天花 4 金星

〜はじめのお詫び〜
展開超〜早めです。 史実バレありかもです。
BGM:悲愴

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夢の中で、総司はやっと、会いたくて、会いたくて仕方がなかった人の姿を見つけた。

「神谷さん!!」

その姿はすっかり女子として、花開いた美しい姿で、何度も何度も思い出していた月代の少年ではなかった。
それでも、総司が見間違うはずもない。

ふと気付くと、壬生のセイがよく泣いていた木の下に総司はいて、その傍らに歩み寄ってくるセイの姿が見える。
手が届くほど近づいてきたセイを思わず、思いきり抱きよせて、強く強く自分の胸に抱え込む。

「本当に、本当に心配して探していたんですよ」
「申し訳ありません。先生。先生方にご迷惑をかけたくなかったんです」
「貴女がいなくなったことが一番の迷惑でしたよ!!」

総司がそういうと、セイは悲しげにそれでも笑って見せた。総司を見上げる姿は月代もないのに、なぜかいなくなった頃から少しも変わらない気がする。

「これからはいつでもお目にかかりに参ります」
「本当ですか?本当に、絶対ですよ!!」

ぎゅうぎゅうと抱きしめながら、総司が子供のように繰り返すのを、優しくその背に手をまわして、セイがなだめるようにとんとんと叩いた。

「大丈夫ですよ。言ったじゃないですか。私は先生のお傍を離れませんって」
「何を言ってるんですか!こんなに長い間姿も見せなかったくせに!!」
「……仕方なかったんです。ずっと、先生のことを追いかけていたんですよ?」

優しい、優しい声が総司の心を、暗闇から救い出した。抱きしめていた腕を緩め、懐かしい、愛しい顔を両の手で包み込む。柔らかくて、いつも大福のようだと言っていた頬は少し引き締まったものの、ふんわりした雰囲気は変わりない。

「ずっと……ですか?」
「ええ。先生が戦場で怪我をされた時も、病を得られた後も、ずっとずっとそのお姿を見守って……何度も……何……度もお傍に……いたいと……思っ……」

途中から、あふれだした涙に、言葉が押し流されていく。ひたと総司を見つめながら、その目からは、かつての泣き虫のように涙があふれて零れ落ちた。

「泣き虫は……変わってないんですね」
「そうそう変われません!!」

頬を濡らす涙を、総司の手が優しく拭い去る。そして、今度はその頬を優しく胸に抱き寄せる。

「……貴女に会いたかったんですよ」

繰り返し、繰り返し。

言い聞かせるように囁く総司の声にセイが腕の中で頷く。

現実には、熱が高い日が多く、起きていられる時間も少なくて、食事も減ってきて。様子を見に訪れる松本の顔が険しくなるのと反対に、総司の顔つきは穏やかになっていく。

そして、もう何日も目が覚めていないような夢うつつの時間が続いている。

微かに、眠っている総司の口から、笑みがこぼれた。誰も部屋の中にはいないのに、しっとりと汗ばんだ額を、そっと冷たい手が何度も撫でるようにして熱が取り去られていく。

「……先生。私はここにいますよ」

「か……みや……ん」

「はい」

暗い部屋の中でうっすらと小柄で白い姿が浮かび上がる。幾度も幾度も、愛しい人へ小さな手を差しのべながら、優しくその身を癒していった。
– 続く –