明日、空が晴れたら 5

〜はじめの一言〜
美味しいところを持っていくのは周りというのもいつもの感じですが。そういう場所で少し早いハロウィンのお話でした。
BGM:僕らの永遠~何度生まれ変わっても
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「神谷さん。明日、仕事ですか?」

あれからぼちぼちと歳也も風邪が治り、一応礼を言っておく、とメールが来てしばらくしてから、総司が言った。休む前に周りをかたづけて、と部屋の中を動き回っていた理子がぴたりと足を止める。

「明日は特に仕事は入ってないです。藤堂さんが久しぶりに会えないかって連絡が来ていたので、顔を会わせてこようかなって」

数日前に届いたメールを思い出して、理子が応えた。仕事が入らなければ構わないと返信だけしておいて、そういえば時間はまだ決めていなかった。当日でもいいかと思っていたのだ。

「あ。それ、私にも藤堂さんから連絡が来てたんですよ。もしよかったら二人でって。一緒に行ってもいいですか?」
「ええ。もちろん」

理子が一人で彼らに会うことを内心ではあまり歓迎していないことを知っていたので、その方が妙な気遣いもしなくて済むと、理子は二つ返事で頷いた。総司に隠れて二人だけで会うような相手でもない。

にこっとこちらも頷いた総司がちらりと時計に目を向けた。

「じゃあ、なんだか珍しく朝からでかけようって言ってましたから、早めに出ますけどいいです?」
「そうなんですか?藤堂さん、朝弱いのに……」

夜の店が終わって帰れば、もう何もしなくてもすぐに朝になってしまいそうな時間である。そんな藤堂の生活を知っているだけに、朝から出かけたいとは珍しい。よほど見たい映画でもあるのだろう、とこれまでの経験から勝手に決めつけた理子は、再び頷いた。

「いつも通りくらいですか?」
「そうですね。もう少し早めの、通勤ラッシュにぶつかるかな、くらい」

そういうと、指をたてて八と数字を作る。
それは確かに二人からすれば早い。会社勤めの人なら職場に向かっているくらいの時間かもしれないが、専門学校やリハーサルやコンサートなどではそんなに早い時間から動くことは少ない。

うっ、と眉を寄せた理子はテーブルの上に置いてあった携帯のアラームをセットする。
起きられるかな、と小さく呟いた理子にくすくすと総司が笑った。

「いつも私よりも早く起きてるじゃないですか。大丈夫ですよ」
「それはそうなんですけど。早いと思ったら緊張してかえって……」

多少の遅れなど怒る相手ではないのはわかっているが、約束は約束だし、総司と共に出かけるというだけでも、少しいつもよりきちんとした格好をしたい。

慌てて、携帯をベッドサイドに置きに行って、ついでに明日着る服をクローゼットから漁り始めた。

結局、服が決まれば、アクセサリーはあれとこれと、といつも置いている場所にあることを確かめて、あれこれと支度をしているとあっという間に日が変わってしまった。
先にベッドに入った総司はもう寝息を立てている。

ふうっと爪が渇いたことを確かめた理子がベッドに入ったのはずいぶんと遅かった。
だが、携帯のアラームが鳴るほんの少し前にはっと目を覚ました理子は、ぱっと携帯を掴んだ。

―― やだ。子供の遠足じゃあるまいし……

我ながら恥ずかしくなったが、二人でデートのように出かけることも久しぶりなだけに、どこかはしゃいでいた。鳴る前にアラームを止めてしまうと、起き出して顔を洗いに行く。

夕べの内に塗り直した爪をみても嬉しくなる。
普段はあまりアクセサリーもつけない理子は指輪とピアスくらいなので、代わりに爪を整えることが多い。時には、ジェルネイルでしばらく持たせることもあるくらいだったが、今は仕事も少ない時期だったので、素のままだった。

「……早いですねぇ。おはようございます」
「おはようございます。早くないですよ。もう七時になるところです」

もともとそんなに朝は食べない二人だったが、なんだか浮かれていた理子は、珍しく朝食らしくテーブルを整えた。トーストに目玉焼きにハムを焼いたもの、ヨーグルト、それにコーヒーが並ぶとさすがの総司も苦笑いを浮かべた。

「あのね。食べられないわけじゃありませんけど、今日はそんなに時間もないので残したらすみません」
「それは全然かまわないんです。なんとなく……。やだ、なんだか一人で浮かれてるみたいですね」

自分の分には紅茶を入れた理子が恥ずかしくなったのか、慌ただしく食事を済ませると、歯磨きを終わらせて化粧を始めた。その間も、ゆったりと食事を済ませた総司が、携帯に入っているメールを見ている。

「理子、待ち合わせの場所が変わったみたいなので、ちょっと電車を乗り継がないとだめですね」
「大変。じゃあ、急ぎますね」
「ああ。大丈夫ですよ。そんなに慌てなくても」

そう言いながら自分も着替えを済ませた総司は、理子が支度を終えると、連れだって家を出た。
当たり前のように手を握って歩いていると、総司自身もなんだか久しぶりの空気に嬉しくなる。二人が仕事に向かう頃には朝のひんやりした空気ではなく、温 まった日差しになっているが、こうして通勤時間帯に駅に向かうと、そろそろ肌寒くなってきた空気に皆、背を丸めるようにして足早に歩いていく。

「私達くらいですね。こんな風に呑気に歩いているの」
「そうですねぇ。たまにはいいじゃないですか。そういえば理子はあまり満員電車って乗った事ない?」
「ほとんどないかも……。学生の時も流れが逆だったし……」

そう言いながら改札を抜ける。どこまで行くのかは知らなくても総司がわかっていればいい。一緒に、改札を抜ければ、こっちだと言われるままに電車に乗る。せめて通勤者の邪魔にならないようにしながら、乗り換えていくと、ビジネス街さえ通過して東京駅で降りた。

「先生?」

どうして東京駅かと思った理子にまだ乗り換えるのだと言った総司は構内を先に立って歩いていく。その路線に、まさかとは思いながらも、問いただすには周りにサラリーマンが多すぎてなかなか話もできないまま電車に乗った。

快速に揺られていくと、川を越えて朝の陽ざしに照らされた場所が見えてくる。ここまでくれば間違いない。

なんで、という気持ちと、嬉しいようなくすぐったいような気持ちで、駅に降りると先に立って歩いていく総司の顔もちらりと理子をみて笑っていた。

「先生!ずるい」
「なにが?」
「行かなくていいって言ったじゃないですか」

ようやく電車を降りてから呟いた理子に、改札を抜ける手前で振り返った総司が立ち止まった。邪魔にならない様に脇によけると、少しだけ恨めしそうな顔で理子が見上げる。だが、総司は涼しい顔でさらりと流した。

「ええ。言われた通りにその日は仕事ですし、休みもとってませんよ?」

再び理子の手を引いて改札を抜けると、日差しの下で藤堂と歳也、それに斉藤が夫婦で待っていた。

「藤堂さん?!あ、斉藤さん達まで!歳也さん、その格好で……」
「総司から聞いたんだ。クリスマスだったらデートだろうけど、ハロウィンならパーティじゃん?だったら一緒に行こうってことになってさ」

それぞれに挨拶と、声を掛け合っていると、ぐいっと理子が頭を掴まれた。スーツ姿なのにネクタイを外して襟元を崩している、どう見てもその場に不似合いな格好をしている人物にである。

「俺の服装に何か問題でもあるのか?」
「ものすごく違和感が。場所と」
「問題ないだろ。どうせホテルも取ってあるしな」
「えっ?!」

驚いた理子に、慌てた藤堂が違う違うと両手を上げた。
それぞれのカップルはカップルで部屋を押さえてある。情けないのは歳也と一緒に泊まる藤堂くらいだ。

「俺はさ、もうしょうがないから諦めるけど!明日の朝はキャラクタ―と一緒にご飯だよ」
「嘘っ!」

これまであまり興味もなかったのでそんなサービスがあることも知らなかった理子は口元を押さえて目を丸くしている。驚きました?と、総司に覗き込まれた理子は思いがけないサプライズに笑い出した。
ポリポリと照れくさそうな顔をした総司の顔をみれば、ますますおかしくなる。

「私も実は初めてなんですけどね。藤堂さんや斉藤さんは来たことくらいあるって言いますし、何も知らない私達だけより、人数も多い方がいいでしょう?」
「馬鹿。俺だって来たことくらいある」
「あっても歳也さんは夜の女性同伴でしょう」

そういうと、藤堂がそれぞれに向かってチケットを差し出して、可愛らしいキャラクターの印刷されたチケットを理子受け取った。

「じゃ、いきましょうか」

総司と共に理子を間に挟んだ藤堂が、皆に向かって次々と説明を始める。まさか、こんな顔ぶれで来るとは思ってもいなかった場所だけに、思い思いにその時間を楽しんだ。

「じゃっ、女性連れはこっちで一休みしてもらうとして、歳也さん!スプラッシュ行こうよ!」
「ばっ!!俺はそういうのは嫌いなんだよっ!!」
「ええ~?!まさかコワイの?!鬼の副長が?!」
「うるせぇ!!」

―― ……・・・

 

– 終わり –