僕らの未来 7

〜はじめの一言〜
藤堂さんがすきだ。と、唐突に思ってしまった。
BGM:嵐 One love
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時間よりも早く、近藤と山南が来て、理子と藤堂が気合を入れて腕を振るった料理を食べて、飲んで、久々の再会を楽しんだ後、なかなか来ない沖田を残念がりながら二人そろって9時前には帰っていった。

「あの二人らしくないよねぇ。早いよ、帰るのが」

下げた食器類と理子と並んで片付けてから、飲みの二次会が始まる。午後も早い時間に集まった面々は、だらだらと酒を飲みながら近藤と山南の到着を待って、夕刻から晩餐らしい晩餐をとって、それから一休みをとったところだ。

「なんか、山南さんのおうちにも近藤さんは呼ばれてるみたいですよ」
「え?そうなの?なんだよ、ダブルブッキングはないでしょー。俺と神谷のめちゃくちゃうまいディナーだってのに」
「仕方ありませんよ。山南さんちでは可愛いお子さんたちが待ってるし、迷って両方来られるように調整してくださったんです」
「あ……、つまり白髭?」

藤堂が洗った食器を片っ端から拭き上げている手を止めて、理子に向かって、顎を撫でる仕草をして見せる。笑いながら頷いた理子を見て、それなら仕方がないと思う。

子供の夢を壊すには忍びないクリスマスである。

一通り、片づけを済ませると、今度は大人たちの酒の肴がメインになる。軽くつまんだり口に運べるものを並べて、テーブルに運ぶ。

「お疲れ様です。藤堂さん、すみません。すっかり手伝って戴いて」
「いいのいいの。今日は神谷のために出張、藤堂バーだから。大体そんなこと言ってるけど、総司、実は妬いてるんじゃないの?俺の家で俺の神谷さんの隣に立ちやがって~って」
「いえ、一年に一回くらいは藤堂さんにも夢を見せてあげるのはいいことですよね?」

ぐわ、ムカつく~!と叫んでいる藤堂にがっはっは、と笑った原田がビールのグラスを差し出した。

「お前、旦那になった総司にかなうわけねーだろー。諦めて飲め!」
「おう!飲む!」

呆れた顔をしていた理子と笑みを交わした総司が、隣に呼んだ。

理子が皆を迎えるのをどれだけ楽しみに支度をしていたかわかっている。原田が泊まっていくのは日本での仮の宿だとしても、とても喜んでいたし、クリスマス にしてもそうだ。まるで、子供のように楽しみにしていたから、その支度を思い通りに進めるために藤堂が手伝ったとしても、少しも嫌ではなかった。

「お疲れ様。疲れたでしょう」
「全然。だって、ほとんどは手をかけて仕込んであったものだから、かえって昨日までの方がばたばたしてましたもん。それより、沖田さんが遅いですよね。一人分、ちゃんととってあるんだけど」

寂しそうな顔をした理子の肩に手を置く。

「さっき、メールがありましたよ。ようやく仕事にケリがついたからもう少しで来れるそうです。藤堂さんもですけど、今夜は泊まっていってもらいましょうよ」
「ほんとに?いいんですか?」
「あはは、男ばっかり泊めて喜ぶなんておかしいですよ?」

男ばかりと言っても、遥かの場所にいた時も、男ばかりだった。今では、過去を懐かしむこともだいぶ減ったが、それでも傍にいると思えば心が落ち着くのは間違いない。

「私、部屋の用意とか」

立ち上がりかけた理子の手を掴んで総司が理子の分のグラスを差し出す。そこに藤堂が甘めのカクテルを缶から注いで俺が作るよりはまずい、と前置いてから勧める。

「いいからもう、神谷も飲んじゃいなよ」
「そうですよ。飲みましょう。しばらく、表で飲むことも少なかったんだから、今日くらい楽しく飲んだらいいですよ」

二人にそう勧められれば理子も大人しく座って、久しぶりの酒を口にした。もともとあまり強くはないが、総司と結婚してからだいぶ飲みに行く機会も 減って、あまり家では飲まない総司の付き合いでたまに一杯のむくらいで、ずっと飲んでいなかった。喉を通る微炭酸が同じ炭酸でもやはりお酒とジュースとで は違う。

「久しぶりでおいしい」
「だーめ。駄目だね!もう結婚して奥さんになったからって神谷を家に縛り付けるなんて旦那捨てちゃいなよ」
「違いますよ!総司さんはそんなことは言ってませんから!私じゃなくて、周りが気を使ってくるんです」

なんで?という顔で首を傾げた藤堂に原田がぽんぽん、と肩を叩く。理子と同じ年の藤堂にはまだまだ分からないかもしれないが、結婚したとたんに友人が誘いにくくなる、誘われにくくなるということはよくあることなのだ。

まして、男性の総司の方があまり飲み歩く方ではなく、家にいるのに理子の方が飲み歩くのもおかしい。

「だぁってさぁ。総司なんか、神谷と会うまでコノヒト、ひどい生活してたみたいじゃん?沖田さんから聞いたんだけど」
「はいはい。藤堂さん、藤堂さん!」

飲み仲間になってしまえば男同士、何とはなしに話すことも多くなって、いつの間にかであった時代はさておき、お互いのことはだいぶ知っている間柄である。
理子が知らない時代のことも、そこは男同士。

理子が刺される羽目になった一件だけでなく、派手に遊んでいた頃の総司の話は沖田の話と共に、なかなか話題としては豊富なのだった。

「もっとうまい酒が飲みたいならはっきり言ってください、藤堂さん」
「えー。どうしよっかなー。お酒だけじゃなぁ」

まるで、少年同士のじゃれ合いのような掛け合いに理子が笑い出した。原田がまぜっかえすように、俺もうまい酒がもっとほしーい、と声を上げる。

「もう!沖田さんが来た時に、お酒が少なかったらあの人、暴れ出しますよ?」
「いーの。もう沖田さんとこから横流しの酒ってきてないの?まじで?つまんない。そしたら、総司、買ってきてよ」
「藤堂さん、別にかまいませんけど、今は!私の方が年上なんですけど?」
「ちっさ!!これだけ協力してきた俺に、年の話しちゃう?しちゃうの?」

とめどない掛け合いを聞きながら、理子もグラスをあける。グラスに盛ったゼリー寄せとエビを指でつまんで、ぱくっと口に入れる。行儀が悪いが、先ほどまではホスト役で食べていても皆の感想が気になっていたのとは違って、今は単純においしい。

「もー、総司さんも、藤堂さんもやめましょうよ。お酒が足りなくなったら私が買いに出ますから」
「「「それはだめ」」」
「うわっ、三重奏」

三人が全く同時に切り返してきて、思わず笑いそうになった理子に、当たり前だ、ともう一声かぶさってきて、肩を竦める。

「女の人が夜中にお酒、買いに行くなんてありえないでしょ!」
「まったくだ。お前を買いに行かせて、俺らが飲んでると思ってるのか?」
「ちょっとその考え方は直してほしいですね」

三人が三人とも理子に向かって説教を始めると、たまらないとばかりに缶に残っていた酒を全部飲んで、新しいものを持ってくる。

「理子、聞いてます?」
「はい、聞いてますよ。もう……、表で飲むことだってあるし、仕事で遅くなることだってあるのに」

ぶつぶつと小さく言い返していると、そういうことじゃない、とさらにお小言が降ってくる。理子を心配しているからこそなのだが、そのお小言もまるであの大きな北集会所の片隅で、兄貴分たちに囲まれていた時代と全く同じことに誰もなんとも思わない。

―― そっか。今は今でいいのかぁ……。男の人は、……ちょっとうらやましいなぁ

賑やかにしている三人を見て、少しだけ寂しくなった理子は、男にはなれない自分を思い出して、新しい缶をあけて、次の酒を飲み始めた。

 

– 続く –