月読の宴 3
〜はじめの一言〜
もしかしたらずっとオリジナルばかりかいているからかも??そういえば止まってしまったので、これが終わったらそっち書きたいなぁ。あ、ちゃんと書きたいと思ってますよ~
BGM:月のきれいな夜には
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夕刻、駕籠で姿を見せた手代木は、出迎えた近藤と土方ににこりともせずに頷いた。
「ようこそ、お運びくださいました。手代木様」
「噂に名高い梁山泊もいかにかとな。見廻組のお長屋とは比べようもないだろうが……」
初手からの一言にひく、と土方の顔が引きつる。笑みを浮かべている近藤とはちがって、ぴくぴくとその眉が動いているのを隊士たちもちらりと様子をうかがう。
「はっはっは。いやいや、男所帯ばかりで行き届かないことも多いと思いますが、ささ、おあがりください」
「いやいや、また難儀な……」
いちいち一言がでる手代木に、噛みつきそうな土方に背後から羽織を身に着けた総司が声をかけた。
「副長。どうぞこちらに」
「やれやれ、案内役もまた……」
男が案内するのかとため息ものの手代木に、総司が腰に手を当てて頭を下げる。
「ご挨拶が遅れました。拙者、一番隊組長、沖田総司と申します。わざわざのお運びありがとうございます」
総司の挨拶に、お、と目を向けた手代木はじろじろと無遠慮に総司を眺めまわした。
「これが噂に聞く鬼殿ですかな。ほうほう」
「月読の機会を逃されたと伺いました。手代木様は粋人でいらっしゃいますね」
「ほっほっほ、鬼殿は剣の腕だけでなく口もお上手なようだな。なあ、土方殿?今宵は随分と言葉少ななようだが、先日の勢いはどうされたかな?」
見廻組との一件で、言いつのる佐々木らに何も言わせぬほどの勢いだった姿を引き合いに出された土方は、憮然としてようやく口を開いた。
「さて、月を待つ間に無粋な挨拶でもあるまいと思いまして。季節外れの宴にはうまい酒を差し上げるのが粋というものでしょう」
仲裁の場には手代木もいて、佐々木達見廻組の肩を持ってはいたが、会津公の一声でどちらも互いの持ち場を守るということで押し切られてしまった。
そこまで話を強引に持ち込んだ土方を快く思っていないのはありありとしていたが、招かれてすぐのことでもあり、それ以上は土方に水を向けることなく、近藤と語らいながら幹部棟へと向かった。
柱の陰からその様子を眺めていたセイははらはらとしていた。
―― ああ、もう!わざわざ押しかけてきておいて文句を言いたいのもわかるけど、副長!そこは堪えて!
まるで壁から頭が生えたような格好でのぞき見していたセイは幹部棟に一行が向かっていくのをみて、急いで賄いに駆け戻った。
「さ!はじめるよ!」
「承知!」
小者たちはセイの采配にも慣れている。総司の分も含めて四つの膳の上には酒と、お通しと酒とお造りが乗せられている。
客の分の膳をセイが持ち、後ろに小者たちが続いて、局長室へと向かう。
まだ昼の暖かさが残る部屋は、風が抜けるほうは障子を締め切り、部屋の隅の火鉢がほんのりとした暖気を漂わせる。
刀を置いた手代木とともに、あけ放った中庭にはまだ低い空に月が見えていた。
「この庭はさすがのたたずまいですな。黒谷から眺める月も格別ではありますが、これもまたなかなかのもの。近藤殿、改めて礼を申す」
「いやいや、何を申されます。まだ腰を落ち着けたばかり。手始めに取り寄せた今年の新酒を召し上がられたい」
部屋の様子を見計らったようにセイが姿を見せる。随分落ち着いた身のこなしで客の前から順に膳を並べると畳に手をついてすぐに廊下にでた。