風こよみ 5

~はじめのお詫び〜

平和?んなわけがない?!
BGM:GReeeeN 愛唄
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思ったよりは平和な日が続いていたといえる。

中村を含めて何人か、毎日診療所に日参している者が何人かいるものの、おおむね神谷という存在を普通に受け入れているようだった。

その中に、一人。セイがいなかった間に入隊した隊士がいる。十番隊に配属になっている男で備前脱藩の池田新之助という男。

特にどこが痛いとか、そう言うことを言うわけでなく、毎日セイが診療所に入ったところを見計らって、診療所の掃除を自ら買って出ている。セイはわざわざ断ることもなく、掃除を終えると、隊務に戻っていくのをするに任せていた。

「なあ、神谷。なんであいつ、毎日来させてるんだよ」
「来させてなんかいません。自発的に掃除をかってでてくださっているので、お任せしているだけです。というか、中村さんも毎日きてるじゃないですか」
「お、俺はっ、お前の顔が見られれば……」

顔を赤くして横を向いた中村をそのまま、放置してさくさくとセイはその日の食事内容や風邪で寝込んでいる者への着替えなどを手配りし始める。

「てゆーか!!お前、俺の話をだなぁ!!」
「そう言えば、中村さん、そろそろ巡察の時間じゃありませんか?」
「あっ!!くそっ。またくるからなっ」

そう言い置いて、慌てて中村が診療所を飛び出して行った。小者達やその場にいた隊士たちが笑っている。

―― 結構、大変なんだよね。自分の控えの部屋も最近、怪しい人たちの巣窟になり始めてるし……

ふう、と息をつくと、その場にいた小者に幹部棟にいくと伝えて後を頼むと、セイは副長室に向かった。部屋の前から声をかけると、すぐに中から障子があく。

「おう、なんだ」
「ご報告に参りました。今日までとお預かりしている五番隊の沼尻さんですが、今日の様子ではもう少し様子を見た方がいいかもしれません。その他、重傷者はおりませんし、軽傷の方々は隊務に支障をきたすことはないと思われます」

セイは、自発的にその日の診療所の報告を土方へ上げていた。土方が不在のこともあるため、毎日定刻にできるものではないが、こうして時間を見てその日の様子を報告している。

土方はわかった、と答えながらちらっとセイの様子をみた。

特に落ち込んだり、不機嫌だったりする様子はなさそうだ。

それを見て安心したのか、もういいとばかりに片手を振った。しかし、セイはその後ろから小さな盆を差し出した。

「来なくてもいい方々は診療所に通ってこられますけど、肝心な方々は足を向けていただくことがないので、こちらから参りました。これを」

小さな盆の上に、包みが一つと黄色のあられのような玉の浮いた湯のみが一つ。

「なんだ?」

怪訝そうに振り返った顔をみて、セイは何も言わずに立ちあがってその額に手をあてた。

熱い。

「やっぱり!!一昨日から風邪ひかれてますよね?!」
「なっ、お前なんっ」

額にあてられた手がひんやりとして冷たい。その心地よさに逆に慌てた土方が体を引きかけると、ぐいっと目の前に先ほどの盆がつきだされた。

「薬です。休めと言っても聞く方ではないのは承知していますから、薬だけは飲んでいただきます」
「うるせぇ。このくれぇの風邪なんか大丈夫……」

じろっとセイに睨みつけられて続きが出なくなる。

「局長から言っていただいても私は構いませんが?!」
「わ、わかった……飲む」

しぶしぶ、包みを口にあけて湯のみに入ったもので流し込んだ。

苦いはずの薬が、湯のみに入っていたものでさらりと流されて、後味が甘くてさっぱりしている。

「ほぉ。こいつは?」
「はい。九重というもので、北のほうの飲み物です。滋養があり、喉越しもいいので、副長なら好まれるかと思いまして」
「うまい」
「お気に召してようございました。では、夕餉を召し上がったら診療所のほうで今宵はお休みください」

ぐむっ、と言葉に詰まる。

土方の行動はダテに小姓だったわけではない。風邪をひいていることを隠したいのだろう。夕餉を終えてからであれば、自室で休んでいても診療所で休んでいてもわからないということだ。

「今日は私も泊まりになりますのでご心配なく。それでは」

そういうと、セイはさっさと持ってきた盆をもって、診療所に引き揚げた。

土方は素直に聞いたものか、と思ったが、セイが泊まりということは一番隊が夜番ということだ。それならば、と思い、結局夕餉の後に診療所に足を向けることになる。

 

 

– 続き –