夢のあとさき

〜はじめのお詫び〜
口直しに現代のラブラブをどうぞ~
BGM:平井堅 アイシテル
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –

腕の中で眠る人が、うなされているのを感じて、深い眠りの中から意識が浮かび上がる。

「……っ!!」

がばっと起き上がった体。
呼吸を忘れた肺を掴むように、胸元に握り締めた拳をあてて何も見ないまま見開いた目から涙が零れ落ちる。

心臓が痛む。

「……理子?」
「う……っ」

まだ夢の続きを見ている人に総司はそっと腕を回した。
泣きながら震える体は、開いた片方の掌に何を見ているのかわからないが、まだ息の仕方を思い出しきれずに握りしめた拳が震えた。

「怖い夢でも見ました……?」
「あ……」

ようやく夢から現実に戻ってきた体から力が抜けてぺたりとベッドの上に座り込む。理子の目が、肘をついて体を起こした総司を見た。

「おいで」

総司の声に呼ばれて、理子がその胸に縋りついた。強く、総司の服を掴んでその存在を確かめるように総司の胸元から小さく小さく呼ぶ声がする。

「……沖田先生っ」

ふ、と総司は理子の見ていた夢の中身を思ってその背を優しく撫ぜた。

「理子?戻ってきてくださいな。私はここにいるんですから」

目が覚めた瞬間の苦しさと、その後止まらなくなった涙にけほっと咳き込む。理子から離れて枕元に置いていた水に手を伸ばそうとして、強く縋りつく手に止められた。

「……離れないでっ」

仕方なく、半身を起して両の腕で理子を抱き締めた。

「そんなに怖い夢をみたんですか?」

ぎゅっと縋りついた胸元で、理子が首を横に振った。ようやく震えが収まってくると、強く掴んでいた服から手が離れて総司の背に手が回った。

「怖くて……」
「何がそんなに怖いんです?」

総司の問いかけに答えずに、理子は再び首を振った。仕方ないなぁ、と呟いて総司は理子の頬に口付けた。

「大丈夫ですよ。なにも怖いことなんかありませんから」

―― ずっと一緒にいるっていったでしょう?

片腕をのばしてようやく水を手に取ると、こくりと口に含んで、理子の頬をすくい上げるように両手で包みこむ。涙の残る目元を拭いながら、口移しに水を飲ませた。

再び理子を抱きよせてそのまま横になる。あやす様に腕をまわして抱き寄せていると、胸の上でようやく理子が顔を上げた。

「……起して、ごめんなさい」
「気にしないで。怖い夢を見た時に一人だったらもっと嫌でしょう?」
「意地悪い……。言わないでくれればいいのに」
「だって、貴女が私じゃない名前呼ぶんですもん」

くすっと笑われて理子は怒りもせずに、目を伏せた。

いくらその腕にあっても、夢は残酷に繰り返す。何度でも。記憶は消えることなく。

その記憶を消すことなどできないことも、起こった出来事をなかったことにすることもできはしない。
咳き込む姿に伸ばした手、闇に突き落とされたように突き放された腕。

夢の中で、同じ腕から突き放されてその怖さに飛び起きた。息さえできないほど恐ろしくて、縋りついたその胸は確かな鼓動を伝えて、その腕は温かく理子を包み込んでいる。

いくら後悔しても仕方がないなら総司にできることは、夢から覚めた時にいつもそばにいることくらいだ。
理子は、総司の胸から感じる鼓動にふう、と息をつく。

「じゃあ、私もセイって呼びましょうか……?」
「本当はどっちでもいい……。私は、私だから」
「我儘を言ってくれない貴女なんてらしくないですよ。ね、今日もお仕事でしたっけ」

胸の上で頷いた理子に総司はゆっくりと話しかけた。

「ねえ。理子はなんで音楽に進んだんですか?」

急に話題を変えられた理子は体を動かして総司の肩の上に頭を乗せた。

「好きだったんですよね。歌うことはずっと。思い出してからは、歌っていたら届くような気がして……」
「ちゃんと、届きましたよ。呼ぶ声が」

理子に頬を擦り寄せながら総司が答えた。この声が聞こえる限り、自分は何度でもこの腕に抱き締める。

「もう少し、眠りますか?」
「いえ、もう起きます」
「じゃあ、私が朝食でもつくりましょうか」
「駄目。起してしまったのにそんなのさせられません」

名残り惜しそうに腕から起き上がると、理子は着替えをとりに部屋に向かった。
合わせて起き上がった総司がカーテンを開ける。

―― 朝日だけは変わらないか

もっとも、あの頃の方が早起きだった。こんなに濁った空気でもなく、骨まで沁みるような冷たい空気と。
部屋に入り込む光があっという間に部屋の空気を暖めていく。

髪をかきあげると、何度でも繰り返す夢を打ち消すくらい何度でも。

迎えよう。この眩しい太陽を。

 

 

– 終 –