風こよみ 2

〜はじめのお詫び〜
あまあまキャンペーンっ!!

BGM:GReeeeN 愛唄
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連れだって屯所に現れた二人をみて、門脇からわあっとざわめきが広がる。

「おはようございます!沖田先生……と神谷」

ざわめきが広がったのは、セイも当然ながら総司をみてのこともあった。
つい先日までの、ささくれた雰囲気と悲壮感があふれていた総司がまったく別人のようだ。落ち着いた雰囲気で、どこか男の色気も醸し出しつついつものような笑みだけが口元に漂っている。

傍らを歩く妻の背にそっと回された手が、同じ男たちから見てもその『男』にぐらりとくる。

片や、伸びた髪を総髪風に束ねているのは藍色の組紐でそれが白い顔に映える。すっきりした小袖に女物の袴で以前より華奢な印象を与えている。
しかし、以前のように、いくら男装しても今のセイではどう頑張っても女にしか見えない。

本人たちはその意識がないのだろう。普段通りに挨拶をかわし、セイが初めに近藤の元へ挨拶にいきたいというので、局長室へ向かった。

 

部屋の前に来ると、総司が先に中へ声をかける。

「近藤さん、総司です」

返事より先に、障子が開いて土方が立っている。

「きやがったか」
「なんですよぅ、土方さん。そんな言い方ないでしょ」
「けっ」

文句なのか、そうでないのか、よくわからない言い方で土方が体をずらして二人を中に招き入れる。近藤と土方を前にして、はじめに総司が頭を下げた。

「改めて、お二人には色々とご迷惑おかけしました」
「総司……俺達は、お前が……いや、お前たちが幸せならそれでいいんだよ」

総司の後ろで手をついているセイの肩が震えた。泣きそうになるのをぐっと堪える。そして、息を整えて、少しだけ膝を前に進めた。
総司が体をずらして、セイを前に促す。

「私からもよろしいでしょうか。この度は身に余る寛大な配慮をいただきありがとうございます。そして新しく生きていく場所をいただけたこと、心からありがたく思っております。本日より、務めさせていただきます」

近藤と土方は二人は、二人をみて頷きあった。

「神谷。今までお前はいくら古参といえど平隊士だった。だが、今日からは幹部待遇だ。そして、お前らのことをよく思わない奴もでてくるだろう。それに、今度は女としてここにいることになる」
「おっしゃる意味、よく分かっています」

女として見られることは、これだけの男の中にいて危険も増える。それに、沖田の妻という立場を不快に思う者たちも絶対に出てくるだろう。
それでいいのかと土方は言っているのだ。

セイは素直にその言葉にうなずいた。それを見ていた総司が横から口を出す。

「やだなぁ、土方さん。そんな覚悟もなく、甘んじてそれを受け止められない人を妻にした覚えはないですよ?」

穏やかな笑みをうかべていながら、言葉は土方だけでなくセイにも向いている。嫌そうな顔をして、土方は総司を見た。

「お前なぁ……」

そう言いながら、セイに何かあれば、この男は間違いなくキレるであろうに。

全く同じことを感じたセイが呆れた顔を向けた。今朝ほどもべったりとその腕から離さなかったくせに、そう言うところだけ突き放した言い方をする。
こういうところだけは相変わらずだと思った。

「なんです?」

土方とセイの顔を見て不思議そうな顔をする総司はそのままに、近藤はセイに誰か手伝いの小者として必要かと聞いた。
少し考えてから、セイが答えた。

「普段は、今までのように薬師の手伝いとして慣れている方に空いた時間にお手伝いいただければ結構です」
「その、お里さんとかに手伝ってもらわなくていいのかい?」

セイが女ひとりで困ることはないのかと言っているのだろう。そして、セイがこうして沖田の妻となった今、セイが囲っていたお里が困っているのではないかと思ったのだ。しかし、セイは首を横に振った。

「いいえ。屯所には己を守れないものは不要だと思いますので」

そういうと、セイは間もなく始まる幹部会のために座を移した。

 

ぞろぞろと幹部たちが集まってくると口々にセイに声がかけられた。
それぞれに頭を下げて、セイが応じる。
一通り用談が済むと、再びセイは皆に向かって挨拶をさせてもらった。その後、土方からも指示が下る。

「神谷はもう平隊士じゃねぇからな。下のもんに舐められるような真似はさせるなよ」

「「「承知」」」

一斉に皆からも返事が上がる。皆もセイが戻ったことが嬉しいのだ。

 

 

新しい診療所は、真新しい木の香が漂っている。初めだけといって、総司だけでなく原田や永倉達もついてきた。

セイは、てきぱきと部屋の中を使いやすいように整え始めた。面白がって部屋の中を探索していた男たちに構わずに次々と手配りと不足のものがあれば書き出していく。それを、小者に頼み、ようやく振り返った。

「さて、先生方?」

にっこりと腰に手を当てて、セイがうろうろとしていた男たちをみてにっこりと笑う。

「邪魔ですから隊務にもどってくださいね?」

そういうと、残っていた隊士に幹部たちを追い出す様に指示した。それにはもれなく総司も含まれている。

「ちょ、神谷さん?私もですか?」
「当たり前じゃないですか。嫌ですねぇ」

先ほどは、自分が厳しいことを言ったくせにと思ったセイは、ぴしりといいきって、自分のすべき仕事に取り掛かりだした。