としてその金は町方に引き渡す前に回収してある。

「しかし」

事が終わってしまえばいつもと何が変わるわけではない。総司や斉藤がどう思っていても土方にとってはいつもと変わらない捕り物の一つが終わったに過ぎないのだ。

「総司。今、斉藤にも言ったところだがな。お前たちは組長だ。しかも、古参と言っていい。ならもう、ほとんどの隊士達の氏素性は把握してるはずだな?」
「ええ、まあ」
「なら、神谷がいい、悪いはさておき、ああいう奴だっていうことくらいいい加減わかってるはずだな?」

ぴくっと、膝に置いた総司の手がわずかに動いたが、斉藤と同様にその顔には何の変化も見られなかった。内心では、面倒くさいことだと思いながらも、氏素性を把握している、という点では断トツでさらにその上で企みごとを考える土方は、二人の出方を待った。

今回のように、セイが面倒事に自ら突き進んでいくことは、土方にとって、すでにそういうものなのだという認識になり始めていた。それを理解した上でセイを配置し、使うことも近藤さえ囮に使うようになった土方には、息をすることと変わりない。

だが、もっとも信のおけるこの二人がその認識が甘く、セイに何かあるたびに動揺するのでは困る。だから、今回の事は二人に対してもいい戒めになると思っていた。

「……ああいうというのは」
「面倒事を引き寄せる奴だってことだ。特に総司。お前のところにあれを置いてるのは、それを理解したうえで神谷の首根っこをつかまえておけると思ってるからだぞ」
「もちろんです。仕事に支障を出すような真似をさせてしまい、申し訳ありません」
「……ちげぇよ」

てっきり、セイの事をきちんと監督できていないという叱責だと受け取った総司が頭を下げていると、僅かに斉藤が顔を俯かせた。

「お前らなぁ。あれが何かするたびに、振り回されてんじゃねぇよ」
「そんなことは!……ありませんよ、絶対」

いきなり胸の内を指摘された総司が、不機嫌そうに顔を背けてぶつぶつと反論を始めた。口を尖らせて反論を言い続ける総司を見ながら隣に座っていた斉藤が苦々しい思いでそれを聞いていた。いくら総司が反論しようとも、斉藤にわかることが土方にわからないはずはない。

総司の恋情を知っているかどうかはさておき、総司も斉藤も、確かにセイに何かあれば動揺してしまうことは事実だ。

それを正面から指摘されれば面白く無いことも確かで。

すっと言い訳を並べ立てている総司の前に片手を差し出した斉藤はしれっとした顔で口を開いた。

「沖田さんがそれを認めるかどうかはさておき、以前にも申し上げましたが、惚れた相手に何かが起これば何とかしたいと思うのは人情。しかし、だからと言って仕事に支障を出すような真似はしておりません」

ごふっと、いきなり飲んでいた茶を吹きだした土方に畳みかける様に斉藤が続ける。

「それに、いくら自分が神谷に惚れていようとそれはそれ、これはこれ。我ら組長を含めて、よく御存じの副長の采配に何の疑いをいだきましょうや」

平たく言えば、そんなことに動揺する自分たちの事も理解したうえで采配したはずだから文句を言うのはお門違いだと言い返した斉藤に、飲んでいた茶を盛大にむせた土方は涙目で何かを言いかけた。

「てめっ、ごふっ、ごほごほごほごほ」
「報告は済みました。他に用がなければこれにてご免」
「まっ!ごほごほっ、さい」

すっかり咳き込んで苦しんでいる土方の背を総司が擦っている間に、斉藤はさっさと副長室を出て行ってしまった。新しい茶を汲んだ総司は、土方にそれを差し出す。ぜいぜいと息を吐いて、茶をすすった土方はようやく人心地ついた。

「はぁ、はぁ。あの野郎……」
「斉藤さんに一本取られちゃいましたね」
「とられちゃいましたね、じゃねぇ!!お前もお前だ!まさか、この期に及んでお前まで神谷に惚れたなんて言うんじゃねぇだろうな?!」
「い、いいませんよ!でも、ほらっ、それが斉藤さんや皆がいろいろ想いのある相手でもありますし、愛弟子に何かあれば私だって、石じゃありませんからいくらなんでも慌てることだってありますよ!」

ぎらぎらとした土方の疑いの目を避けながら、これでセイをしばらく怪我が治るまで内勤にしたいなどと言えなくなった総司は、包帯がそれほどいらなくなるまでの間と機嫌を区切って、願い出ることにした。

「このところ、うちと三番隊はこの捕り物のためにずっと詰めてましたから、少し検討していただけないでしょうか」
「む。まあ、そのくらいは……いいだろう。ただし、屯所に待機だぞ。休みは隊の半分ずつ交代でだからな」

渋る顔を見せた土方から休みを取り付けた総司は、ほっと肩から力を抜いて、やっといつもの笑みを浮かべた。

 

– 続く –