ないしょ、ないしょ 5

〜はじめの一言〜
副長は、お豆好きですかねぇ?

BGM:
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ばたばたとうるさい足音が迫ってきたのが聞こえて、土方はにやりと笑った。

―― さて、今度は何を持ってきたんだ?

総司も今は部屋にはいないが呼べばすぐにどこからともなく現れるだろう。そう思っていると、今回は勢いよく障子が開く、ということはなかった。 うるさい足音の割に、勢いよく現れないと思って土方が顔を上げると、何やら大きな荷物を抱えているらしく、そこに影があるのにもたもたと入ってくる気配が ない。

仕方なく立ち上がると、土方は内側から障子を開けた。

「……なにやってるんだ?」
「あ」

手にしていた駕籠を置かずになんとか障子をあけようとしてもたもたしていたセイは、急に目の前で障子が開いたことに驚いた。

「す、すみません。障子を開けられなくて」
「一度、置きゃいいだろうが」
「でもっ!」

そういって、セイが抱えてきたのは山の様な豆が入った籠だった。さすがにそれにはセイが何を思って持ってきたのかわからず、首を傾げた。

「お前、何をするつもりでそんなものもってきたんだ?」
「次の勝負です!」

副長室には入らずにその前の廊下に腰を下ろしたセイは、どさっと籠を置いた。ひらひらと手を振って、土方に豆を見せたセイは、どうだ、という顔で籠を見せた。

「豆です」
「……そりゃ、みりゃわかるが……」
「ですから、豆をむくんです。今日の夕餉は豆ごはんですから」
「まさか……」

少しずつ眉間に皺を刻み始めた土方が恐る恐る、足元の籠に指を向けた。

「これ、か?」
「そうです!どちらが早くきれいにたくさん豆をむくか、です!」

自信満々のセイを見ていると、膝から力が抜けるような脱力感に襲われる。どっと、言いようのない疲労感と、脱力感を覚えた土方は、それでも外の日差しに眩しそうに目を細めた。

「豆むきねぇ……」
「まさかこれも得意だっていうんじゃ……」

その顔にあからさまに化け物、と書いたセイに違う!と怒鳴り返した土方は、きょろきょろと周りを見回した。

「副長?」
「いねぇんじゃ困るだろ?」

何を探しているのかと不思議に思ったセイの前で、すうっと大きく息を吸い込んだ。

「総司!総司はどこ行った?!」

鶴の一声とでもいうものか、土方の第一声がすると、隊士棟の方がびくっと息を飲むような気配がする。セイが隊士棟の方を見るとすぐ、そちらの方から総司がひょいと姿を現した。

「そんなに大きな声を出さなくても呼ばれればすぐにきますってば」
「うるせぇ。だったら呼ばなくても来い」
「そんな無茶な。で?今度は何の勝負です?」

足元にセイが座り込んでいるのはわかっていたが、土方の方へと話を振る。肩を竦めた土方が足元にどっかと腰を下ろした。
それをみれば、土方がそれをやる気なのは一目瞭然だった。

「豆ですか」
「ああ。豆だ」

くすっと笑った総司は、二人の真ん中に腰を下ろす。

「じゃあ、三人でやりましょう。私も参加しますよ」
「ええ?!沖田先生がですか?」
「私が参加しちゃだめだとでも?」

ぷぅっと頬を膨らませた総司にげんなりした顔で土方がごつん、と頭に拳を落とした。ぺろっと出していた舌をそのまま噛んでしまい、痛みに顔をくしゃっとした総司をみて、セイが笑う。

「駄目なんてことはありません。沖田先生にまで手伝わせるようで申し訳ありません」
「おい、神谷。俺には勝負っつって、手伝わせてもいいってのかよ」
「もちろんです。さ、始めますよ」

ぎりぎりとセイを睨んだ土方がもう一発、総司の頭へと拳を落とした。

「いたーい!土方さん、ひどいっ」
「うるせぇ!行くぞ」

せぇの、と三人が息をそろえるとそろって籠の中の豆に手を伸ばした。

「これは私にも有利ですよ。私だってこう見えても試衛館にいた頃は、下働きとしていろんなことをしましたからね。歳三さんにはまだまだ負けませんよ」
「ふん。俺は家伝薬を作る時には誰よりも一番上手いって言われてたんだぞ」
「家伝薬って、石田散薬ですか?あれは豆むきとは全く関係ないでしょうに」
「うるせぇ。手先が器用だってことだろ?」

それも関係ないと思いますが、と呟いた総司の目の前からごっそりと豆を取り上げて自分の方へと引き寄せる。
その向かいではセイが黙々と豆をむき続けていた。

「神谷さんも手先が器用ですよねぇ」
「……」
「ひどい、相手してくれない」
「……」

するわけがないでしょう!と怒鳴るのを堪えたセイが手の中に殻を持てるだけ握りこむと、すぐに次の豆を手に掴む。一杯になれば、ぽいっと殻を脇に積んで新しい豆を手にする。

「神谷さぁん?」

総司がわざとセイの目の前に顔を突っ込んでじぃっと見上げると、セイが根を上げる。

「沖田先生っ!」
「だぁってぇ。神谷さん、全然かまってくれないしぃ」
「これは勝負なんだぞ!」

がう、っとかみついたセイは再び豆に手を伸ばす。開いていた土方との差が、少し詰まった気がして、再びせっせと手を動かした。

「絶対にまけられませんから!」

土方と同じか、それ以上の豆を総司の目の前から引き寄せたセイが、てきぱきと手を動かした。

「お前、絶対まけねぇからな」

始まってから宣言するのもどうかと思ったが、土方はセイにそういうと再び懸命に手を動かし始めた。

 

 

– 続く –