僕らの未来 12

〜はじめの一言〜
二日酔いってどんなものですか?おいしいものですか?たのしいですか。
BGM:嵐 One love
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ごろごろとそのまま眠りこけていた原田や藤堂、歳也を叩き起こしながら全開で窓を開けた。
一気に部屋の中に淀んでいた空気がさぁっと流れていく。

「さーむーいっ!総司、冷たーい、さーむーい!毛布ぐらい掛けてー!」

一番年下の藤堂が甘えた声を上げると、無言で総司がその額のあたりをべしっと掌で叩いた。

「藤堂さん、いつまでもゲスト扱いされると思ったら間違いですよ。どっちかって言うと、藤堂さんは今回は、ホスト側でしょう?」
「ひどーいー。俺が手伝ったのは神谷の方で、総司の手伝いじゃないよー」
「いいからさっさと目を覚ましてください。ほらっ、何か食べるなら支度を手伝って!」

原田と歳也には初めから期待はしていないが、藤堂はキッチン担当としてこき使う気満々である。
ぶつぶつと文句を言いながらも大きく伸びをした藤堂が、大あくびをしながら立ち上がった。顔くらい洗わせてよとキッチンを通り過ぎたところで理子とすれ違う。

「藤堂さん、タオル出しておいたからそれ、使って?」
「ありがとー。もー、総司ってば冷たいんだよー」

ふらふらと壁にもたれるようにしてぼやいた藤堂は、よよ、と理子に向かって泣き真似をして見せる。ごめん、と密かに手を合わせて、藤堂を洗面所に送り出すと自分はキッチンに立った。

粥と味噌汁の支度はもうできていた。
それだけでは淋しいかなと、味の濃い塩鮭を人数分焼き始める。

温め直している間に、鮭の油が焦げるいい匂いが漂う。まだどんよりしていた原田と歳也が目を覚ましたのを見計らって、総司が窓を閉めた。

「……総司。水」
「俺も」

ぼそぼそと呟いた二人に理子がすぐに水を汲んで運んでくると、一息に二人とも水を飲み干す。顔を洗って戻ってきた藤堂が代わりに、ミネラルウォーターのペットボトルを運んだ。

「もうさぁ。皆若くないよねぇ」

その一言で、今度は歳也からばしっと後頭部を殴られた藤堂は、大げさにソファに転がった。

「いったー。歳也さん、ひどい!この中じゃ、一番年長者のくせに―!若さに嫉妬しないでよー」
「お前、どの口がそんなこというんだ?え?」

二人のじゃれ合いに発展したところを、苦笑いを浮かべて理子が割って入った。

「藤堂さん、ほら、朝ご飯手伝って?」
「わーん、神谷―」

ふざけた口調でそう言うと、テーブルの方へと、朝食の支度を運んでくる。
午前と言っても、もう10時も近くてこんな時間の朝食だが、休みの日ならではのだらけた空気が広がった。

「ひどい顔……。そんなに飲んだんですか?」
「いえ、皆、年なだけですよ」

むっつりとそう呟いた総司に歳也が唐突に笑い出した。

「拗ねてるだけだろ。お前」
「拗ねてる?総司さんが?」

驚いて振り返った理子に歳也がちょいちょい、と総司を指差す。

「こいつ、お前さんに拗ねてるんだよ」
「私?ですか?」
「そ。お前なぁ。もうちょっと素直になれよ」
「私が?素直じゃないって?」

馬鹿な女だと思う。どこかにやはり、素直になりきれない神谷理子という女であり、セイという強い女の影が見え隠れしていた。
そう言えば、セイもそうだったなと思う。

まじめすぎて、武家の女としてきちんと育っていなかったことを随分悔いていた気がする。武士として傍にいられたことを喜びながら正反対の女ではなかったことを悔いる。

「贅沢なんだよなぁ。だが、それもお前だからな」

ぷい、と背を向けたままだった総司がつまらなそうにベランダに出ていく。

どうしたのかよくわからなくて総司と歳也の顔を見比べていると、大あくびをした原田がソファの上で大きく伸びた。

「お前さん、たまには総司に甘えてやれよ」
「私、甘えてませんか?」
「甘えてないねぇ。神谷はもうちょっと素直に総司に甘えてたけどなぁ」

がしゃがしゃとキッチンで支度をしていた藤堂がひょい、と顔を覗かせた。

「そんな可哀そうなこと言わずにさ、まずご飯食べようよ。おいしいよー。これ。ね、神谷。運んで」

どこか理子を責めるような成り行きになりかけたところで藤堂が割って入る。あの苦しいころの理子も生まれ変わったように幸せになった理子もみてきたのだ。

「なんかいいじゃん?こういうやり取りできるのも。俺がうまい朝飯作ってたからだけど~」
「……私、ちゃんと作ってたのに」
「あ。ごめん、神谷」

ぼんやりしながらもきちんと言うべきことは言う。

しょんぼりした顔で藤堂を見上げた理子を、なでなでと頭を撫でていると、勢いよくベランダから戻ってきた総司が理子を羽交い絞めするように背後から引き寄せた。

「ちょっ!!」
「おさわり禁止!藤堂さ~ん!!」

わかりやすく露骨に嫌そうな顔をした総司に今度は藤堂の方が盛大にその顔を崩して見せた。可愛らしい系の顔だけにまだまだ年よりも若く見える顔が見る間に崩れて泣きべそをかく。

「ひどぉい!!総司ったら俺が、俺がぁぁ」

ぽこん。

テーブルに運んだ時に登場した可愛らしいお盆をテーブルの上から取り上げた原田が、それで藤堂の頭を叩いた。ひどくコミカルな音がして、まるでだるまさんが転んだ、の状態で全員が一時停止する。

「藤堂。お前、無駄にうるさい。総司も、今更そんな真似するならちゃんと神谷を緩めてやれ。とにかく飯。話はそれから。俺は顔を洗う。以上」

手にしていたお盆を最後に理子に渡すと、すたすたと洗面所へと歩いていく。

残った面々が、あんな奴だったろうか、と顔を見合わせた。一番最初に、理子が呟く。

「永倉先生みたい」
「そう!そうだよね。俺もそう思った」

こくこく、と頷いた理子は、総司の手をぴしゃりと叩いて外すと、テーブルの上を整えて、全員分のお茶を入れた。

 

 

– 続く –