僕らの未来 11

〜はじめの一言〜
先生は若い時遊んでましたからねぇ。その分、理子を可愛がってあげられるんだからかわいがりなさいよ。もーっとね。
BGM:嵐 One love
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「ん~……」
「どれだけ飲んだんですか、もう」

ふらふらとカウンターに手をついて、水を用意した理子の隣で頭を押さえている。
呆れながらも珍しい姿に理子は苦笑いを浮かべた。総司がここまで酔っぱらった姿を見るのは初めてかもしれない。酔っぱらったという話は聞いたことがあるが、実際にその場にいたことはなかったのだ。

「途中まで……。2本目までは覚えてるんですけどねぇ。あー……」

とにかく水を飲むしかないのは自覚があって、コップ一杯の水を飲んだ後、顔を洗うという総司が理子の手を掴んだままふらふらと歩き出した。

仕方ないな、と一緒について行った理子は、洗面所に入ったところでぎゅっと総司に抱きしめられた。

「総司さん?先生?どうしたの?具合悪い?」

ぎゅっと抱きしめた理子も、久しぶりに飲んだ翌日だけにあまりしゃっきりしているとは言えない。ぼんやりとされるがままに抱きしめられていると、ぽんぽん、と総司がその背中を叩いた。

「総司さーん、どうしたの」
「理子……」
「はぁい」

抱きしめていた総司が、理子の首筋にかぷ、と軽く噛みついて、我に返った理子が慌てて総司の体を押しのけようとした。

「ちょ、総司さんっ、なにしてるんですかっ」
「んー……。なんでしょうね。マーキング?」
「ま、マーキングって、犬じゃないんですからっ」

片側に噛みついていた総司がむくっと頭を上げると反対側にもかぷ、と噛みついた。

「総司さんっ!馬鹿なことしないでっ」
「馬鹿なことじゃないですよ……。はー……」
「お酒くさいですってばっ」

ぎゅーっと張り付いて離れない総司にじたばたしていた理子が、ばしばしと総司の肩を叩いて、ようやくむくっと総司が体を起こした。

「すいません……。つい」
「もう……。先生、酔いすぎです」
「違う……」
「え?」

珍しく機嫌が悪そうな総司の顔を覗き込んだ理子は、飲みすぎの不快感で機嫌が悪いのかと思っていたが、総司は違った。

「なんで……」
「はい?」
「……無理しなくていいですよ。あなただって飲んでいたんだから」
「え、でも、皆起きたら朝ごはん食べるでしょ?」

妙に苛立った総司が、そうじゃなくて、と呟いた。

仲間内で酔っぱらった次の朝なんて、無理して起きなくったって構わない。男が4人もごろごろ転がっているところに気を使う必要なんかなくて、放っておけばいいのだ。
自分だけなら起きてくるのも構わないが、これだけ使える手があるのに、無理して起きてくることなどない。

「ベッドに戻って」
「えぇ?なんでですか。そんなことできるわけないでしょ?」
「なんで」
「何でって、総司さん、駄々っ子みたいですよ?」

素直に聞かない理子に苛立った総司は、ぽいっと放り出すように理子から離れると、ばしゃっといつもより乱暴に、水が跳ねるのも構わずに顔を洗った。髪も濡れてしまったが、困惑した顔で理子がタオルを差し出すと、無造作に顔を拭った。

「具合が悪いなら、もう少しお休み、んっ!!」

うまく伝えられない苛立ちのまま、振り返った総司は、少しもわかっていない理子に苛立って、まだ休んでいるように言いかけた理子の口を塞いだ。

「んんんっ!」

噛みつくように口づけて、強引に舌をねじ込んで口中を荒らしまわる。もうなにをどうすれば理子を落とせるかわかっているから、舌の裏側をなぞって、その先の快感を呼び起す。

逃げようとしていた理子の手から力が抜けて、がくん、と膝が崩れそうになる。

「は……。ふ……」

総司がようやく解放すると、ずるっと理子がその場に崩れ落ちた。
満足げに足元にしゃがみこんだ理子を見下ろした総司が、ぼそりと口を開く。

「そのままベッドに戻ればいいのに」
「なに言ってるんですか。もう、こんな……」
「どうせ朝ごはんなんか食べられませんよ、皆」

ばさっとタオルを放り出した総司は、すたすたとキッチンへと戻っていった。
残された理子は、はぁ、とため息をついて、壁に手を突きながら立ち上がる。どうして総司が機嫌が悪いのかわからないが、酔っぱらった後の翌日だけにそれが酒のせいなのかわからない。

「……~なんなんですか。もう」

八つ当たりなのかなんなのか、よくわからないから余計にたちが悪い。

それでも総司のこんな我儘のような態度になんだかおかしくなってくる。子供のような悪戯好きだった総司と、時に冷酷なくらい冷めきった態度を示しながら、それでも懐に入れた人のために、どこかで優しい。

―― 先生も、みんなといると先生に少しだけ戻るんですか……?

愛おしさと懐かしさ半分で理子は洗面台の鏡に映った自分の顔をみる。
少し頬が赤くて、あの頃のセイよりもだいぶ大人で。

総司の隣に立っている。

「私……?」

幸せ?
贅沢?
不満?
満足?

何を言おうとしたのか、自分でもわからないまま、キッチンを通り越して部屋の方が起き出した気がした。
顔を洗って、総司が飛ばした水滴もふき取ると、洗面台の上をきれいに整える。

心を掠めた何かを置いて、理子はリビングへと戻った。

 

 

– 続く