夜天光 14

〜はじめのお詫び〜
えーと、本編はダークを通り越してそりゃ、鬼畜じゃね?という内容が含まれております。
デフォの総ちゃんファンの方、そんなのありえねーという皆さまはここで引き返すことをお勧めします。
BGM:Celine Dion BECAUSE YOU LOVED ME
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聞きたくて、聞きたくない。

「……やめてください。今何を聞いても過去は過去なんです。私はセイじゃありません」

絞り出すような声で理子が懇願する。何度も思った、どうして、という訳を聞きたくて、聞きたくなくて、聞いたら又暗闇に引き戻されそうな気がする。

「病に冒されたとわかってから、私は貴女に傍にいてほしくて、貴女にいつ病を移すかわからない恐怖に日々苦しんでいた」
「……やめてください」
「どんなに傷つけても、貴女だけは生きていてほしかった。私が守れる最後のことだから」
「……もうやめて。今何を言われても……っ」

ぱたっ。

理子の膝の上に涙が零れ落ちた。

「でも、本当は最後の瞬間まで一緒にいたかった。貴女を共に連れて逝きたかった」

堪えられなくて、理子が立ち上がった。バックを手にして玄関に向けて動いた理子の腕を総司が掴んだ。

「待って。行かないで」

腕が痛むほど強く理子の腕を掴んで、総司は振り絞るように言った。

「どこにも行かないで。傍にいて」

腕を掴まれて立ち止まった理子が振り返った。涙に濡れた目が総司の目とぶつかった。
あの時、セイが何度も願ったことを今、総司が口にするなんて残酷なことはない。

「そんなのっ……」

理子は力いっぱい総司の腕を振り払った。

 

どこにもいかないで。

それは、かつてセイがどれだけ叫んだか知れない言葉。

置いて行かないで。
どこにもいかないで。

泣きながら何度も願った事を、総司が口にするのか。心の中のセイの慟哭が、口をついて出てしまう。

「……酷い……っ!」

あの時、セイを置いていった総司は今の総司と違うことを頭は理解していても、お互いにその記憶を持っている。その人が、今の理子にそれを言うことがどれだけひどい事か、わからないのだろうか。
振り払われた腕に、自分の失言よりも総司の中で、セイを求める心の方が強かった。

「貴女に会うために……」
「貴方、じゃない……」

理子の中で昇華したと思っていた闇が怒りになって吹き出しそうだ。どこにぶつけていいのかわからない怒りがこみあげてきて、理子の心をかき乱した。
震える手が怒りのままに総司を殴ってしまいそうで、掴まれた自分の腕を握り締める。

理子を前に総司を包むのはこのまま離れたら二度と会えないかもしれないという、焦燥感だった。

どれだけ最後まで共にいたかったか。

最後に振りほどいた手の温もりと笑顔だけを想って最後の時間を過ごした自分が、何も知らずにいた時間にセイの身に起きたことを知った時。

自分の中に眠ってきた“沖田総司”という自分が、深い闇に突き落とされた。

夜中に目覚めた総司を呼んだ、セイの刀が滑り落ちたのは、セイの最後を伝えるためだったのかと思うと、叫び出したいくらいだった。

どれだけ幸せになってくれと願ったか。
どれだけ幸せにしたいと願ったか。

それができないと知った自分とセイの最後を知った今の自分が、今も苦しんでいる。

ふとした仕草も、慌てる姿も、繋いだ手も、動揺して、そのまま抱きしめたくて、みっともなくても情けなくても再び出会えたのに、またこの人を失うのかと思った瞬間、堪えきれなくなった思いが。

帰ろうとした理子を、思わず抱き締めてしまった。

―― お願いだからいかないで。傍にいて。

 

 

– 続く –