Aの総司
〜はじめの一言〜
拍手Aの総ちゃんでございます。
BGM:サントラ Amazing Grace
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「あ、沖田先生!ずっとお待ちですよ」
「はい?誰がです?」
散々皆にからかわれた後だけに、不機嫌そうな総司は振り向いた。
門番の隊士が総司の機嫌の悪さに怯えながらも門脇で女人が待っていると言った。
門脇に総司が行くと、武家の妻女らしき姿が見える。淑やかで美しい女がその腕に赤子を抱いて待っていた。
「あのぅ、沖田は私ですが」
「総司様!」
「はぁ?!」
その女は総司をみて嬉しそうに駆け寄ってきた。驚く総司を後目に隊士たちがニヤニヤと眺めている。
「総司様、はしたなくも屯所まで押しかけてしまい申し訳ございません」
「え?え?あの、私、貴女を知りませんよ?!」
「そんな……!」
うるうると見る間に涙をためて、女が抱いた赤子に顔を近づけた。
「この赤子のことも……」
「し、しりませんよ!私!!!!」
ざわざわと、隊士たちが妻女を覗きに集まってくる。慌てふためく総司は無視して、皆、女と赤子を見て盛り上がっていた。
「総司様、ひどいっ!!」
そう言うと、女は泣きながら屯所を走り出て行った。
え?え?とうろたえている総司に皆が一斉に声をそろえた。
「「「「沖田先生!!追いかけないと!!」」」
動揺しつつも、皆に背中を押されると何となく勢いで後を追いかけてしまった。
屯所を出ていくらも行かないところで、女を取りまいてばらばらと男たちが現れた。
「はぁ……、なんだか、ものすごくわかりやすい展開ですねぇ」
うんざり気味に総司が刀を抜くと、男たちは名乗りもあげずに抜刀して襲いかかってきた。
さすがに、人数が多いな、と思った瞬間、背後から斎藤、永倉、原田がそれぞれ刀を構えて走り込んできて、それぞれが一息で相手を切り倒した。
「えぇ~……。そこで持っていきますぅ?」
刀を構えたにも関わらず、背後から現れた三人が一気に三人の敵を切り倒してしまうと、情けなさそうな声で総司がぼやいた。
返す刀で残りの者たちも、三人に切り倒されて地面に倒れ伏している。
「はーっはっは。総司、男前だなぁ!」
「何言ってるんですよぅ!皆わかっててからかいましたね?」
「あったりめぇじゃねえか。こんなふざけたネタに食いつかないわけないだろ?」
原田と永倉に両脇を固められて、むくれた総司は面白くなさそうに刀を納めた。無表情の斎藤が、追い討ちをかける。
「まあ、あれだな。沖田さんにこの手の話があり得ると思われるようになっただけマシということではないか」
「斎藤さん?!マシってどういうことですかっ」
ぷんすかとむくれながら屯所のほうを振り返ると、平隊士たちがこれまた予定通りとばかりに捕縛縄を手に駆け寄ってきた。
「ちょ、全員知ってたんですか?!」
「「「当たり前だろ(だろう)(だ)」」」
ぐったりと精神的に疲れきって、屯所に戻ると、セイが門まで歩いてきた。
先刻のまま怒っているのかと思ったら、総司はセイになんと声をかけていいかわからなかった。
その総司の腕を掴んで、なにも言わずにすたすたとセイは歩き出す。引きずられるように屯所を出ていく二人を残された者達は微笑ましく見送った。
ぐいぐいと歩いて行くセイに、黙ったまま総司は共に歩いた。しばらくして、ぴたっと歩みを止めたセイが、総司の顔を見上げた。
「嫌なんです!!」
「はぃい?」
いきなり嫌だと言われても困るではないか。
聞き返した総司に、セイは涙目のまま、キッと睨むように総司を見た。
「嫌なんです……。あんな理由で沖田先生が呼び出されたりするのが」
「そう言われても……。そもそも私にあんな身に覚え、ありませんし……」
「身に覚えがあってもおかしくないと思われているのも、嫌なんです」
「それはさすがに男としてどうかと思いますけど……」
それはそれで、かなり情けない男な気がして総司がぼそぼそとこぼすのを、さらにセイが総司の掴んでいた腕に両手ですがりつくようにして叫んだ。
「駄目です。先生は野暮天で甘味馬鹿のままでいてください!!」
呆気にとられていると、再びセイが総司の腕を掴んだまま歩きだした。引きずられて歩く総司は、ずーっと続いていたわけのわからない不機嫌が消えていることに気づいた。
腕を掴んでいるセイの手を反対の手で引くと、改めてセイの手を握り直す。
赤い目をしたセイが振り返ると、ふわっとその頭を撫ぜて、総司は笑顔をみせた。
「仕方ないですね。甘味処でしょう?付き合いますよ。嫌な思いをさせた分、奢りましょう」
総司がそういうと、ようやくいつもの顔に少しだけ笑みが戻る。ただ、今少し、散々からかわれた総司が悪戯心をだして、セイに囁いた。
「身に覚えがあるのは貴女だけですから」
「~~~……!!沖田先生!!」
「あっはっは。だって、ほら、私たちは念友ですから~」
真っ赤になって拳を振り上げたセイに、笑いながら総司は握りしめた手はそのまま、大好きな甘味処へ大好きな人と向かうのだった。
– 終 –