秋空に紅葉 3

〜はじめの一言〜
のほほんとした雰囲気で行きましょう。

BGM:
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隊部屋に戻った総司は稽古着を部屋の隅に放り出して、さっさと床に横になった。頬を染めたセイは、総司と反対にもぞもぞと布団にもぐりこむ。

あの一瞬が夢のようで、でも触れられた現実は確かなものに思えた。セイの方を向いて横になった総司がにこっと満足そうに笑う。

「おやすみなさい、神谷さん」
「お、お休みなさいませ」

総司が目を閉じたのを見て、セイはため息をついてその寝顔を眺めているうちにいつの間にか眠りに落ちてしまった。まだ夜と言っても巡察なら出発する かどうかという頃合いだった。布団にもぐりこんで眠りに落ちたのはいいが、セイはなかなか布団の中が温まらず、何度も寝返りを打っていた。

―― 寒い

夢の中でそう思ったセイは、何度も布団をぎゅっと巻き込んだ。しとしとと気温を下げる雨は、布団の中にいても寒い。
それが、途中からふわりと温かくなったと思ったセイは深く眠りに落ちて行った。

「……ふ」

寒さに眉を顰めていたセイの顔が緩んだのを見て、総司はほっとする。何度も隣で寝返りを打たれては気になって眠れるものではない。様子を見ていると、どうやら寒いらしいと分かった総司は、自分の布団を近づけて、自身の掛け布団をかけた。

セイを布団ごと引き寄せると冷え切った体を抱きしめる。布団越しではなかなか温まらないことに痺れを切らした総司はセイの布団の中へと滑り込んだ。直にセイを抱きしめると総司の肌の温もりがセイへと移っていく。

柔らかな体と、慣れたセイの匂いに、勃然としてくる。

―― いや、いいんですけどね……

セイが温かくなって、ゆっくり眠れるならそれでいい。そう思いはするが、体が勝手に反応するのは別の事だ。

セイが総司を想っていることは誰の目にも明らかではあったが、それを認めてしまうのが怖かった。自分がセイを想っていることを認めても、セイの気持ちを認めてしまえば、どこまでも歯止めが利かなくなる気がして。

だが、一度つないでしまった手はもう振りほどくなどできなかった。

―― 今はただこうして一緒にいられることだけで十分嬉しくて、幸せですよ

総司の腕に引き寄せられて温められたセイが心地よさそうに眠る姿を見て、総司も再び目を閉じた。

 

 

朝になって起床の太鼓がなると、本当なら総司の隣のはずの山口が目を開けた先に妙な空間が開いていて、目を丸くした。

「?!」

まるで恋人同士の共寝のような有様に目が飛び出そうなほど驚く。

「ふぁぁ……あ?!」
「おは……?!」

次々に目を覚ました隊士達の顎が外れそうな位がくーんと大きく開いた。習慣的に目を覚ますと総司の寝床を確認するのは皆が身についている。それが今日は予想外の光景に呆気にとられてしまう。

「お、あ、……これ」
「あ、まあ、あれだ、あれっ!夕べはずいぶん寒かったからな!」
「そ、そうだなっ」

いち早く立て直した相田が口を開くと次々に自分自身を納得させるような事を口々に呟いた。しかし、目は相変わらず釘付けのままで気持ちよさそうに眠る総司とセイの姿をまじまじと眺めている。

いつもなら起床の太鼓と共に開くはずの一番隊の障子がなかなか開かない。通りすがりに三番隊の斉藤が一番隊の障子をさらっとあけた。

「……起床の太鼓はとうになったが、何かあったのか?……?!」

障子を開けたすぐ足元に丸まっている二人の姿に斉藤の目の玉が飛び出している。わなわなと拳を震わせた斉藤が、ぱくぱくと口を開けて何も言えず固まってしまった。

「あっ、さ、斉藤先生!!」
「お!はようございます!!斉藤先生」

やけに大声で隊士達が挨拶をすると、パチッと目を開けたセイが目を擦りながら自分を見下ろしている斉藤に気付く。

「あれぇ……。おはようございます。兄上。……どうかなさ」

ったのですか。

そういうはずのセイが自分のすぐ傍にある温かいものにぎょっとなった。

「きゃあぁぁぁっ!!!」

悲鳴を上げて飛び起きたセイは、顔から火が出そうな位真っ赤になる。

「な、ななななななにしてるんですかっ」
「ふぁ?ああ。もう朝でしたか……。おはようございます。どうしたんですか?斉藤さんまで」

一番最後に目を覚ました総司が欠伸をしながら起き上がると、周りの視線に気づいた。セイまでも顔を真っ赤にして自分を見ていることに気付いた総司はああ、と呟いた。

「夕べ神谷さん、寒くて何度も寝返りをうってうるさかったんですよねぇ。それでうるさいなぁと思ったんで、布団をかけて傍に寝てたんですよ」
「……傍にといって、しっかりそのっ!~~っ貴様っ」

その腕に抱えていたではないかと言いかけて、セイに鋭く睨まれた斉藤はぎりぎりと歯を噛み締めると、総司の胸元を掴んだ。その胸元からふわりとセイの香りがする。

その香にかっと頭に血が上った斉藤は、総司の耳元で怒鳴りつけた。

「さっさと起きろ!!馬鹿者がっ!!」

耳がきーんとするくらいの大声に総司が目を細める。斉藤が殴りかかるのではないかと、はらはらしていた隊士達の肩からほっと力が抜けた。

全くこの人は……、という視線を背に受けた総司がにこっとセイに向かって笑いかけた。

「おはようございます。神谷さん。よく眠れました?」
「よ、よくっ、よくっ眠れましたっ!!」

真っ赤な顔で怒鳴ったセイは手拭いを掴むと隊部屋を飛び出していく。大きく伸びをした総司は、けろりとして起き上がると布団を畳み始めた。

寝起きから驚き、はらはらとしていた隊士達は、白々とした視線を総司に向けると、振り返った総司がにかっと笑う。

「そうだよな……」
「ああ、そうだった。沖田先生はこういう人だったよな」
「そうそう。あの局長や副長の次だもんな」

諦めと共に頷きが広がり皆がどっと疲れを背負って、布団を片付けると着替えと手拭いを手に次々と井戸端へ向かった。

 

 

– 続く –