法外な崩壊

〜はじめの一言〜
黒拍手に乗っていた脱XX先生です。

BGM:
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―――脱1

 

「神谷さん!!」
「は、はいっ」

真剣な顔で総司がセイに膝を突き合わせて話しかけた。

「私、思ったんです!!」
「……何がでしょう」

総司の態度に不吉なものを感じたセイは、白々と総司から距離を開けつつ問い返した。
近頃では、総司の態度で薄らでもまっとうな話かそうでないかくらいの見当がつくようになっている。
そんなセイの内心には全く気付かず、しみじみとセイの手を取って総司は頷いた。

「この前の浮之介さんに私でもいいって言われた瞬間、いろんなことが頭の中を駆け巡ったんです」

薄らと赤くなったセイは、ああ、ええ、と曖昧に言葉を返す。

「いざとなれば上様のお召ですからね。武士として私も腹をくくらなきゃいけないのかとか、その時はその……、どのようにとか真剣に悩みましたよ」
「……」

真剣に、の方向性がどうもずれているような気がするが、余計な口を挟まずにセイは黙って続きを待った。

「それで思ったんです。だったら、まずは普通の関係でいろいろ経験してからじゃないと受け身もできませんからね」
「……はい?」

殺気というか、不気味なやる気を感じてさらにセイの腰が引けていく。だが、セイの手をがっちりと握った総司は懐から何か小さなものを取り出した。

「大丈夫ですよ!神谷さんなら私の鍛錬の相手をしてくださるのはよくわかってますから!それに、こういう軟膏があってそれを使えばいいらしいんです。是非、後の感想もきかせて」

ばぐっ

こめかみどころか頬までひきつらせたセイが力任せに総司の手から自分の手を引き抜くと、思いきり総司の掴む軟膏の容器ごと蹴り飛ばした。

「そんな鍛錬に付き合うわけあるかーっ!!!」
「えぇ~!!神谷さ~~~んっ。これも修行ですよぅ!!」

頬を押さえた総司をおいて、セイはすたすたと隊部屋へと戻って行った。

 

 

―――脱2

 

「ねぇ、神谷さん」

総司の頬の青あざが薄くなった頃、真剣な顔で甘味どころの座敷に向かい合っていた。
今日の敵はぜんざいである。

それをつぎつぎとやっつけていた二人は、途中で休憩だといって、熱い茶と梅干で口をさっぱりさせていた。
今日はいつもの甘味所よりも安さと量で勝負ということで違う店に来ていた。

「なんでしょう?」
「どうですか?この店」
「ええ、雰囲気も悪くないですけど、やっぱり味はいつもと違いますね」

濃いめの煎茶は甘ったるくなった舌を洗い流してくれる。
ふう、と互いに微笑み合って茶を飲んでいると隣の座敷に人が入った気配がする。

酒と汁粉を頼んで、運ばれてきたかと思うと、しばらくして何やら雰囲気が変わった。

「あ……っ、その、おぜんざい頼みましょうか?!それとも帰りましょうか?!」

慌てたセイが少し声を大きくしてそういうと総司がじっとセイの顔を眺めている。

「あの……先生?」
「やはり、修練は必要だと思うんです」
「はい?!」
「例の件はさておき、浮之介さんに技でもあれば見せてみろと言われて、そんなものありませんというのも男が下がりますからね」

目の前の膳を脇に除けると、総司は膝を進めてセイの手を取った。

「あっ、あのっ……!」
「神谷さんを虜にできるように頑張りますから!」

どがっ。

手を握られていたために足を延ばしたセイの蹴りが膳を吹っ飛ばした。

「虜にって何をおっしゃってるんですか!!」
「ってそりゃあもちろん!」

じっとセイの目を覗き込んでくる、総司に向かってふっとセイが肩から力を抜いた。

「わかりました。じゃあ、虜にしていただきますから早く帰りましょう」
「はあ?」
「技を見せていただきますから」
「ほんとうですか?!」
「ええ」

しれっとセイが応えるのを総司が舞い上がりそうな顔で頷くと二人は手を繋いで屯所に戻った。

「か、神谷さん……」
「どうかしましたか?」
「技って……」

ふるふると総司の手が震えた。

「ええ。見せていただきます。先生の剣技。もういつも格好いいとおもってますから!」

稽古着を着て、道場に向かい合った総司は涙ながらに叫んだ。

「何かが違うと思います~~~!!」

– 終わり –