縁の下の隠し事 19

〜はじめのつぶやき〜
こまったから焦って頑張ってみました。

BGM:
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「ふふん。まあ、沖田も他愛無いのぅ」

少し先の路地の陰で休んでいた菊池は、総司が男とともに家を出て行ってからしばらくは動かなかった。家の灯りが消えずについていることは、雨戸越しにもわかる。

しばらくして懐に忍ばせた得意の道具を確認すると、のっそりと立ち上がると、上背のある菊池は暗闇の中から灯りを目指して歩き出した。

総司達の家の庭先へ回った菊池は、静かに木戸をあけて庭に入った。そっと家の中を窺うと、一枚だけ火熨斗をかけたセイは、折り目のついた袴を丁寧に畳んでいた。乱れ箱に畳んだ袴をしまうと、セイが火鉢と火熨斗の支度を片付けていた。

その様子をにやにやと窺っていた菊池は、寝間の方へと移動して静かに雨戸の戸締りを外した。雨戸の敷居に懐から小さな油入れを取り出して、滑らせるように流し込む。これで、きしむことなく滑らかに雨戸が開くはずだ。
これが菊池の得意道具の一つである。

押し入るのは簡単だが、家人の知るところとなる前にその家の女房を手に入れるには、まずは静かに侵入し、女を落とすのである。

腕に覚えがあるくせに、妙なところで手数を惜しまず細かなことをする。

ゆっくり音をさせないように雨戸を滑らせると、寝間に忍び込んだ。気配を殺して忍び込んだ菊池を、縁の下の山崎がじっと息を殺して見守っている。

隣の部屋にいるセイの様子を窺っていると、部屋の真ん中に静かに腰を下ろしたらしい。

懐から小さな丸薬を取り出すと片手に握りしめてゆっくりと襖をあけた。

「?!」

はっと背後を振り返ったセイに一瞬で飛びかかった菊池が背後からセイの口を押えて、その上背を利用すると覆いかぶさった。声を上げかけたセイの口に 巧みに丸薬を放り込んでそのまま口を押える。反射的に飲み込んでしまったセイを、体の重さを利用して押さえ込んだ菊池は、横向きに抱き倒した。

「どうも」
「ううっ?!」
「ふっふ。すぐに、ええようにしてやる」

ぎりっと睨み返したセイをにやにやと覆いかぶさった菊池が愉しそうに覗き込んだ。女袴を身に着けていることは菊池の予定外ではあったが、その程度はどうということもない。

片腕でセイの体を抱きしめるように押さえ込んでいた菊池はセイの口から手を外すと、両手を片手で掴んだ。

―― こんな者に!

清三郎時代、セイに向かって不埒な真似をしようとするものがいなかったわけではない。時には総司が助けに来てくれ、時には自力で難を逃れている。鍛 えていても、押さえこまれてしまえば力で男に敵いはしない。それだけに、常日頃から鍛えてもいるし、逃れるためのコツもわきまえている。

セイは足をずらして、反動をつけることで身を捻ろうとした。

「……?!」

足をずらすところまではできたが、反動をつけようとしたセイは、思うように力が入らなくて驚いた。まるで体中から力が抜けていくようにどんどん抵抗しようとする手足にさえ力が入らなくなっていく。

「おやおや。効きがええようやなぁ」
「何をっ……した」
「さっき飲ませたやろ?あれは色んな効き目があってなぁ」

つい、いましがた飲まされたばかりのものがそんなにすぐ効くとは思えない。とはいえ、確かに菊池は押さえこむだけでそれ以上何もしようとせずにやにやとセイの顔を間近で眺めている。

徐々にセイの体から力が奪われていくのを眺めていた菊池は押さえていたセイの手を離した。そして、セイの体の上をまたぐようにすると、ごろりとセイを仰向けにした。

「あれはなぁ。外側は効き目のえらい早い、しびれ薬なんや。暴れたらどっちもろくに愉しめんやろ?」
「ふっ……ざけるな」

息苦しくはあっても、声を出すことだけはできる。ぎりぎりと歯ぎしりをしそうな気持でセイはできる限り精一杯、菊池を睨みつけた。
体に力が入らないことは十分にわかっているのだろう。余裕を持った菊池がセイを見下ろしながらゆっくりと袴の紐を解いた。膝を交互にあげてセイの袴をぐいっと引き下ろす。

セイの白い足が太もものあたりから肌蹴て見えた。灯りがついているだけに、その肌の肌理の細かさも見て取れる。女遊びが過ぎれば、その肌や姿を見れば女子の体を見通すこともできるらしい。

菊池の目がきらりと輝いた。

「こりゃ、ええ肌してるわ。これなら鬼の沖田もこたえられんやろうなぁ」

その一言にびくっとセイの瞳が揺れた。この家が総司の家だということはあまり知られないように心掛けてきた。家の出入りや訪ねてくる者たちがいてもそうと知られにくいような場所で、周囲へも配慮をしてきた。
それはセイがというより、総司を狙う者がこの家を狙う可能性が高くなるからだ。

「なんでっちゅー顔しなさるな。無骨者の新撰組よりもっとええ思いさしたるからなぁ」

つつ、っとセイの膝のあたりから太ももを撫でると、にやにやと状況を愉しみながら菊池が帯に手をかけた。袴を着けていたために、帯も女物としての結び方ではない。それだけに、あっという間にしゅるりとほどかれてしまい、ばさりと袷が広がった。

「……っ」

唇をかみしめたセイをなぶるように菊池は着物越しにセイの体に手を這わせた。ゆっくりと肩先から胸元へ手を滑らせた菊池がセイの胸を両手でわしづかみにした。
体つきににて、大きな手のひらがセイの胸を捏ね回すように弄り始める。

「まだまだ夜は長い。ゆっくり愉しませたるわ」

そういいながら袷を開くと襦袢越しにセイの胸を弄りながら、太ももに手を伸ばした。力が入らず、抵抗しようとしてもできないのに、肌の感覚だけは失われずに自由にならない体を動き回る手の感覚にセイは眉を顰めた。

「そんな顔をしてもあかん、あかん。もうすぐ薬が効いてくる。そうすりゃアンタも自分から強請るようになるわ」

―― 冗談じゃない……っ!

ぎゅっと唇を噛みしめたセイを宥めすかすようにセイの頬をぴちゃりと菊池が舐めあげた。その不愉快な感覚に、顔をそむけたセイの耳朶を菊池がさらに舐り始めた。

「やめっ!」
「あほ言うな。これが目的で来てるのにやめるわけあるか」

無理強いしている割に柔らかな手つきでセイの胸を揉みし抱き始めると、着物越しにも感覚だけが研ぎ澄まされていく。
感じるはずがないと思っていたセイは、何かの違和感に必死に目を見開いた。

じりじりと焦るセイと同じように、縁の下に隠れていた山崎も焦りだしていた。頃合いを見て菊池を取り押さえようと思っていたが、それは山崎一人では 手に余る。周囲には菊池が悪さをする時の仲間を呼びつけており、もし総司が家に戻ることがあっても、それを妨げるくらいはできるように準備万端という状態 なのだ。

せめて部屋に入って菊池を止めたいところだが、床板も畳もピクリとも動かない。どうやら床下から這い上がれるように細工した場所の上にセイと菊池がいるらしい。
庭の方へと這い出て部屋に乗り込めばいいのだろうが、それをしては周囲の連中も引き寄せてしまう。

―― あかん。沖田先生、気ぃついてへんのやろか?!

 

– 続く –