クリスマス・セカンド 2

〜はじめの一言〜
寝ないといけないんだけど・・・
BGM:嵐 One love
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ぐっしょりとまではいかないが、そこそこ吸い込むほどかけまわされたスポンジケーキのなれの果てに理子が驚いてみていると、酒の香りをさせて、しっとりとなった生地をゴムべらでさっと混ぜ合わせる。そこに固めに泡立てた生クリームを混ぜ込んだ。

「よし。これで少し冷蔵庫で冷やしておきましょう」
「……先生。どういう」
「別に作り方とかあるわけじゃないんですけどね。こうしたらおいしいかなぁと思っただけですよ」

むすっとした理子がエプロンを外してリビングに向かうと、その後に続いて総司が宥める様に理子の頭に手を置いた。大分、物が増えたリビングには可愛らしい小さなツリーが飾られている。
二人掛けのソファにどさっと腰を下ろした理子がクッションを抱きしめて顔を半分埋めてしまった。

「理子?そんな顔しないでください。邪魔したのが悪かったですか?」
「……そんなことはないです。……けど」
「けど?」
「だって……」

その拗ねた姿がセイの拗ね方にそっくりで、笑みをかみ殺した総司が一度腰を下ろしたソファから立ち上がった。キッチンに戻ると、コーヒーを入れ始め る。そういえば着替えもまだ半端だったと思い出した総司は、こぽこぽとコーヒーメーカーが音をさせている間に、置きっぱなしにしていたコートとジャケット を片付けに行く。

ラフな格好に着替えた総司が戻ってくると、カップにコーヒーを注ぎ、たっぷりと牛乳を混ぜて温めのカフェオレを作る。

「はい、どうぞ」

理子に向かって一つを差し出すと、自分もカップを手にソファに腰を下ろした。拗ねたままカップを受け取った理子は、すぐそばのサイドテーブルにカップを置いた。

「そんなに拗ねないで。機嫌を直して下さいよ」
「……拗ねてません」

拗ねていないと言い張る理子に、困ったなぁと呟いた総司は、再び立ち上がると、薄暗くなってきた部屋のカーテンを閉めて回った。リビングの電気をつけ直して、ついでに自分の部屋から小さな包みをとってくる。

「もう、こういうものは嬉しくないかもしれませんけど」

婚約指輪も贈ってあり、ピアスも機会があれば理子には買っている。そんな理子には今更かと思いはした。それでも、街でにぎわっている店を見て歩いているうちに結局、迷いに迷った挙句、気に入ったものにしてしまったのだ。

「開けてみてください。クリスマスディナーの前に渡すのはどうかと思いますけどね」
「え……。何も買わずにって約束したのに……」

互いに贈り物は止めようと話をしていたにもかかわらず、ジュエリーらしい小さな包みに理子が複雑な顔を見せた。いいから開けて、という総司に理子は可愛らしいラッピングを開けた。

「!」

シンプルなリングだが、等間隔にカラーストーンが埋まっている。

「その、ありきたりかなとは思ったんですが、来年のために今買っておいてもいいかなと思ったんです」

2年後という約束は今も続いていて、今年も総司は検診に通っていた。1年目を無事にクリアし、今年も問題なくこなすことができた。来年になれば2年後の約束がやってくる。

「丸2年、ちゃんと終わって、3年目になる時には二つ必要ですけどね。今はあなたの分を先に」

結婚指輪のつもりなのだという総司にまじまじと指輪を見つめた理子が指先で指輪を撫でた。

「……先生。ずるい」
「はい?」
「先にこんなすごいもの……」

それがどのくらいするのか知らない理子ではない。おおよそのあたりはつく。手にしていたそれを総司に持っていて、と預けると、自分の部屋から何かの包みを持ってくる。

ソファに腰を下ろすと、総司に向かってはい、と差し出した。

「もっと違うものにすればよかった」
「私にくれるんですか?嬉しいな。ちょっとまってくださいね」

リングと包みを理子の向こう側のテーブルに置くと、理子を抱く様にして包みを受け取った。
きゅっと結わえられたリボンを解いて、袋の口を広げると、中からラッピングされた箱が出て来る。袋を置いて、箱をあけると、おや、と総司の手が止まった。

「これは……。ヒップバック?シザーバックかな?」
「そのどっちとでも……。ちょうど中間ぐらいのサイズなんですけど、先生。プライベートだとバックを持ちたがらないし、でもお財布もジャケットを着ているときじゃないと、邪魔にされてると思ったので。でも、でも、本当はちょっと迷ったんです」
「というと?」

立ち上がって、早速腰にベルトを回してみながら一生懸命わけを話そうとする理子に顔を向ける。こんな今時の物が似合うかなと思いながら腰に回した感覚にあれ、っと思う。

「……これ、腰にこういうものをつけるとなんだか不思議な気がしますね」
「……ですよね」

まるで腰に刀を下げているような。

便利で、使い勝手も良いバックだが、セイも同じようなバックをためしに腰につけて見たときに違和感を感じたのだ。不思議というより、違和感という方が正しい。
そこにあるはずで、ないはずのもの。

理子がそう感じるならもしかすると総司も同じかもしれない、と思ったのだ。

「面白いですね。二人とも同じことを思うなんて、今でもこんなに気が合うっていう証明じゃないですか?」

呆気にとられた理子がぽかんと口を開けて総司を見上げた。腰につけてどうです?と笑った総司が首を傾けた。

「……総司さん」
「はい?似合いません?」
「いえ、そんなことはないんですけど」

―― 先生……

懐かしい人に出会ったような気がして、胸が苦しくなる。

「どうしたんですよう。そんな泣きそうな顔をして」

そっと頬を撫でた総司は、ソファに腰を下ろして理子を引き寄せた。肩越しに先ほどの指輪が目に入って、手を伸ばす。

「ためしに、はめてみません?その、サイズが合わなかったら替えてもらってきますから」
「そんなことできるんですか?」
「わかりませんけど。お願いしてみる価値はあるかなぁ」

軽い口調で理子の左手をとると、薬指に指輪をはめて専用の工具できちんと締める。途中で加減しながら調整すると白い指にきらりと指輪とカラーストーンが光る。

「どう?」
「大丈夫です。ちょうどいいです」
「よかった。じゃあちょっとこっち」

腰のベルトを外すと総司が理子を抱き上げた。急に抱え上げられた理子が慌てて総司の肩に掴まると、にこっと嬉しそうに総司が笑った。

「じゃあ、クリスマスディナーの前にメインをいただこうかな」
「え?や、あの、ちょっ」
「いいからいいから」
「や、あの!総司さん?!」

一緒に暮らしていて今更なにをと言われそうだが、やっと表が薄暗くなり始めたくらいの時間に、誘われて頷けるわけがない。降りようとした理子をそのままベッドルームに連れ込んだ総司は、ベッドサイドの小さなスノーマンの灯りをつけた。

「ね?甘いお菓子を仕上げるのは得意なんですよ。だからたくさん可愛がっておいしくいただきますね」
「総司さ……んっ!」

大好きな甘いお菓子を食べる様に理子に口づけた総司が弱い抵抗を溶かしていった。

 

 

– 終わり –