年の瀬の花手毬 2

〜はじめのお詫び〜
続きものダブルでいきます!!ダウなーなんてこぼしませんよ!クリスマスですもんね

BGM:ORANGE RANGE  *~アスタリスク~

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店の物置小屋に閉じ込められてお鈴は恐ろしさにしくしくと泣き出した。せっかく両親のために買い求めた柚餅は、さらわれる間に握り締めてしまい、潰れてぐしゃぐしゃになっている。
セイは、お鈴を抱きかかえて優しくその背を叩いた。

「お鈴ちゃん?泣かないでお顔をあげて頂戴?お姉さんが一緒にいるから大丈夫」
「お、お姉ちゃんまで一緒に連れてこられちゃって…ごめんなさい」

セイが自分達を助けようとして巻き添えになったことは理解しているらしい。そこがまた可愛らしくてセイはお鈴に言い聞かせた。

「大丈夫。あのね。お姉さん、本当はちょっぴり強いの。お鈴ちゃんにあの怖い人たちがひどいことをしようとしたら守ってあげる」
「本当?」
「ええ、本当」

目に涙をいっぱいにためたお鈴が顔を上げると、暗がりの中でもセイがにっこりと笑った。その顔に安心したのか、お鈴は涙を拭いてセイにぎゅっと抱きついてくる。

「お鈴ちゃん、お腹は?空いてない?どこか痛くしたところはない?」
「大丈夫!お姉ちゃんは?」
「大丈夫。さあ、涙を拭いて?泣いていたら助けが来たときにぱっと逃げることもできないでしょう?元気で助けがくるのを待ちましょう?」

下女を店に向かわせたということは、身代金が奪えれば、セイとお鈴は放り出されるだろう。どちらにせよ、それまでの辛抱だと思っていた。

だが、不逞浪士達が要求した金額が多かったことと、井筒屋が本当に真面目な人物だったために、お鈴の身を案じながらも町方に知らせを送り、その指示によって金を受け渡すことになっていた。
町方の指示も京では所司代の指示を仰ぐ。直接、新撰組に持ち込まれるか、浪士達が待ちきれずに動くかどちらかでないと事態は動かないだろうと、セイは思っていた。

総司達が、セイが帰らないことを知った頃、ようやく町方の者達が浪士達の居座っている料理屋を取り囲み始めた。取り囲んだといっても、ひどく遠巻きに囲んでいて、踏み込んでくる気配はない。井筒屋の主人がさらにその外に立って、気をもんでいた。
金ならいくら出しても構わないので、お鈴を助けて欲しいという井筒屋にだったが、所司代は浪士達の腕のほどがわからず、踏み込もうとはしない。

いつもより早めの巡察に出た一番隊は、戻らないセイを探しながら市中の見回りを始めていた。平静を装っているものの、総司がぴりぴりしているのは長年一緒にいる一番隊の隊士達もすぐわかる。
彼らとて、セイを心配する気持ちは今も変わりないので、あちこちの町屋を見回りながら歩いていくと、件の騒ぎに行き着いた。

総司は、町方の与力、大野孫兵に情況を尋ねた。

「町方の方ですね。私は新撰組の沖田といいます。これはどういうことですか?」

腕に覚えのない大野は、助かったとばかりに状況を説明した。不逞浪士の数と、人質をとられた在り様にどうしようもないのだと言った。

「何分、腕の立つ浪人が五人もいては人質もおりますし、手も足も出ない情況でして」
「人質とは?」
「井筒屋の五つになるお鈴という娘ともう一人助けに入った者がいるようなんですが」

―― なるほど。仕方のない人ですね

すぐに情況を理解した総司は、屯所に使いを走らせた。相手方が五人であれば一番隊だけでも大丈夫とは思ったが、人質もいるならば万全の体制を敷くべきだろう。
山口が情況の報告に走ることになった。

一方、屋内では、浪士たちが好き勝手に飲み食いを重ねている。ここにいれば飲み食いには困らないだけに、いくらでも待つ気であった。店の者達は皆逃げ出しているが、すでに調理されたものと上等の酒だけでも十分だった。
中の一人が表の様子を伺って、町方が取り囲んでいると告げた。

「はっはっは。あいつらが何人囲もうと、こっちには人質がいるんだ」
「そうだ、ちょっと脅かしてやるか」

酔っ払った男達は座興とばかりに人質を見せて町方や取り囲んでいるものたちを脅かしてやるつもりになった。男のうち二人が、セイとお鈴を連れ出しに物置に向かう。
泣いたせいもあって、セイの膝の上でお鈴は眠ってしまっていた。急に明るくなって、目を覚ましたお鈴はセイに縋りついた。

「出て来い」

二人の浪士にセイは腕を掴まれて、お鈴を抱きかかえたまま物置から引っ張り出された。女だと侮ったのか、腰の脇差はそのままに料理屋の室内へと連れ出された。
彼等が陣取っている座敷の隣に連れ出されて、セイは黙って彼等を見ている。

「いいか。金を持って来いといったにもかかわらず、井筒屋は町方に知らせやがった。今、この店を囲んでやがる。お前らを見せつけてやれば少しはびびって金を持ってくるだろうさ。どうせ時間も時間だ」

そういう男たちの様子にセイは冷静に腕のほどを測った。頭とおぼしき男でも、一対一で立ち向かえばセイでも打ち負かすことができそうな雰囲気だ。
捕まってから初めてセイは男達に口を開いた。

「今、何時でしょう」
「あーん?四つを過ぎたところだ」

この時間から朝までに踏み込まれることはないと思っているらしい。あくまで脅しは金を引き出すためのネタだと思っている。
しかし、時刻を聞いたセイにとってはそうではない。セイは怯えるお鈴を胸に抱えてそっと言い聞かせた。

「お鈴ちゃん。もうすぐ助けがくるから安心してね」
「誰かが助けてくれるの?」
「そう。あのね。お姉さんの旦那様はすごーく、強い方なの。きっと私が帰らないから心配して探しに来てくれる」
「鈴の、父上と母上も心配しているかしら」

お鈴の言葉にセイはにっこりと笑った。

「もちろん心配してお外で待っていてくれますよ」

店の入り口から代表格の男が二人ほど外に出た。その後から、お鈴と共にセイは店の外に連れ出された。

「金は持ってきたのか!!」
「ほうれ、こっちには人質がいるんだぜ!!」

外から灯りに照らされているが、取り巻いている者達がなんとか見える。遠巻きに取り囲む町方のほかに一番隊の顔がちらほらと見える。
顔が正面からは見えないようにお鈴を抱きかかえたセイが、二人の男の傍に連れ出されると、進み出たのは相田だった。

「お前ら、人質を離せ!!」
「なんだ、お前。町方のもんか?」

刀を抜いて出てきた相田に男が馬鹿にして言い返した。
まさかに、相手が新撰組の精鋭一番隊であることも、その鬼と呼ばれる組長の妻を人質に取っていることも彼らは知らない。
相田が前にでてきたことで、納得したセイは抱きかかえたお鈴に小さい声で言い聞かせる。

「少しだけ目をぎゅっと閉じていてね?」

囁きながら、セイはお鈴の頭を袂で隠すように抱えた。セイの腕を掴んでいた男が、相田に向けてセイを突き出そうとした瞬間。

セイは身をひねって片腕で抜いた脇差を自分の腕を掴んでいた男の腕に向けて斬り上げた。寸分も違わずに、反対側から黒い影が走りこんだと思ったら、残りの男を黒い影のようだった総司が斬り払っていた。
反動でぐらりと姿勢を崩したセイを総司が片腕で抱きとめてから、すぐに相田のほうへ押しやる。脇差を抜いたままのセイは、隊士達に駆け寄るとお鈴を一旦預けてから脇差を納めた。

他の隊士達は、総司に続いて店の中に踏み込んでいく。切り倒された男達は囲んでいた町方の者たちが捕縛した。人ごみを掻き分けて井筒屋とその内儀がお鈴に駆け寄ってきた。

「鈴!!無事だったかえ!!」
「父上!!母上~!!」

両親の元に駆け寄ったお鈴は、泣きながら両親にぎゅうぎゅうと抱きしめられている。ほっと胸をなでおろしたセイは、残っていた隊士達に頭を下げた。

「すみません。ご迷惑をおかけしました」
「神谷~!!無事でよかったな」

すぐに家の裏手からは三番隊を率いた斉藤が現れた。セイは、騒ぎの大きさを思って天を仰いだ。

 

– 続く –