その願いさえ 12
〜はじめのつぶやき〜
やっと続きに手を付け始められた!!
BGM:Je te veux
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「沖田先生、こちらへ」
にこにこと笑顔のままで巡察中の総司に近づいた郷原は、前を促していたが目線は違うほうを向いている。その視線に気づいた総司は、腰の物に手を添えて右足を引いた。
まるで新平から顔を背けるような姿にセイが総司に向かって手を伸ばす。
「……」
「神谷さん」
笑みを浮かべた新平にやんわりと遮られたセイが不思議そうな顔を向ける。そのセイの両脇に相田と山口が回った。
「神谷」
「えっ?」
総司の傍にいて、総司の動きに誰よりも先に気づくのは自分だと思っていたセイは一瞬、真っ白になった気がした。
だが、その一瞬で目の前の事態は動く。
「先ほどから私たちの後をついていらっしゃったようですが、どのようなご用件でしょう?」
「何を言うか。あとをつけてなど」
「いいえ、確かにあなたは私たちの巡察の後をつけていらっしゃいましたよ。うちの者が確認しています」
ちっと軽く舌打ちした相手が後ろに下がろうとしたのをいつの間にか移動した新平がふらりと行く手を遮る。この場でやりあうつもりはもともとなかったのか、逃げようと退路を探る相手に、総司はわざと半身を引いた。
「気のせいだろう。確かに私はこのところ散歩に歩くことが多いが」
あくまでことを起こさずに身を引こうとする相手に総司は両手を開いて見せた。
「そうですか!失礼したようです」
素直に身を引いて見せた総司の脇をすり抜けて離れていこうとする浪士風の男が歩いていくのを手放しで見送る。
周囲に散った一番隊隊士が男が離れていくのを見守る中で一番気の短いセイが腰のものに手を添えて腰を落としかけた。
「神谷さん、今日は戻られたらぜんざいなんてどうですかね?」
「は?!何を……」
「そうですよねぇ、沖田先生?」
なぜ今そんなことを、と新平を睨みつけたセイはその理由を同時に理解した。
―― しまっ……
男が半町も行かないうちにちらりと巡察の彼らを振り返りながら角を曲がったのを待ってから、すっと新平が離れた。
歩きながらひょいとさりげなく黒羽織を脱いで裏返す。ほかの隊員たちは総司の元に集まる者、そのまま離れて行く者、に分かれていく。
不審な者に気づいてもいなかったセイは唇を噛みしめた。
後をつけてきていた者にも気づいていなかった自分が悔しい。
「じゃあ、続き、行きましょうか」
「沖田先生」
「神谷さんは先に屯所に戻っていてください」
「えっ」
集まってきた皆を促した総司にすがるように声をかけたセイは、ぴしゃりと言い切られて、伸ばしかけた手が再び止まる。
総司の羽織の指一本手前で止まってしまった手ははたりと落ちた。
なんで、という前に山口と相田に引っ張られて後ろに下がる。
「なんだよっ」
「いいからお前は先に帰ってろ」
「な?神谷。今日は無理すんな」
「無理ってなんだよ!」
捕まれていた腕を払ったセイをなだめようとする二人に癇癪を起こすが、それに構わず総司は先へと隊士たちを連れて歩いて行ってしまう。拝むような二人にむくれたセイはわかったよ、と言い切って身を翻した。
どすどすと踏みしめるように歩いて一人屯所に向かう。
―― なんだよ!私だけ戻れって……
憤慨しながら屯所の近くまで戻ってきたセイは、六条から道院堀にかけて角を曲がった。人通りもぐっと減るのはいつものことだが、人影が少なくなったにもかかわらず、視界の隅に人影がいた気がして足を止める。
叩きこまれた勘が無意識にセイを動かした。
右に曲がれば屯所に出るはずの角をまっすぐに進む。網笠をかぶってはいるが、後ろ姿はつい先ほど巡察中の一番隊と接触した男にみえる。
―― 先刻……、でもなぜ?
明確な何かを意識したわけではない。ただ、勘がセイを動かす。
男が向かう先から歩いてくる人影が見えた。
―― え?
疑問ばかりだったセイの頭の中がさらに疑問でいっぱいになる。
そんな時はたいてい、よくないことの前触れで。
「……ちっ」
男が前から来た人影に気づいて、網笠を手で押さえながら踵を返した。それに気づいた人影が足を速める。
隊服姿のセイと、背後の気配を振り返った男が息を殺してすれ違う。