まちわびて 12

〜はじめの一言〜
兄上も先生もやっぱり風が一番好きですね。

BGM:
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「出せ」
「はいっ」

すぐに懐から油紙に包んだ返書を取り出したセイが土方の手にそれを乗せた。
くるっと裏を返して油紙を外した土方が返書を開いて読む。その間、じっと身動きせずにセイは息を殺して待つ。

「……ふむ」

手紙を読み終えた土方が元の通りに戻して文箱にそれをしまうと、文机に肘をついた。

「で?」
「……えーと」
「だから?」

じろりと睨みつける土方に説明の言葉が詰まる。ちらっと総司に助けを求めても澄ました顔の総司は少しも目を合わせてくれない。渋々、首を竦めながらセイは口を開いた。

「その……、ですね。えー、夜の船荷があるということでして、それを聞いたわけでぇ。私としては……、なるべく早く帰営したかったわけで……」
「それで?」
「その荷をですね、護衛と言いますか、オマケで乗せていただいた次第でして……」
「それが?」

どうして総司と一緒にもどってくるのかというところに来ると、非常に言いづらい。土方の顔をちらちらと見上げながら途中で捕り物の最中の総司と斉藤に出会ったことをかいつまんで話す。

「ほお……」
「あのー……ですね。別に、わざとじゃないんですよ?たまたま、その……、隊の呼子が聞こえたのでつい、そちらへ様子を見に行ったところ、斉藤先生と沖田先生がいらっしゃったわけで……」
「それで?」

土方にはおおよそのことは読めているのだろうが、畳みかけてくる勢いに負けて、セイが畳に手をついた。

「申し訳ありません!どうしても気になって、捕り物に首を突っ込んでしまったというか……」
「ほぉ……」

ひく、と少しずつ土方の頬が引きつっていくのは見えていたが、最後の最後でこめかみがひく、と怒りの印としてつりあがった。

「この……、馬鹿野郎が!!てめぇ、夜にだす舟ときたらそれには意味があるに決まってるだろ!貴様、まさか調子に乗って護衛でも引き受けてたんじゃないだろうな?」
「えーと……」
「引き受けたのか?!」
「何もなかったです!なにも!無事につきましたし、私は乗せてもらう間だけと言うことで決まりましたし!」

中腰になりかけて叫んだセイの首根っこを総司が掴んだ。

「ぐえっ!」
「神谷さん。座りなさい」

ぐいっと引き戻されて座り込んだセイが目を白黒させていると、がつん、と土方の拳が落ちてくる寸前で止まる。ぎゅっと目を閉じていたセイが恐る恐る目をあけると、拳を構えていた土方がゆっくりと手を引く。

「……やめた」
「はい?」
「お前らにはこんなもんじゃ駄目だって俺もそろそろわかってきたんだよ」

苦々しい顔はセイではなく総司の顔を睨んでいた。セイの襟首を掴んで引き戻した総司の顔は、どこか嬉しそうで、セイだけでなく一緒に罰を食らうのさえ嬉しいというその裏側を思っただけで、土方には鳥肌が立つ。

それでもいくら怒鳴ろうが何をしようが、変わらないのだから仕方がない。わかりやすいその道に足を踏み入れているわけではないなら、これ以上下手に刺激するより、効果的に使った方がいい。

片膝を立てて行儀悪く座りなおした土方はにやりと笑った。

「お前ら」
「はぁ。私もですか?」
「当たり前だ、総司。こいつの面倒はガキの頃からお前に見ろと言っておいたはずだ」

セイが叱られてから、お前も悪いと言われるのかと思っていた総司は、はて、と首を傾げる。そこに二人にとっては痛恨の罰が言い渡された。

「総司。お前はむこう七日、休みなし」
「はぁ……」

そのくらいならまあ、可愛いものだと頷いているとやはりそこは土方である。わざと間をあけてから話が続く。

「神谷。お前はむこう七日、幹部棟で局長の手伝いだ。隊士棟への出入り禁止、総司とも七日の間は接触禁止」
「はぁ?!せ、接触ってっ!!私と沖田先生はそんなっ」

誤解を招く物言いに真っ赤になって目を向いたセイと総司を前に、言った土方の方も慌てる。

「ば、馬鹿っ!誰もお前らがその、せ、接触してるなんて言ってるんじゃなくて、顔を合わせるのを禁止ってことだ!馬鹿なこと言うんじゃねぇ!!」
「あ、当たり前じゃないですかっ!接触って言い方するからっ」

顔を赤くした三人がそれぞれに顔を逸らしあってから、はっと総司とセイが我に返る。

せっかく帰ってきたばかりなのに、七日も顔を合わせるのを禁止と言われたのではなかったか。

「どーいう罰ですかそれ!」
「土方さん!神谷さんには私がよーく言い聞かせますから」

二人そろって反論したものの、土方の問答無用の一言で却下される。

「明日の朝、お前は近藤さんの部屋に移動して来い。ひとまず今夜はゆっくり休め」
「……そんな、せっかく帰ってきたのにそんな言いぐさ」

言うだけ言って手で追い払う仕草をした土方に、思いきりむくれたセイが呟く。隣りで苦笑いを浮かべた総司は、ここで土方に逆らえばなおさら罰の効果があると思わせてしまうとわかっている。

大人しく肩を竦めて頷いていると、耳ざとい土方がじろりとセイを睨んだ。

「あぁ?!」
「わっかりましたぁ!」

やけくそ気味に叫んだセイをうるさそうに手で払う。
先に立ち上がった総司につられてセイも立ち上がる。しょんぼりと肩を落として副長室を出ると、総司が振り返った。

「そんな顔をするものじゃありませんよ。いいからついてらっしゃい」
「沖田先生……」

まだ旅拵えも解かないままだったセイを連れて総司は、一度隊部屋へと向かった。

 

– 続く –