流星を眺めて 3

最後まで可愛いところが素敵です。もう、先生に熱を測られたら熱が上がっちゃいますよね。イラストをぜひ堪能しに行ってください。

 

汗だくになって朦朧としていた総司はひんやりとした手の感触にうっとりと目を閉じていた。

「先生、先生」

呼びかけに薄らと目を開けた総司は目の前に穏やかなセイの顔を見て、ふわりと笑った。

―― ああ、神谷さんだ

「先生、汗がすごいので着替えましょう」
「…は……い」

布団を剥ぐと総司の腕を自分の首に回させて引き起こす。ふらふらした総司を支えて、乾いてさっぱりした浴衣を総司の肩に広げると、総司が自ら着物を脱いで浴衣に手を通す。
帯を外して何とか、半分横になりながら着替えるとセイが汗だくの総司の着替えを持って部屋を出て行った。

セイが部屋から出て行ったのを感じて、再び総司は寒いなぁと思う。

しばらくして、甘酒と白湯をはこんできたセイは、目を閉じている総司に手を伸ばした。
額に手を当てるが、たった今まで温かいものをつくっていたので温かい手ではよくわからない。
そこで、そっと額を寄せてみた。

総司が眠っていなければできない真似だが、今は役得とばかりに額で熱を測る。

「よかった。下がってきた」

ほっとしたセイは、総司から離れてその肩をゆすった。

「先生?少しだけ起きられませんか?お薬ですよ」
「ん~……。神谷さん」
「はい。ここにいますよ」
「神谷さん」
「はい」

目を閉じたまま何度もセイを呼ぶ。
嬉しそうな顔でゆっくりと目を開けた総司はふふっと笑った。

「ああ、神谷さんだ」

それを聞いたセイは総司が昨日、セイがいなくて心配していたのかと初めて思った。

「はい。昨夜はすみません。戻れなくて」
「淋しかったんですよ……ぅ」

素直な総司の言葉にぽっとセイは頬を染めて、それから総司が腕を持ち上げた下に入り込んで総司を抱えて起こした。

「先生。苦くても我慢してくださいね」

薬包を見て、総司が露骨に嫌な顔をする。確かに眠りながらもこの苦い薬を口に入れられた覚えがあった。

「それ、苦いから嫌です」
「先生?甘酒ご用意しましたから、頑張ってください」
「~~~~っ」

唸った総司は仕方なく苦い薬を口に入れた。それを急いで白湯で飲み下すと、熱のせいもあって涙目でセイを見た。
恨めしそうな顔にセイがくすっと笑いながら甘酒を差し出した。

「はい。ご褒美です」
「へへ。神谷さんの甘酒ですね」

セイがつくる甘酒は他のものとは一味違う。
それが総司は大好きだった。

それから一晩セイは寝ずに総司の傍について看病し続けた。

「……だからって今度は貴女が熱を出すなんてつき合いがいいにもほどがありますよ」

朝方まで総司が眠っていた布団に今度はセイが横になっていた。
一晩たってすっかりと熱の下がった総司が近藤や土方に熱が下がったと報告に言っている間に、布団をかたずけていたセイはひどい頭痛にしゃがみこんだ。
そこに戻ってきた総司がセイの顔色が悪いということでその頬に手を当てた。

「……神谷さん?」
「はい?」

頭痛に顔を顰めていたセイが顔を上げると、総司が呆れた顔でセイが畳んだばかりの布団をもう一度広げた。

「先生?」
「神谷さん。夜着持ってきてもらえます?」
「先生のですか?」
「神谷さんのです」
「はぁ……」

総司の熱が下がったことでほっとしたセイは思いきり気が抜けてどこかぼんやりしていた。
言われるままに夜着を取りに行ったセイが戻ってくると、総司がそれに着換えろという。頭が動かないセイは素直に着換えた。

「はい。じゃあ、ここにきて」
「はい。こうですか?」

布団の傍に呼ばれたセイはそのまま床に寝かされた。

「あ。あれ?」
「貴女ね。すごい熱ですよ?こんな状態で昨日一晩起きてたんですか?」
「ええ!?あ。いつの間に……。そんなはずないんですけど」

苦笑いした総司はセイに布団を着せかけた。

「これ、本当は我慢していたんでしょう?」

確かにセイの熱は尋常ではなく、この分ではおそらく総司と同じように熱を出していたはずだ。

「黒谷に泊まってて……。いつもと違う場所から市中を見てたら淋しくなっちゃって。あの辺が屯所なのかなぁって思ってたら、星が流れたんです。先生もみてるかなぁって思ったらそのまま眠れなくなっちゃって……」

―― なあんだ……神谷さんも一緒だったんですね

「すみません。気づいてあげられなくて」
「そんなことないです。大したことないのに……」
「駄目ですよ。昨日の看病のお礼に今度は私に看病させてくださいね」

そういうとセイの額に自分の額をぴたりと寄せた。
そのままでうん、と呟く。

「私がいただいた薬、まだありますからそれをまず飲みましょうね」

あまりにまじかで総司に言われて、セイは風邪とは別に真っ赤になった。

―― これじゃ、ますます熱が上がっちゃう

にこっと笑うと今度は総司が手拭を絞った。

「やっぱりなんでも一緒ですね」
「せ、先生っ……」
「あれ?また熱、あがりました?どれ……」

こうしてどんどんセイの熱は上がる一方なのだった。