風天の嵐 18

〜はじめのつぶやき〜
副長はやっぱりかっこいいんですよぅw

BGM:嵐 迷宮ラブソング
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「跡目ってのは少し違うか。跡取り目当てってところだろ」
「跡取りつってもそんなまさか。自分の子供でもないのに?」
「ふん。それができなかったら?」
「いくらなんでも馬鹿な!」

土方の考えに皆が首を振ったり、まさか、という顔になる。
確かにそうだろう。この時代、血縁であることがまずは跡取りとして最優先される。子が出来なければ、親類から養子にするのが次で、それもない場合は、家臣なり見込んだ者がいればその者をとなる。
全く縁もゆかりもない者の子を跡取りにするのだろうか。

顔も上げずに印をつけていく土方が淡々と答えた。

「そう思うだろうな」
「何だよ。意味深じゃねぇの?」
「ああ。でも俺はそれだと思ってる」

土方の断言に皆が顔を見合わせた。構わずに、総司が調べてきた武家や公家の場所を地図を見ながら印をつけた。次々と市中の地図に印が増えていく。

「総司が調べたのはここ、ここと、ここ。それに、これと、これと……」

次々と印をつけていく土方の手元を見ながら皆が怪訝な顔をしていた。ばさっと印をつけ終わった地図を広げた。

「この印がついた家。それをお前らでもう一度洗ってくれ。総司が調べたということは、何か関わりがあったはずだろう?それから、斉藤。これらの家を洗ってくれ」

皆の顔を眺めながら土方が地図を指し示し、懐から武家の名が書かれた書付を取り出して斉藤に差し出した。

「副長には何か心当たりがおありのようですな」
「ああ。明日にはわかるだろう」

なにがわかる、とは言わなかったが、総司が調べをしている間に土方は土方なりに調べをしていたらしい。斉藤がちらりと土方を見たが、その場では何も言わずに書付を受け取った。
皆に細かく指示を出して、皆をすぐに調べに向かわせることにした。

 

 

「……?」

総司が目を覚ました時、目に映った天井にそこがどこかわからなくて、総司はしばらくぼうっと眺めていた。確かに寝過ぎていたということもあるかもしれない。
首を動かして、肘をつくとそこが局長室だということがようやく頭に染みてくる。

「どうして……。しまった!!」

いつの間に眠ってしまったのかと思った総司は、そこから一気に記憶が蘇って、自分がどれほど深く眠っていたのかわからずに飛び起きた。

自分には悠長に眠っている時間などないはずなのに、眠ってしまうとは。

急いで総司は局長室を飛び出して隊部屋へと足早に走り出したところで総司は小者とぶつかった。

「沖田先生!」
「あ、あの、私はいったいいつから眠ってしまってたんです?!今日はいつで」
「落ち着いてください。沖田先生、もうすぐ副長がお戻りになります」
「これが落ち着いてなどいられますか!どいてください。私には時間がないんです!」

小者に向かって怒鳴りつけた総司は、押し留めようとする手を振り払って総司は隊部屋へと向かいかけた。二人のやり取りに気付いた一番隊の隊士達が駆けつけて総司を押し戻した。

「沖田先生、待ってください!」
「副長が戻られるまで副長室でお待ちください!」
「すぐお着替えとお食事をお持ちしますので」

寄ってたかって総司を副長室へと押し戻した隊士達に、総司は力いっぱい腕を振り払おうとしたが、山口の言葉にぴたりと動きを止めた。

「今、副長をはじめ先生方が沖田先生の代わりに調べてらっしゃいます!!ですからそれをお待ちください」
「……どういう、ことですか」

一気に表情を強張らせた総司を副長室へと連れて行った山口は数人と共に総司を囲んでその目の前に座った。

「沖田先生がお一人でお調べになっていた間に、俺達も随分調べたんです。でも、武家の大きな家の事は俺達じゃ調べられません。代わりに、井筒屋をはじめもう一軒の攫われた女の家と、後二人の女の家に出入りする店なんかをかたっぱしから調べたんです」

怒りをにじませた総司は何も言わずに山口を睨みつけた。山口はその眼に怯んだものの、小川や相田達が周りを囲んでいることでなんとか話を続けた。

「わかったのは、どの家でも妻女たちがあまりいい扱いをされてなかったということなんです」
「……はい?」
「つまり、不遇な環境にいたらしいんですよ。それを副長に報告させていただきました。その後です。先生が小部屋から副長に連れ出されたのは」

目が覚めてくれば総司にも薄らと覚えがある。診療所の小部屋にいたところを土方に連れ出されて、風呂に入ったところまでははっきりと覚えている。それから後に関しては今一つ、自信がないところではあったが。

「私はいったいどのくらい眠っていたんですか?」
「……」

山口と相田、そして小川ら総司を取り囲んでいた者達は顔を見合わせた。その反応に総司は自分がどれほど眠っていたのかと青ざめてくる。

「……一昼夜ほど、になります」
「いっ……!!」

口を開きかけた総司は、驚いたまま立ち上がりかけていたが、がくっと腰を落とした。ただ、眠ってしまっただけではそんなことにはならない。

―― 土方さんですね……

ここまでされれば、土方を待って一言文句を言わなければ気が済まない。総司がそう思っているところに、一番隊の隊士が賄から膳を運んできた。
小さめの土鍋に白粥と、漬物、それからもう一つ小さな鍋をもってきていて、その中にはたくさんの大根を千にしたものとむき身の浅利が入っていた。

「まずはお食事をとってください。もう何日もろくなものを召し上がってませんよね?」
「そうですよ。饅頭や餅だけで何日も寝ずに駆け回っていたら誰だって倒れます!」

茶碗に粥を取り分けると、箸を添えて山口が差し出した。幾分、総司の目から尖った怒りが薄まった気がした。

「沖田先生。俺達は、先生が神谷を取り返したときに、沖田先生が倒れていたり、具合が悪くなっているような……、そんなことは絶対にできません!」

ぐいっと差し出した山口は総司の手に茶碗を持たせた。その言葉に渋々と総司は白粥をすすり始めた。ほっとした隊士達は、鍋を椀に取り分けて出汁の効いた汁をたっぷりと取り分けた。

白粥と大根の汁物は、疲れ切った総司の胃の腑に染みわたる。それが総司の表情にも出たのか、少しずつ箸が勢いよく動き出して、隊士達は茶碗が空になるたびに取り分けた。
総司の腹が満たされたころ、遠くの方からざわざわと声がして誰かが戻ってきたことを告げていた。

「土方さんが戻ったみたいですね」

箸をおいた総司の顔はすっかりいつもの総司に戻っていた。

 

 

 

– 続く –