花守 5
〜はじめの一言〜
テキスト50000ヒット御礼~。 沖セイ in wonderland
BGM:Whitney Houston Jesus Loves Me
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –
突き付けられた言葉にセイは動けなくなった。女子姿と刀とを指されて、あの女を斬れという。
「斬れないか。刀が呼んだ客人というのに」
「く……」
ふらりと立ちあがったセイが刀に手をかけた。数歩ですぐに花畑だ。そこからさらに真ん中に向けて数歩で女がいる。
隣から立ち上がった総司がすっとセイの前に進み出た。
「あの女を斬ればいいのですか?」
「そうだ。この者が斬るべき者だ。お前は、この者の身代わりになるか」
「神谷さんには女子を斬るのは無理です」
「なぜ無理だ。それはお前が決めていいことなのか」
「私は神谷さんをずっと育ててきました。ですから、この人ができるかどうかわかります」
禍人は面白そうに総司を眺めてそれには答えなかった。それを諾と受け取った総司は、セイの肩に手を置くと刀を抜いた。
躊躇いなく足を進めると、花畑の中にいた女に向かって、総司は刀を振り上げた。
「愚かな」
禍人の言葉にセイが振り返った。刀を掴んだまま禍人にむかって、セイは詰め寄った。
「どういうことですかっ!」
禍人がにぃっと笑った瞬間、強い風が吹いてきて、総司もセイも煽られて目を閉じた。吹き上げられて顔の前に突き出した腕で風が収まるのを待つと、風が吹いた時と同じように唐突に風がやんだ。
「えっ?」
セイが顔を上げると、そこには立った今までいたはずの禍人の姿がなく、そこには真っ白い花が咲き広がっている。背後から肩に手をかけられて振りかえると、花守が立っていた。
ぱっと花守から離れて周囲に気を配るが、どこにも総司がいる気配がない。
「安心してください。私は想人です。禍人のところから飛ばされてきたようですね」
「想人……さん?」
「ええ。お連れの方は別なところに飛ばされたようです。まずは落ち着いてこちらにおいでなさい」
そう言われてセイの刀を掴んだ手が震えている。その手に想人がそっと触れた。
「大丈夫ですから刀をお仕舞いなさい」
がくがくと震える手を支えられて刀を納めた。そこは先ほどの禍々しい花でもなく、急に吹き荒れた風もない。咲く花々も穏やかに、どこか芯の強さを感じる姿で咲き誇っていた。
刀を納めた後、想人に手を引かれて庵まで連れて行かれた。
縁側から部屋に引き上げられて、総司と離れてしまったことも、先ほどの女のことも混乱しているセイに想人が一つ一つ説明を始めた。
「禍人のところに出てしまったのですね。彷徨う人でもいましたか?」
「は……い」
震える手に暖かな湯呑を持たされたセイは、未だに状況が飲み込めないでいた。
「女の方が、現われて……、花を……」
「刀に呼ばれた以外でここに彷徨いこむ人は、妄執のような強い感情を持っている者達なのです。狂気とよべるほどの。貴女が出会った方もそういう一人でしょう。花を、食べてしまいましたか」
「ええ。それで、真っ赤なものが……」
お飲みなさい、と促されて口にしたものはお茶ではなく、仄かに甘くてほっとさせるものがあった。
「……禍人のところに咲いていた花を食べたのなら、食べられた方も災いを抱えたものだったのでしょうね。貴女ではなくお連れの方が斬られたのですね?」
「私に、斬れと言われたのに、斬れなくて……そしたら、沖田先生が……」
「肩代わりされたのですね。なるほど」
肩代わり。
いつも、そうだった。セイに返り血を浴びさせないように、人を斬る辛さを背負わせないように、いつもセイの前に立って庇ってくれた。
「この世界は、魂が来るところだと聞いてきたでしょう?貴女は刀に呼ばれた。それを肩代わりさせることは本来できません。しかし、貴女の連れの方はそれを行ったので、貴女とお連れの方はそれぞれ違う場所に飛ばされました。ここは想いが集まります」
「想い……?」
「ええ。貴女のお連れの方にも知られたくない想いがありますね?」
ぎくっ、とセイの手から湯呑が落ちそうになる。
誰にも知られるはずのないとセイが思っている心の内を言い当てられて、動揺してしまう。
「私達と接しているのは魂の貴女です。魂に偽りも隠し事もできはしない。現実の世界でどのような姿をしていようとも、ここで貴女がその女子姿でいることが証です。そして、貴女が抱えているお連れの方への想いも」
「言わないでください!どうか、沖田先生には黙っていてください!重荷にはなりたくないんです!!先生に知られたらお傍にはいられなくなってしまう……っ」
「落ち着きなさい。私は何かを暴くものではない」
湯呑を手放して、想人に縋りついたセイをあやす様にその背を叩く。伏して泣きだしたセイの前で、こぼした飲み物を拭いた想人は新しく入れ直した。
「お飲みなさい。気持ちが落ち着きますから」
想人はセイが落ち着くまで黙って待っていた。そのうちに、落ち着いてきたセイは涙を拭いて、新しく入れ直された飲み物を口にした。
「私は暴くものではない。貴女の魂が本当に隠したければお連れの方にも隠し通せるだろうし、知ってほしいと思うならばそうなるだけです。水が低い方にしか流れぬのと同じように。ただ、貴女がここに飛ばされたのは、貴女のお連れの方への想い故のことだと言いたかったのです」
「私の、想いがここへ?」
「そうです。どのような想いであれ、貴女がお連れの方を思う気持ちが強かった」
あの瞬間。
女を躊躇なく斬り裂いた刃は、まるで自分自身に向けられていたように思えた。一歩でも間違えば、いつでもあの女と同じ場所に、セイも立ったかもしれない。それほどに総司の傍にありたいと、他の誰のものでもなくあってほしいと願っている自分がいる。
そんな浅ましい自分の代わりに総司がその手を汚してくれた。
そんな総司の優しさが嬉しくて、申し訳なくて、そんなことをさせた自分が情けなくて、醜くて。
「私は、汚い。沖田先生に庇ってもらえるようなものではないのです」
「それは貴女が自分をこうだと決めているにすぎない。不浄の者は刀には呼ばれません。貴女の魂は汚れてはいない」
セイは、想人の言葉に目を見開いた。
「まっすぐで濁りのない魂故に、貴女は呼ばれた。自分に嘘や偽りを重ねてはいけません。貴女の誠も、貴女のお連れの方への想いも、貴女の在りたいと願う姿も受け入れて、認めてあげなさい」
「……よいのでしょうか。私の、女子の心も殺すことなく生きるということが許されるのでしょうか」
「許すも、許さないも私や貴女が決めることではない。ただ、人は生きるのみです」
想人が何者であっても、ここがどういうところなのかをすでにセイは理解していた。
その場所で嘘も偽りも無駄だということも。
そうだ。確かに、人はただ真摯に、まっすぐに生きるのみだ。
「沖田先生はっ!沖田先生はどこに飛ばされたんでしょうか?」
「お連れの方はおそらく……」
– 続く –
るーさん こちらこそ、年単位のお願いをかなえてくださってありがとうございます。 …
わーい!喜んで頂いてめちゃくちゃ嬉しいです!いつもありがとうございます! 褒めら…
おはようございます。 コメントありがとうございます。こちらこそ、今、風にはまって…
風の新作うれしかったので、こちらにもお邪魔します^^ 風光るにハマってしまって1…
そりゃーお返事しますよ!もちろんじゃないですか。 そんなこんなで久々にちょいちょ…