男心と秋の空 後編

〜はじめの一言〜
女子より複雑?!最後は食い気で終わってしまいました。

BGM:土屋アンナ HEY YOU!
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裏門から入って、まっすぐに賄い所にむかった二人は、小者に栗の始末を頼むと、連れ立って隊士棟へ向かった。
その途中で、斎藤が二人を見かけて声をかけた。

「珍しい二人連れだな」
「斎藤先生!藤堂先生と栗をたくさん拾ってきたんです」
「ほぉ。それはいい。だが……、いいのか?神谷」

何か気がかりがあるようで、斎藤がセイを見た。藤堂とセイが顔を見合わせると、斎藤が続ける。

「大階段の方に、なんというか拗ねた男が一人いたようだが。面倒なことになってないか?」
「拗ねた男?斎藤さん、それってまさか」
「そのまさかだろうな。神谷に振られて不貞腐れているようだぞ」

藤堂があきれた顔で斎藤を見た。斎藤の言い方からすると、その拗ね方も尋常じゃないようだ。困った顔でセイが斎藤と藤堂の顔を見比べると、二人もどうにもしようがないという顔で、肩をすくめた。

「まあ、あれだな。夕餉まで顔を合わせないようにしていたらどうだ?飯を食えば気も収まるだろう」
「そうだよ、神谷。このまま土方さんの所に行って大人しくしてればいいよ」

斎藤の提案に藤堂も頷いた。その言葉に従って、セイは裏から隊士棟へ入り、幹部棟へと急いで向かった。その後ろ姿を見ながら、斎藤と藤堂はため息をついた。

「可愛がられるのも大変だよねぇ」
「仕方ないだろう。それを嫌がってるわけでもないだろうしな」
「そういうけどさ。俺も神谷のことは可愛がってるよ?斎藤だってそうだろう?」

それには答えずに、斎藤は自らも稽古着を着替えるために隊士棟へ向かう。
藤堂はわざと大階段の方へ向かった。 大階段の途中で、一人寂しく座り込んでいた総司の前に立つ。

「藤堂さん」

目の前に立った藤堂に顔を上げた総司の眉間には、はっきりと皺が寄っていた。

―― うわ、総司ってばわかりやすい

それをみた藤堂は、今日ばかりは総司に一手先んじたことが面白くてわざと知らぬふりで話しかけた。

「どしたのさ?総司」
「神谷さんを探していたんです。甘味所に一緒に行こうと思ったのに、もう日が暮れちゃいましたけど…」
「そんなこと言ったって別に約束していたわけでもないんだろ?神谷だって用事もあるだろうしさ」
「約束なんかしてませんけど……、私は神谷さんと行きたかったんですもん」

ますます総司の渋面が深くなる。本気で不貞腐れている総司に、藤堂は呆れてしまった。階段に座っている総司の前にしゃがみこんだ藤堂は膝を抱えて総司の顔を覗き込む。

「総司ってば、本当に神谷がいないと捨てられた子供みたいだね」
「そんなことないですよ。ただ……、一緒に出かけたかっただけなんです」
「そうかもしれないけど、神谷だって非番の日にやりたいことだってあるだろうし、しょうがないじゃん」
「しょうがなくないですよ。だって……、神谷さんてばいつも非番っていっても全然休まないんですもん」

あっと藤堂は息をのんだ。確かに、セイの休みといっても総司が強引に連れ出した時以外は、休みといっても洗濯に繕い物や、文の使い、こまごました雑用から動き回っている。
あながち、総司の我儘も、ただのわがままではないらしい。

―― それにしたって、神谷がそうだってことを知ってるって総司もどうなんだよ

藤堂はそのまま立ちあがって、総司の肩をたたいた後隊士棟へ向かった。
なぜか、分かり合った二人の邪魔をしたようで、なんとなく後味が悪い気がする。藤堂は夕餉までぼんやりとしたまま、廊下で柱に寄りかかって過ごした。

夕餉の時間になると、副長室からセイが出てきた。藤堂はセイを待って一緒に賄い所に向かった。そこに総司が現れた。

「神谷さん、どこに行っていたんですか?」

不機嫌そうな総司に、セイは慌てて藤堂の後ろに隠れた。逃げられた揚句に、空きっ腹を抱えてなおさら機嫌の悪い所で出くわしてしまったのだ。

「神谷だって、たまには気晴らしする日だってあるじゃん」

どこまでも絡む姿に、藤堂も突っかかるような言い方になってしまう。せっかくセイと一日楽しく過ごせて気分よく帰ってきたというのに、それからはこんな嫌な気分を引きずる羽目になったのは誰のせいだと言いたくなる。

「藤堂さんはよく神谷さんのことを分かってるみたいですね」
「ちょっと待ちなよ。そんなこといってないじゃん」
「もしかして藤堂さん、神谷さんと一緒だったんですか?」

急に矛先が変わって、今度は藤堂を睨みつけるように総司が噛みついた。その様子に、さすがにセイが背後からでて間に入った。

「沖田先生、藤堂先生はたまには気晴らしにと連れ出してくださっただけなんです」
「私と甘味所に行くのは気晴らしにならないっていうんですか?」
「そうじゃなくて、そうじゃないんですけど……」

せっかく総司を喜ばせようと栗を拾ってきたのに。

セイは悲しくなって、頭を下げると急いで賄い所に駆け込んだ。後を追いかけようとして総司がそちらに行くのを、藤堂が止めた。

「神谷さん?!」
「総司!」

いつもにこやかな顔の藤堂が、むっとした顔で総司の前に立った。

「今日!栗ご飯だから!心して食べるように!!」

びしっと総司に向かって指差した藤堂が憤慨しながら自分の膳を受け取りに賄い所に入っていく。てっきり、あれこれといわれるのかと思っていたところに、栗ご飯、と言われた総司は豆鉄砲を食らったような顔で立ったまま叫んだ。

「なんなんですよう!!」

 

 

土方の夕餉の給仕を終えて、セイも賄い所の片隅で自分の分の夕飯を食べた。セイと藤堂がたくさん拾ってきただけに、今日の飯に入れなかった分は、きんとんにすることになったらしい。
賄いの小者と楽しそうに話をしながら、セイは総司が喜んだろうかと、頭の片隅で思っていた。

「美味しかったです。御馳走様でした」
「いえいえ。神谷さんこそせっかくの非番にありがとうございました」

小者達から礼を言われて、セイは恐縮しながら賄い所を出た。
夕餉が終わればセイも仕事は終わりである。幹部棟の廊下の片隅でセイは、ぼけっと月を眺めながら座っていた。

「神谷」
「藤堂先生。さっきはすみませんでした」
「なんで神谷が謝るのさ」

セイの隣にきて、座り込んだ藤堂はセイと同じように足を外にだしてゆらゆらと揺すった。

「気にしなくていいんだよ。別に神谷のせいじゃないから」
「いえ、私が変に隠れたりしていたからいけないんです」

どこかしょんぼりと、落ち込んでいるらしいセイに、藤堂がとん、と肩を寄せた。

「神谷ってば……。本当に総司が一番なんだねぇ」
「えぇ?なんですか急に。どうしてそうなるんですか?」
「だってさ、太ったらついていけなくなるのも総司で、美味しいもの食べさせたいのも総司なんでしょ?」

どこか羨ましそうに藤堂は今日一日を思い出した。たまたま今日はセイを独占したつもりになっていたけれど、結局そんなことはなかったのかもしれない。

隣で、セイがとん、と頭を藤堂の肩に寄せた。

「そんなことないです。今日、藤堂先生と一緒に栗拾いできて、とっても楽しかったんです」

しみじみとセイが言うのを聞いて、藤堂は嬉しそうににこっと笑った。その笑顔に、セイもつられて微笑んだ。

「俺だったらいつでも付き合うからさ。また行こうよ、二人でさ」
「はい!また是非」

セイの笑顔を見て満足した藤堂は、セイの頭を斎藤がするようにぽんぽんと撫でてから立ち上がると、隊士棟へ戻って行った。戻る途中で、様子をうかがっていたらしい総司とぶつかりそうになって、にやっと笑った。
バツが悪そうな顔で立っている総司に、びしっと指を立てると、セイがいる方を指してすたすたと隊部屋に戻って行った。

その後姿を見送ると、総司はセイの元へ向かった。隊士棟の方を向いていただけに、セイは総司が自分の方へ向かってくるのが見えた。

決まりの悪そうな顔でセイの隣に座ると、総司は黙って下を向いてしまった。セイは、なにも言わずにその姿を見て、先ほど藤堂にしたように、とん、と肩を寄せた。
はっとして総司が顔を上げる。

「すみませんでした」
「えっ」
「今日、探してくださっていたのに逃げてしまって」
「やっぱりそうなんですね。私と出掛けるのは嫌になったんですね」

しょんぼりとうな垂れてしまった総司に、セイが慌てた。

「ち、違いますよ。誘ってくださるのはとても嬉しいんですけど、このところ稽古もあまり出来ていないので甘いものを食べてしまうと、太ってしまうから……」
「はぁ?!そんな理由だったんですか?!私はてっきり、神谷さんに嫌われたんだと思って……。はは、なあんだ……」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!今日だって、藤堂先生が連れ出してくださったんですけど、すごい栗の木があって、沖田先生が喜ぶかなと思って、沢山拾ってきたのに」
「あれ、今日のご飯ってそれじゃあ」
「はい、私と藤堂先生が拾ってきたんです」

にこっとセイが笑いかけると、総司がはにかんだ様に顔を落としながら、セイの肩を引き寄せた。

「ありがとう。ごめんなさい。勝手に八つ当たりして。次は私と一緒に栗拾いにいってくれますか?」
「あ、はい。もちろんです。よかった。栗ごはん美味しかったんですね!」

総司の想いを知らずに、にこにこというセイに総司が笑いだした。

「確かに、おいしかったですよ」

―― 神谷さんの気持ちが詰まってましたからね

明日は栗きんとんですよ、というセイの隣で、総司は今日一日の帳尻が合わせられた気がして、幸せそうに微笑んだ。
そんな藤堂と総司の想いを知らずに、セイは呑気に月を見見上げた。

「沖田先生、なんだかあの黄色い月が栗きんとんの栗みたいですねぇ」

 

 

 

– 終わり –