男心と秋の空 前編
〜はじめの一言〜
女子より複雑?!
BGM:土屋アンナ HEY YOU!
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「神谷さ~ん?」
屯所内を探し回る総司の姿を見かけた藤堂は、いつもの姿ににこっと微笑んだ。
「ああして神谷を探してる総司を見ると、平和だなぁって思うなぁ」
一人、そう呟いて振り返ったその先に、障子の影に隠れた本人を見つける。後ろで聞こえていた総司の声が遠くなるのを確かめてから、こそこそと身を縮こませて隠れるセイを覗き込んだ。
「神谷。何隠れてるのさ?」
「うわっ、しーーっ!!藤堂先生、こっち」
セイが慌てて、藤堂を陰に引き込んだ。引き込まれた後、一緒に障子の陰にしゃがみこんだ藤堂に声をひそめたセイが小さな声で囁く。
「藤堂先生、私を見なかったことにして下さいね」
「なんで?総司が探してたじゃない。なんで隠れてるのさ?」
「だって、見つかったら困るんですよ」
「どういうこと?」
藤堂が聞き返すと、セイが困っている理由を話しだした。
確かに、今日はセイも総司も非番である。しかし、セイは副長付きの小姓として内勤になってしばらくたつ。そこに、非番の度に総司の甘味所への供をさせられるのでは、困るというのだ。
「なんで?今までだって一緒に出かけてたじゃん」
「そうですけど、今までは一番隊で動いていたじゃないですか!小姓になって、そりゃ動きはしますけど、稽古も動く量も全然ちがいますよ。なのに甘いものだけ同じだけ食べていたら太っちゃいます!!」
「そりゃ……、でも、神谷だったら少しくらい太ってもいいんじゃないの?もともと華奢なんだしさ」
「駄目ですよ~。ただでさえ稽古不足なのに、これで太ったら体が重くなって、ついていけなくなるじゃないですか!!」
必死のセイに、藤堂はなるほど、と頷いた。確かに、ほどほどであれば甘味所につきあおうと、セイもそんなに極端に太ることはない。だが、総司の付き合いとなると、あの量を食べる男の傍で人並みの量で抑えるのさえ一苦労である。
まして、食べないのかと勧められれば食べてしまう。
「それで総司から逃げてるんだ」
「はい……。その、誘ってくださるのはありがたいんですけど……」
困った顔で、もそもそと話すセイをみて藤堂はにこっと笑った。
「じゃあさ。屯所にいたらそのうち見つかっちゃうし、どうせなら俺と一緒にでかけようよ」
「えっ、藤堂先生とですか?」
「そ。総司じゃないから甘味所にはいかないけどさ、せっかくの非番なのに、こうして屯所のなかで逃げ回ってたらつまんないじゃん?」
「そりゃそうですけど……」
「決まり!じゃあ、いこう!」
藤堂はセイの手を掴んで、ぱっと立たせると、そのまま手を引いて屯所の外に向かった。
藤堂に手を引かれながら、総司以外で手をつないで歩くことなどほとんどないセイは、少しだけどきどきしながら後について歩く。
総司と歩くときは並んで歩くが、藤堂の場合はすこしだけ遅れて歩く様が女子連れで歩いているみたいだ。
「あの、藤堂先生、どちらにいかれるんですか?」
「ん~?えっとねぇ、気晴らしになるようなとこ?」
「どこですか、それ」
「どこかなぁ」
呑気に答える藤堂に、セイが笑いだした。
「それじゃあ、どこに向かってるんですか~」
笑いながら聞いたセイに、藤堂が振り返って歩みを遅くした。
「よかった。やっと笑ったね。いつもの神谷に戻った」
「えっ、そんなひどい顔してましたか?」
「してた、してた。土方さんかと思っちゃった」
今度は藤堂が笑いながら答える。土方の渋面に例えられて、セイがぷぅっと頬を膨らませた。
「藤堂先生!いくらなんでも副長と一緒にされるのはひどすぎます!」
「え~、だってホントに、土方さんみたいにこう、眉間に皺よってたよ?」
「そんなことありません!!」
そんな言い合いをしながら、いつの間にか藤堂とセイは朱雀野の森に来ていた。すっかり葉の色が変わって、色とりどりの木々が見事な色彩を見せている。
「うわ!す……ごい。なんだか、初めて見たわけでもないのに、やっぱり見るたびに驚いてしまいますね」
嬉しそうに眺めるセイをみて、藤堂が嬉しそうに繋いでいた手を離した。
「ほら、神谷。これ、栗だよ」
「あ、ほんとですね。すごい!これ、拾って帰って栗ご飯にしたら沖田先生、喜びそう」
大きな栗の木を指した藤堂に続いて、セイが栗の木の下に近寄る。散々逃げ回って、避けていたのに、結局こうしていても、総司が喜ぶことを思い浮かべている。
―― やっぱり神谷は総司が一番なんだなぁ
苦笑いを浮かべた藤堂が懐から手拭を出した。
「ほら」
「藤堂先生?」
「こんなにあるしさ。総司の分だけなんてケチなこと言わないで、みんなで食べられるくらい拾っていこうよ」
藤堂の提案に、セイが嬉しそうに頷いた。そして、二人は地面に落ちていた栗を拾い集めた。イガに包まれた栗を器用に拾いながら、二人はあれこれと話し続ける。
「でもさ、こうして毎回非番の度に総司から逃げ回ってるの?」
「いつもじゃないです。時々、掴まっちゃうこともあるので、そういう時はお供してしまうんですけど」
「そんなに太りたくないの?」
藤堂の問いかけにセイはこくん、となんとも言えない顔で頷いた。その顔を見ていた藤堂の方が薄らと赤くなった。
最近のセイは、今まで以上にどことなく女らしさが増していて、如心遷がそれほどまでにすすんでいるのかと、あちこちで口に出さないまでも皆が同情と惑う心を抱えていた。
今のセイの表情もとても男のものとは思えず、可愛らしい女子に見えて、思わず藤堂が赤くなってしまったのだ。
―― まずいなぁ。この前総司にあんなこと言っちゃったから、自分でも変な風になってきちゃったよ
そう思う反面、本当にセイが可愛いと思ってしまう。
「だって、私は背も低いですし、この姿ですよ?それで太ったら、子豚みたいになっちゃいますよ」
ぶつぶつとこぼすセイの言葉に、セイが太った姿を想像した藤堂が吹きだした。
「ぶぶっ、神谷じゃ子豚じゃなくて、子犬だよ~。丸々した子犬って感じ」
「藤堂先生~!!」
「あははは」
セイが悔しさのあまり栗の木に蹴りを入れた。
すると、ばさばさっと頭の上から、まだ木にしがみついていた栗が落ちてくる。
「わわっ、危ないじゃん!!」
「ふふん!人を子犬なんて言うからですよ」
そう言いながら、さらに増えた栗を拾い続けた。結局、藤堂の手拭だけでは足りず、セイの持っていた手拭と、二人の袂に入るだけ栗を詰め込んで屯所に戻った。
– 続く –
るーさん こちらこそ、年単位のお願いをかなえてくださってありがとうございます。 …
わーい!喜んで頂いてめちゃくちゃ嬉しいです!いつもありがとうございます! 褒めら…
おはようございます。 コメントありがとうございます。こちらこそ、今、風にはまって…
風の新作うれしかったので、こちらにもお邪魔します^^ 風光るにハマってしまって1…
そりゃーお返事しますよ!もちろんじゃないですか。 そんなこんなで久々にちょいちょ…