風こよみ 3

~はじめのお詫び〜
あまあまキャンペーンっ!!
BGM:GReeeeN 愛唄
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セイは、静かになった診療所のなかを一通り見渡して、診察や治療に使う部屋と、その隣の病間、その奥の続き部屋までを皆の出入りする部屋として、その奥の小部屋を自身の控えの間にすることにした。そこに私物を置いて、一息つく。ここは賄い所にも近いので茶を入れるにも、病人用に食事をとらせるにも楽だ。

ふと顔を上げると、いつの間に来たのか、そこには総司がいた。

にこっと笑みが浮かぶ。なぜそこに総司が戻ってきたのかわかるからだ。

その顔を見て、総司が誰もいない部屋の中を大股に歩みよってくると、ぐいっとセイの顎を掴んで深い口づけを落とした。

「……っ!」

セイが身構える間もない素早さで奪われた唇に見開いたままの視線が絡まる。そう長くなく唇が離れても、息がかかるくらいに近いところで、上から覗き込むように総司が囁いた。

「何かあったら、必ず私に言いなさい」

―― どんなことでも

慣れているとしても、あれから初めて屯所に戻ったのだ。セイが緊張していることは分かっていたのだ。気を張っているのは仕方がない。自分が傍にいることでますます、セイが不利にならないとも限らない。

しばらくは様子を見るしかないのだ。

「大丈夫です」

セイにとっては、総司の妻であることの前に、一己の沖田セイというものでなければならなかった。

もう、巡察の時刻なのだろう。その答えを聞いて、総司はセイから手を離した。最後にその頬を一撫でして、素早くその部屋から立ち去った。

総司の後姿を見送ると、触られた頬に手をあてた。

―― 心配症だなぁ……

くすっと笑うとセイも立ち上がって、診察する部屋に移動した。

「神谷~、すま~ん」

早速というべきか、藤堂が駆け込んできた。

「わ、何やってるんですか。藤堂先生!」

「いや、ちょっとうっかりしてさー、縫ってくんない?」

長着の脇を踏みつけたのか、ばっくりと割った状態で帯を引きずりながらの登場である。

そんな姿で現れなくても着替えてくればいいものを、まだ落ち着かないはずのセイに仕事を与えようというい心遣いなのだろう。

「もうっ!早く着替えてくださいよ。ちゃんと縫っておきますから」

ぷっと膨れてみせながらも、優しい男達の気遣いが嬉しくて、セイは苦笑いを浮かべた。

その後は、次から次へと、かすり傷や腹痛、縫い物に何やかにやと持ち込まれて、大盛況であった。巡察から戻った総司が、診療所をのぞくと、予想外の大盛況ぶりにセイの愛され具合のすさまじさに驚くばかりである。

「なん……ですか、これ」
「神谷の可愛がられ具合を今更実感したのか?」

背後からぼそりと投げかけられて、振り返ったそこには、腕を組んだまま、いつも以上に仏頂面の斎藤がいた。

「斎藤さん」
「どこまで続くかな」

そういうと、斎藤は踵を返して去っていく。総司はそれと診療所の盛況ぶりを、見比べて溜息をついた。

―― 私の奥さんは人気者ですからね

そうつぶやくと、診療所には寄らずに総司も隊部屋へ戻って行った。

夕刻まで診療所はつまらない傷や腹痛などの患者以外は、これまで通りの雑務を持ち込む者たちで盛況だった。

さすがに初日はバタバタしていて、なかなか帰るに帰れず、遅くなってしまったので、屯所で夕餉をとって総司と帰ることになる。

「お待たせしてしまってすみません。沖田先生」

屯所においては、かつての呼び方をどちらからともなくしていた。すっかり待たせてしまった総司に、小部屋で待っていてもらったセイは、慌ただしく手周りのものをまとめる。

「そんなに慌てなくてもいいですよ」

のんびりとした声をかけながら、ぱたぱたと戸締りをしていくセイを眺めていた。

幸いなことに、今は床についているものもいなければ、重症の者もいない。非番は総司に合わせることにして、総司が夜の巡察ではない日は共に帰宅するということになっている。

「お待たせしました!」
「はい。行きましょうか」

診療所の裏からは直接門へ出られるようになっている。緊急時に重傷者を運び込みやすくしているのだが、連れだって堂々と歩くのも憚られるために、二人はその出入り口を使うようにした。

門脇の者に挨拶をして、屯所から出ると、さすがのセイも力が抜けた。自覚がなかっただけで緊張していたのだろう。小さな窪みに足をとられて躓きそうになると、総司が腕を伸ばして支えた。

「大丈夫ですか?疲れたんでしょう」
「疲れるほどまだ働いてはいない気がしますけど、ね」

体制を崩したところを支えられて、再び総司の隣を歩きだすと、今度はそんなことのないようにセイの手を大きな手が包んでいる。

「本当は抱えて帰りたいくらいなんですけどね」
「な、何を言ってるんです!別に怪我をしているわけでもないし、ちょっと躓いたくらいで大げさですよ」

そう言いながらも、セイの手からはセイの大刀も荷物も、奪い去られている。手をつないで歩く二人は、明かりなしでも近くにある自分たちの新居にすぐ辿り着いた。

からりと、玄関を開けて、暗い室内に入る。灯りをつけようとセイが動く前に、ぐいっとつないだ手を引かれて、そのまま総司に抱え上げられた。

「ちょ、ちょっと総司様?!」

荷物を部屋に置くと自分とセイの刀はもったまま、一番奥の部屋へと向かった。

刀を刀掛においてから、セイをおろす。そのままセイの抵抗を抑え込んで、荒々しく唇を合わせる。

セイの、ちょっと待ってという言葉もそのまま口づけに飲み込まれていった。

 

 

– 続き (は、黒ですかね?)–